忘れた頃のシャンブルス(Season2)③

忘れた頃のシャンブルス(Season2)③


前:忘れた頃のシャンブルス(Season2) ② – Telegraph

※本当にネーミングセンスが死んでいるがお目汚しならそこだけ飛ばしてくれたら嬉しい





海軍基地は恐慌状態に陥った。

何せ数㎞先の山奥で「四皇」とその右腕(一応その認識は間違いではない)が見つかったと思えば、突然基地南側の正門一帯が吹き飛ばされたからである。これを恐るべき事態と言わずして何を恐れるべきだろうか。近年は海軍将校から海兵まで市民や暴漢に狙われる時代なのだ、日頃からたまっていたフラストレーションと緊張はまるで弦が切れたように一気に恐慌状態に変わった。

さて、ここにももう1人、事態を飲み込めず呆然としている者が1人。


ロー「おい、何があった・・・おぉ」


実は例の破壊光線が牢獄塔を掠め右半分を丸々と抉り取ったのである。ギリギリドア一枚隔てられていたお陰で生き延びていたローはそのドアを開くとあるはずの部屋がなくなっていたので度肝を抜いた。お陰でやけに風通しの良くなった囚人用個室トイレにて座り込むしかなくなっている。便意も立ち消えてしまった。


ロー「おい、誰かいねぇのか!」


せめて状況くらいは知りたいのだが、全身に当たる風の強さと警報のけたたましさによりその声が聞こえることはない。否、寧ろ返事をする者ももう・・・・・・


ゾロ(サンジ)「おっと、失礼・・・用足してたのか」

ロー「ゾロ!」


と思えば横から声が。視線の先には何故か空中浮揚ができている我等が剣豪。


ロー「お前、ついに飛べるようになったのか」

ゾロ(サンジ)「マリモ野郎じゃねぇ、おれだ!サンジだ!二度とあんなヤツと間違えんなクソが!」

ロー「そんなことは良い、今何があった」

ゾロ(サンジ)「あー、バカが色々と吹っ飛ばした隙にお前を救出する運びになった。オラ、帰るぞ」

モネ(キング)「早くしろ。そろそろおれ達の侵入がバレてもおかしくはない」


見ると南側に集まっていた海兵達があちこちに散らばっている。塔の付け根辺りにもわらわらと集まってきているのがわかる。よく見ると海楼石製の砲弾を撃ち込もうと大砲を既に用意してあったり、機関銃や装甲車も持ってきている。こうなってくると相手取るのも面倒なので早々に退却した方が無難だ。


「動くなーっ!少しでも動いたら発砲するぞ!」


普通の海軍なら問答無用で撃ち殺そうとするものだが、どうやらここは良くも悪くも強硬手段をとるのは最後の一手らしい。古参の2人にとっては、何処ぞにいるであろう煙を操る筋金入りの海賊嫌いな海軍中将を彷彿とさせるような文言であった。しかしそんな忠告に従う義理はないので、早々に立ち退かせていただく。


「撃て、撃てー!」


激しく、ギラついたサーチライトの光と銃弾が飛び交う月夜を、3人は駆ける。「一味」の中でも身の軽い3人が集まっているのだからそれこそハヤブサでもない限りは捉えられない。銃弾を容易に交わし、ひらりひらりと、白く優しい光に包まれ飛んで行く。


一方、地上では2人と1匹(見た目はジャッカルなので1頭でもある)が敵意と注目を欲しいままにしていた。


ルフィ(モネ)「もう、この体使いにくいのに・・・キリが無い」

サンジ(チャカ)「2人とも、無事か?」

チャカ(ドラゴン、変化中)「(>_<)」


モネは基本的にヒット・アンド・アウェイこそが本領となる。己が体力面において不利がちであることを熟知しているが故の戦法だが、今自分の体は鉄砲玉の如く押して押して押しまくるアタッカータイプなのだ。太陽神の力は勿論ゴムの様に体を動かすことなど容易に非ずして、現在囲まれてしまっている。

ドラゴン・・・というより現在はジャッカルなのだが、彼(彼女?)も使い勝手の悪い体躯に四苦八苦しているようだ。苛立ちが激しくなっているのか、荒い呼吸音が目立つ。飛ぶことができないため、上下に動く幅の自由さがなくなってしまったことが大きなディスアドバンテージとなっている。

となるとチャカも苦戦・・・・・・しているわけではなかった。


サンジ(チャカ)「フム・・・こんなものかな?」


背後から剣を持って襲いかかる相手の一撃をよけ、そのまま軽やかに体を崩す。手を地に付け、それを軸に開脚しながら横に1回転。一斉に2人と1匹を囲む海兵達をなぎ倒した。まるでサンジ本人が繰り出す広範囲技、「パーティテーブルキックコース」の忠実な再現だ。その鮮やかな足技に、モネもドラゴンも、そして海兵達も唖然としつつもその美しいとも言える身のこなしを見つめるだけだった。


サンジ(チャカ)「いや、これは粗悪な模倣だな。彼には到底及ばん」

ルフィ(モネ)「貴方・・・肉弾もいけたの?」

サンジ(チャカ)「こう見えて元はビビ様の護衛でね、少しは動けなければお役に立てなかったのでな!」


サンジ(チャカ)「・・・射輪流摩(シャワルマ)!」


そのまま勢いに乗り縦に2回転、強烈な蹴りを入れる。その威力はサンジ本人に及びはしないが一般人である海兵の群れを薙ぎ払うには十分なもので、特に強打してしまった中将であろう男は昏倒した。モネはその才覚を少しだけ恨めしく思った。



「た、助けてくれ!頼むよ、同じ海賊のよしみだろう?」

「おれも力になれるぜ」

「この鍵があれば、海軍の金庫からちょろめかすこともできる!」

「お前等「四皇」なんだろ、おれを仲間に入れてくれよ!おれは懸賞金10億だぜ」


(あぁ、そうだった。これがおれにとっての海賊・・・いや、人間だった)


キングは忘れていた過去の感情を思い起こしていた。ただ、それは酷く不快なものだ。この下卑た表情、まるで良心にしがみついてなお、それを貪ろうとし、その汚らしい精神をかくすようなこともしない声色、そして大した実力でもない癖に自らを売り込もうとするその浅ましい魂胆。かつての恩人といた流浪の旅路で、こんな輩達を何人も見てきた。最初何度か騙され、いつしかこんな声には耳を傾けることもなくなった。所詮人間はその程度なのだ。


「なぁ、良いだろ?おれ達、ここまで逃げて来れたんだ」

「しかし、流石は“麦わら”の幹部だな・・・イイ体してんぜ」

「な、後で良いことしてやるから・・・な?」


モネ(キング)「・・・黙れ」


彼を中心に、一瞬にして銀世界が出来上がった。氷点下の世界が山頂から広がる。木々は白く枯れ、周囲にいた脱走者達も無惨に氷像と化し、気温も下がった。モネが基本的に殺生に抵抗感を抱く側の人間であることは、キングの目からすれば明らかなものだった。必ずしも殺す必要がないのなら、相手の心を砕くまでで留める。一線を超えることは滅多にない。そのため、能力の効用も「優しく」なる。


だが、この男は違う。優しさなど捨ててきた男だ。


モネ(キング)「テメェ等如き、ウチには寧ろ邪魔でいらねぇんだよ。ここで死ね」


ー豪雪越山降卒塔婆(ごうせつえつざんおろし)。


右手に雪を集め、簡易ではあるが太刀を形成する。その鋭く冷たい一刀を、勢いよく地面に突き刺した。氷点下の世界に一瞬にしてひびが入った。そのひびは結晶を形作るように瞬く間に広がり、そのまま割れて砕け散っていった。後には季節外れの、しんしんとした雪が少し降るばかり。この間数秒の、静かで真っ白な一撃である。


ゾロ(サンジ)「モネちゃんの怒り顔も綺麗だな~~♡・・・ま、中身アイツだけど」

ロー「まさか行方を眩ませるために地上に降りたら、他の脱獄囚と出くわすとはな」

ドラゴン(ドレーク)「流石、容赦がないな」

モネ(キング)「なんだテメェ等、てっきり殺人の光景なんて見慣れてないと思ったが」

ロー「バカ言うな、おれは散々見てきた」

ドラゴン(ドレーク)「今更だろうそんなこと・・・しかし、お前もすっかり我々を信頼しているのだな」

ゾロ(サンジ)「な、あんなキレ顔初めてだ。中身が野郎なことだけが残念だが・・・」

モネ(キング)「うるさい、さっさと行くぞ」



さて、一同がそれぞれサニー号の下に戻ってきたは良いものの、向こうはいよいよ数で押し切ることにしたらしく、見れば軍艦まで取り寄せているのだからその執念と任務への忠実さにカイドウは内心感心していた。まぁアイツらなら大丈夫だろう、と優雅に寝ていたがこうなると安眠妨害は避けられない。そろそろ運動でもしようか、と安閑としながら立ち上がる。先日でも、哀れな囚われの姫(すね毛ボーボーの目つきが悪い船医)が、起きてからの軽い運動は体に良いと述べていたのを思い出した。(勿論ストレッチのことである)


カイドウ(ルフィ)「お~~~~い!」

キング(ゾロ)「チッ、もう包囲してやがる。面倒くせぇな」

サンジ(チャカ)「よし、船は無事だ!」

ルフィ(モネ)「ルフィ、やっぱり飛ぶことはできなかったのね・・・」

チャカ:ジャッカル型(ドラゴン)「♬」


続々と仲間も戻ってきている。ここで景気よくもう1発撃ち上げるか、と構えた瞬間である。


「天岩戸」


刹那、カイドウは振り返り右手をかざした。本来の巨大な体躯でもギア5の奇想天外な動きについてこれるポテンシャルがあり、しかも現在は身軽(あくまで比較しての話)なドレークの姿なので対応が素早かった。右手一つで反対方向から突如現れた光線を打ち消し、その爆発と硝煙の中から怨敵の姿を見出した。


ドレーク(カイドウ)「テメェは・・・!」

ボルサリーノ「久しぶりだねぇ、ドレーク元中将・・・随分と血気盛んじゃないかい?」


海軍本部より、総帥、元帥に次ぐ大将の到着である。先の大戦(なお、今後の乱世が加速し発展した世界大戦に比べるとそれでも小規模だが)による被害をすぐに修復し、行方を眩ませやすい「麦わらの一味」追跡に乗り出したのである。


ボルサリーノ「どうやら君達の船が向かう先からしてエッグヘッド島方面かと思ったんだけど・・・合ってて良かったよ」

イッショウ「これ以上は進ませられねぇんです・・・お覚悟」


モネ(キング)「またお前等か・・・」

アラマキ「まぁそう言うなよ姉ちゃん。大人しくするんなら命までは取らねぇさ」


合流の遅れたロー救出班もまた、包囲下にあった。何より重大な事態を引き起こしているのは海楼石の存在である。海軍は海賊の能力者捕縛のためにこの自然によって生み出された鉱石を研鑽し、その技術を高めていた。この周囲を取り巻く煙幕。一種の化学兵器とも言えるこれは、ふんだんに海楼石の成分を含み、かつ一般人や環境への被害が抑えられるように改良された「ビアンコⅦ」である。近年かのベガパンクによって開発された。


アラマキ「結構効いてんだな・・・・・ガスマスクつけてて良かったぜ」


キング、ドレーク、ロー・・・彼等は能力者の体に変わっている以上、無力に等しかった。順調に進んでいた脱出劇も万事休すとなった。


(続く)





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