忘却
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「たくッ!またやらかしやがったのかあの女?」
「へい…戦いの時にまたイカれやがって…二人やられました。なんとか海楼石の首輪を嵌めて痛めつけてやりましたが…いつもの仕置き部屋にいます。」
一仕事を終え、とある海域を航行していた海賊船の船内で部下の報告を聞きながらガタイの良い船長がイラつきながらたっぷり蓄えた口髭を弄りながらその部屋に向かっていた。
バンッ!
イライラを発散するように乱暴に扉を開けると、部屋の隅で小刻みに震えながらうずくまっている緑髪の女がいた。右のほおと体の所々が殴られた時に出来たアザで腫らしており女は体育座りでうずくまってぶつぶつと何かを呟きながら床に手を…いや人とは思えぬ大きな翼をついて塞ぎ込んでいた。
「またやりやがったなテメェ…?お前が自然(ロギア)系じゃなかったら今頃俺たちにたっぷり可愛がりながらなぶり殺しにされて海に捨てられてるところだということを忘れ…おい!聞いてんのか⁉︎」
ガッ!
男は無駄だと思いながらもした説教を無視する女に苛立ち、髪の毛を乱暴に掴んで顔を上げさせる。
「…めんなさ…い…若様…シュ…ガー…ごめんなさ…」
ブツブツ…
だが、女の目に光はなく死んだ目をしながら意味が分からない言葉を繰り返し発し続けているだけだ。
「ちッ!」
ベシャッ!
「ギィッ⁉︎」
男は話すだけ無駄だと悟ると、女をそのまま床に放り投げ、いつものようにポケットから取り出した飴玉を床に放り捨てた。
カランカラン…!
「あ…あぁッ⁉︎アムッ…チュプ…!」
飴玉は床の埃と泥で汚れたが、女はそんなことは気にせず、飴玉に這いずり床に這いつくばったままその汚れた飴玉を味わうようにゆっくりと舌を這わせながら床ごと舐めるのを気にせず舐め出した。
その光景を床で死にかけのドブネズミを見るような目をしながら男は思い出す。
この女を拾ったのはパンクハザードという島で騒ぎが起きた事件から1ヶ月以上経った時だ。
新聞を事件を知った彼らは、ほとぼりが冷めてから金目の掘り出し物がないか島に上陸し、廃墟の施設を漁っていたところ、倉庫にあった大量の飴玉と通信室の片隅で飴玉の袋を廃人同然にうずくまってるこの奇妙な女を見つけたのだ。その周りの床には、倉庫にあった飴玉の袋がいくつか散乱していた。
当初はたっぷり部下たちと楽しんだ後、海に沈めるなりヒューマンショップに売り飛ばす予定だったが、最初にお楽しみをしようとした部下が氷漬けにされ殺されたことで状況が変わった。女が弱りきっていたことと海楼石の首輪を近くに置いていたことですぐに拘束し事なきを得たが、調べたところ悪魔の実の中でも特別強力と言われる自然系の能力者であることがわかった。目覚めた女は発狂しながら飴をよこせと騒ぎ出し、試しに与えてみると女はおとなしくなり従順になるのを見て、男はニヤリと笑い利用することを思いついたのだ。
実際この女は強く役に立ったが、時折こうしてイカれてしまい、定期的にこの怪しげな飴玉を欲するのが玉に瑕だ。
とりあえず飴玉はまだある。まだこの女が利用価値があるうちはその身体を含めて楽しむつもりだ。
「お前は俺たちのものだ?分かったな…?」
そう思いながら床の飴玉を舐め続ける女の頭を軽く踏みつけながら従わせるのだった。
惨めだ…
飴玉を舐め続ける女は頭を踏まれながら心のどこかでそんなことを考えていた。
奇跡的に生き延びた後、あの島に身を隠しファミリーとの合流を考えていた。だが、たまたま拾った海軍の通信で過酷な生活から救ってくれた若様と大切な妹がいるファミリーが敗北し壊滅したことを知ったとたん、心の何かが崩れ去った。
気がつけば子供達を騙して与え続けた飴玉を貪り、何もかも忘れようとして自分を壊し続ける日々だ。
そして今ではこんなところで下劣な男たちのいいように能力も身体も使われて続けている…
女の目から一筋の涙が流れるが、女にはもうどうでも良かった。
ただ辛い現実を忘れたい…
何もかも忘れたい…
男に足で踏まれ汚い飴玉を舐めながら女はそのまま床に額を打ち付けるようにうなづきながらまた全てを忘れるのだった。