忘れ去られた顔
「あンのアホコック、どこに行きやがった!?」
スターチスの繁華街でゾロがさまよっていた。
「…ったく、何でみんなどっか行くんだよ」
一人ため息をつく。ここに立ち尽くしても仕方ないので彼は街中を徘徊…否、探索することにした。
煙が絶えない街だからなのか、辺りの雪は灰を被ったかのように黒ずんでいる。商店街には野菜や花は売っておらず、代わりに造花が何十ベリーと安い値段で大量に売られていた。
(本当に植物ってものがねェんだな)
ゾロはこの荒廃した街をざくざくと進んでいく。
途中で干し肉を売っている店を見かけた。よく見ると高価な値段で売っている。こんな値段であればナミが黙っていないだろう。
ふと、ある違和感に気づいた。
(何で誰もおれに気づかねぇんだ…?)
自分は四皇の片翼であり、最悪の世代の1人でもある。素顔で歩いては真っ先に通報されるため、新世界に突入してからは人の住む島に上陸する時には変装するのが殆どであった。しかし、この街では変装をせずに歩いても誰ひとり「海賊狩りのゾロ」として自分に怯える人間はいない、周りが気づいていないだけなのだろうか。
しばらく進むと道が開け、広場のような場所へたどり着いた。そこでは子供たちが遊んでおり、彼らの憩いの場のようである。
ゾロはあるものに視線を向けた。
ちょうど真ん中に3mほどの細長い黒い石碑のようなもの―それは墓標にも見えた―が立っている。
広場のオブジェクトにしては質素であり、それが返って異質な雰囲気を醸し出している。まじまじと見ていると何者かが声をかけてきた。
「あんちゃん、慰霊碑が気になるのかい?」
振り返ると粗末なコートを着た老人の男性が立っている。
「慰霊碑?ここで何かあったのか?」
ゾロが問いかける。
「見ない顔だな。お前さん、ここの島の人間か?」
「いや」
「道理で知らないわけだ」
老人は少し間を空けて語り出した。
「…26年前、この街は火の海に包まれたのさ」
「火の海…?」
「当時このスターチスで大規模なお祭りがあってな。それに釣られたのか四皇に最悪の世代、クロスギルドの座長らがやってきたのだよ。わしは当時の海賊について名前ぐらいしか知らんが、とにかく世間を震わせていた海賊がごまんと来ていたそうじゃ」
「そうなのか」
「だがタイミングが悪かった。ちょうどその時に海軍もこの島におってな、ここで捕縛しないといけないと思ったのか躍起になってな。気づいたら海賊と海軍の全面戦争じゃ」
「…!?なんだと…」
「わしらは隣町のコルチカムと言う街の郊外に避難していたから詳しいことは分からないが…とにかく酷かったそうじゃ。海軍も海賊も何人死んだか分からん、街は死体で埋め尽くされていて大変だったわい」
コルチカム、確かウソップ達が探索している地域の名前だとゾロは思い出す。
「…まさかじいさん、その光景見たのか」
「街の復興や処理を手伝わされたからの。海軍も壊滅状態だったから市民の手を借りるしか無かったのじゃ。海賊側も殆どが壊滅、全滅したものも沢山おった。まともに生き残ったのは数える程だった」
「……!」
「だから、これはもうあんな悲しいことがないように刻むためのものなんじゃ」
そう言って2人は慰霊碑を見る。ふとその下を見るとある言葉が刻まれていた。
どうか安らかにお眠りください