忍者の末裔の視界
(ブルーロックの説明が始まる前のみんな集まってる段階の時間軸)
ただならぬ気配を感じた。
乙夜影汰は壁に背を預けてスマートフォンを弄るのを中断し、顔はやや俯かせたまま目の動きだけで周囲の様子を伺う。
ルーツを海外に持つ邪悪を血筋に秘めている者、守護霊と呼ぶには神々しい存在に守られている者、本物のUFOを目撃した時に見たオーラと似たような雰囲気を纏っている者、本人は人間だろうがあからさまに神性の何かから求愛のマーキングを付けられている者、イマジナリーフレンドと称するにはあまりにも独立している霊的な人型と連れ添っている者……エトセトラ。これらは稀少だが先程チェック済みの人材だ。
ならば生唾を飲み込みたくなるような今しがたの不穏さは一体。
忍者の末裔たる乙夜の索敵能力でのみ捉えられたであろう微弱な発露ではあったが、今人の皮を被った格の高い人外が精神の揺らぎから中身の存在を僅かにこぼしてしまった時の様子が読み取れた。
ということは、だ。
この中には八百万の神々の庇護を受けているとか愛されているとかには収まらない、人間のフリをして実体で生きている神そのものが混じっている。
(えぇ……忍者じゃなくてサッカー選手として呼ばれてたよね、俺。サッカー協会からの手紙だったよねアレ)
あまりにもオカルト方面での才能が豊かなメンツに加え、どういう経緯か神様まで紛れ込んでいる。
あまりの事態に乙夜は数日前に自分が受け取った手紙の内容を思い返すが、やはり何度そうしても確かにあれはサッカー協会からの招待だった。はずだ。たぶん。自信が無くなってきた。
末裔と言えど忍者としての修行は受けているが、流石に神様とタイマン張ったことはない。むしろ家柄的には神も仏も崇めているほうだ。
(……まあ、サッカーのイベントならいきなり除霊の仕事とか入ったりしないでしょ。神様は球蹴りしちゃいけないなんてルール無いし? うん、良いや。なんも分からなかったことにしよっと)
持ち前の鋭さから視界の端にいる黒髪の少年が気配の主であると当たりをつけそうになった寸前、面倒ごとに巻き込まれまいとその探知を自ら打ち切って、乙夜は再び携帯端末を触り始めた。
謎解きなんて労力のかかることは、そもそも謎に気付かなかったことにすればやらずに済むのだから。
これぞ忍者の処世術。ニンニン。