必勝仕事人1/2
Nera白い雲、青い空、そして全てを照らしてくれる太陽。
まるで海軍のイメージを明確化しているようである。
そんな平和な日常を感じられる夏島に2人の男女が訪れていた。
「あーお腹空いた」
「さっき喰ったばっかりじゃない」
麦わら帽子を被った青年が空腹の影響かフラフラと歩いていた。
直射日光を避けるために白い外套を身に纏ったせいで余計に目立っている。
その後ろで見守る様に付き添っている女は呆れた様な顔をしている。
2時間前に文字通り腹が膨れるほど食べたのを知っていればそうなる。
男とお揃いの外套を纏った女は、疑問に思った事を単刀直入で質問した。
「別に食べるのはいいけどさ。あんた、金あるの?」
「ない!!」
無邪気な少年の面影が残る幼馴染の返答は予想通りだったのか。
白色の帽子を被った女は、溜息を吐いて肩を竦めて大空を見つめた。
今日は快晴で僅かに白い雲が見えており、何事もない平和な感じがした。
日差しが眩しいのを除けば心地良い島だとも思えるほどだ。
「……なんでこっちを見るの?」
「ウタならお金持ってるだろ?」
「私を金蔓かなんかと思ってない?」
「思ってない!だってウタを信じてるからな!!」
心が少しだけ安らいだウタは視線を元に戻すと幼馴染の視線を感じた。
思わず理由を問えば、いつも通りの返答がきたので釘を刺した。
一方、青年は盃を交えた義姉ちゃんならなんとかしてくれると期待している。
現に目を輝かせており、立ち止まって弟分らしく甘えていた。
「まあ、今回は特殊だからね。肉を奢ってあげるわ」
「やった!!」
「でもルフィに注文する権利は無いからね!!」
「ええ~~!!」
「なに驚いてるのよ!!好き放題選ばれたら破産しちゃうわよ!!」
なんだかんだでウタは、ルフィに義姉ちゃんムーブで接する事が多い。
なので、甘えてくる義弟を突き放す事ができず、ズルズルと引き摺ってしまう。
だからといって一文無しになるのは嫌なので注文自体は彼女がやるつもりだ。
ルフィはそれを口では嫌がっているが、本心では申し訳ないと思っている。
「ウタが破産したらどうするんだ?」
「あんたの所で一生お世話になるわ」
「やっぱ、おれが注文してもいい?」
「ダメ!!」
「ケチ!!」
暗にルフィとの同棲生活を認めた女は、予備の財布の中身を確認した。
こういう時の為に所持しているのだが、何かしらの出費があるのが頭痛の種だ。
どうにか出費を抑えたいものの…やはり習慣というのはすぐには治せない。
「晩御飯までの腹の足しくらいならなんとかなりそうね」
「じゃあ、よろしくお願いします」
「変に改められても困るんだけど」
「ゴチになります!」
「少しは遠慮しなさい」
長年付き添った夫婦のようなやり取りをする男女。
これだけなら目立つが、ここはリゾート地。
いくらでもカップルや夫婦などそこら辺で生えているので気にされない。
とりあえず言いたい事を言い切ったウタは外套の右ポケットに財布を突っ込んだ。
そしてどの店にしようかと立ち止まって辺りを見渡した。
「あだ!?」
「ゴメン!!急いでるんだ!」
立ち止まったせいなのか、ウタは後ろから走って来た少年にぶつかった。
無様に尻もちをつくことはなかったが、何とも間抜けの様な声を出してしまった。
これには、ウタは少しだけ恥じたが、ルフィには意図は伝わらなかった。
ちなみに緑髪の少年は振り返りをせずにそのまま路地裏へと消えていった。
一応、謝罪の言葉を口にしただけマシと言えよう。
「大丈夫か?」
「全然、大丈夫じゃないわよ」
「なんで?」
「財布盗られた」
「なんだと!?」
ルフィがウタを心配して声を空けたが、彼女の返答は最悪の事態を知らせる。
すぐさまルフィは、見聞色の覇気を発動して盗人を探し出そうと試みた。
肉が喰えなくなるのもあったが、ウタに危害を与えた奴を許せなかったのだ。
「なんてね!私がそんな無様な失態を犯すと思った?」
「え?でも今、財布を盗られたって…」
「あれはダミーの財布。本物は袖の中にあるのよ」
さきほどポケットに仕舞ったはずの財布をウタは袖から取り出した。
これにはルフィもびっくりだが、それでも盗難に遭ったのは間違いない。
「どっかに海兵とか居ねェか?」
「用心棒とか傭兵、荒くれ者は居そうだけど、ここには海兵は居ないわ」
「え?でも…」
「ここには海兵は居ない…そうだったでしょ?」
盗難事件が発生したら海兵か憲兵に通報するのは子供でも知っている。
さっそくルフィは、それを実践しようとするがいきなり出鼻を挫かれた、
そもそも自分たちの目的を考えればそんな事などしてられない。
「よし、肉を喰いに行こうか!」
「少しはダミーの財布と少年を心配したら?」
「ん?なんであいつまで心配しないといけないんだ?」
さっそく腹を肉で満たそうと思ったが、ウタの発言でルフィは1つ疑問に思った。
なんで盗人の心配をしないといけないのかと。
「どう見ても捨て駒よ。おそらく弱みでも握られているんでしょうね」
「じゃあ何で財布を盗ませたんだ?わざとか?」
「あら?ルフィがそこに気付くなんて意外!」
「なんだと!?」
わざわざ繁華街で窃盗をするなど小物以外居ないだろう。
なんなら商店を開いてぼったくりの商売で稼いだ方がお得と言える。
そもそもスリが稚拙だったので窃盗犯の裏で指示役が居ると考えて良い。
…なんて事をルフィに告げても意味がないのは分かっている。
なのでウタは、盗まれた財布について彼に語る事にした。
「さて、盗まれた財布なんだけどさ。ちょっと細工をしてあるの」
「ふーん、何があるんだ?」
「決められた手順を踏んで開封しないと赤い煙が出るの」
「よく煙を入れられたな」
「簡単に言えば化学反応で発生……開けたみたいね。あそこで赤い煙が出ている」
盗まれた財布について語っている最中に赤い煙が路地裏から見えた。
ルフィは視線で「どうする?」と促すと彼女は頷いて笑った。
「行ってみる?」
「おう!!」
この質問は不要だったかもしれない。
だが、ルフィに話や行動の主導権を握らせるためにウタはあえて発言した。
そうしないと、いつまでも自分にべったりになってしまうから。
「おいおい!!これはどういう事だ!!」
一方、路地裏の奥にある袋小路では、屈強な男たちが少年に詰め寄っていた。
盗んだ財布を受け取って成果に期待したら赤い煙が噴出したのだ。
まるで自分たちの居場所を通報されたようでご立腹であった。
「な、なんで!?確かにそこの財布にベリーがあるって言ってたのに…」
スリを行なった少年は顔を青ざめてブルブルと震えている。
当然、そんな言い訳で納得しない無頼漢たちは武器を持ち始めた。
「これはケジメを付けてもらわないと困るなァ~!!」
「手の指じゃ足りねぇな!!」
「ぎゃっはっはっは!!お頭も悪趣味だな。さっさと殺しちまえばいいのに!!」
リーダー格のモヒカン男が舌を舐めずりして少年に得物を見せつけていた。
2mほどもある巨漢に匹敵する長巻の刃は、血を望むように怪しく光る。
少年は逃げ出そうとしたが2人の子分に退路を塞がれてしまった。
「ああっ…!」
少年は人生が詰んだと嫌でも実感する事となった。
ガタガタと震えて両手を組んで跪いて許しを請う事しかできなかった。
「なんだその真似?おれらに喧嘩を売っておいてそれはないだろ?」
「ぎゃはははは!!さっさと殺してズラかろうぜ!!」
「あの世で後悔するんだなァ!!“脳天撃滅”!!」
子分たちは下品に笑いながら悲惨な殺人現場の目撃を望む。
そのお望みを叶えようと巨漢は長巻の刃を少年に向けて振り下ろした。
「“鉄塊”」
白い外套を纏った人物が少年を庇うように合間に割り込むと何かを呟いた。
そのせいで振り下ろされた刃は、新たに出現した人物の胴体に激突する。
少年や悪党たちは、その人物は刃が直撃して死んだと一瞬思った。
しかし、「バキッ!」という音と共に刃が折れて地面に転がった。
「は?」
長巻の間合いに誰かが割り込まれたのもそうだが、刃が折れるのは想定外である。
思わず戸惑いの声を漏らす巨漢であったが、次の一手を打つ事はできなかった。
「“JET銃”!!」
「ぶほっ!!」
更に出現した人物から高速で放たれた拳は、激痛で巨漢を気絶させた。
壁に叩きつけられた哀れなモヒカンからは噛ませ犬のような惨状が見える。
「野郎!!ほげえっ!!」
親分の強さを知ってる子分は呆然としていたが、すぐに怒りで飛び掛かろうとした。
だが、遅すぎた。
その隙に長巻を拾った人物は、柄で子分の股間を強打した。
「ぶちゅ」と嫌な音と共に激痛に悶絶したのか無言で男は地に伏せて痙攣した。
「えっ!ごふっ!!」
残った子分は、何が起こったか分からず去勢された同胞に意識を向けられなかった。
それでも長巻を持った人物を目視していたら…いつの間にか上空を見ていた。
顎を柄で強打されてぶっ飛ばされたと気付いたのは、その5秒後であった。
歯が12個も折れるほどの衝撃は、死ぬまで忘れることは無いだろう。
「うわっ…」
モヒカンの巨漢を拳でぶっ飛ばしたルフィは幼馴染のやり方に不満があった。
柄で敵を強打するのがいいが、手加減しないせいで大惨事になっていたからだ。
「よえー奴にここまでやる必要はなくねェか?」
「再起不能にした方が都合がいいからよ」
「そういうもんなのか?」
「そうよ」
さきほど財布を盗んだ相手がとんでもない奴らだと少年は思い知った。
特に紫色の瞳が印象的な女は、致命傷を与えてくるヤバい奴だと分かった。
残るは窃盗犯の自分しか残っていないと事実は、恐怖しかない。
「あああ…!」
「で?こいつはどうする?」
「んー、この親分に用があったんだけど…この子も連れて行っちゃおうか!」
いつの間にか座り込んでいた少年は後退りしたが壁に衝突してしまった。
フードを被った女は優しそうな笑みを浮かべているが、逆に怖かった。
両手で頭を押さえて縮こまってブルブル震えるのが精一杯だった。
なにやら物騒な会話が聞こえるが全力で聴こえないフリをしたが現実は変わらない。
「ルフィはその親分を背負って!」
「これでいいか?」
「ばっちり!!じゃあ私についてきてね!」
ルフィがモヒカンの巨漢を背負ったのは確認したウタは少年を抱き寄せた。
声を殺している彼の気持ちなど露知らずに上空に向かって跳んだ。
ルフィも負けじと跳んで犯行現場から全力で離脱した。
それは、凄まじい勢いであり全身が圧迫され息苦しくなった少年は意識を手放した。
「……あれ?」
いつの間にか寝ていたのに気付いた少年は瞼を指で擦った。
視界が少しだけ揺らいでおり、寝ぼけていると実感した。
敷布団で寝かされていたようで、近くには掛け布団が転げっているのが見えた。
「おはよ!一日寝るなんて寝坊助さんね!」
「うわあああ!!」
横から女から声をかけられた少年はビビッて絶叫してしまった。
「ウタ准将、捨て猫を拾って来るノリで少年を連れて来ないでくださいよ」
「なによ!!私だって考え抜いた結果、こうするべきと判断したの!」
「勝手にトラブルを起こされちゃって…サカズキ大将に知られてたら一大事ですよ」
「そこをなんとかするのが、下士官たちの役目でしょ!?」
紫色の瞳をした女は、フードを外しており紅白の髪が抗議の度に揺れていた。
さっきまでは残酷に見えた存在であったが、こうしてみると綺麗な人に見える。
拉致されたというのに少年は、目の前の光景が他人事に見えてしまっていた。
「おっ!目覚めたか!肉を喰うか?」
「え?あ?その!?」
「大丈夫だ!肉を喰えば元気になれる!!ってな!!」
麦わら帽子を被った青年が笑みを浮かべながら少年に骨付き肉を見せた。
突然の出来事であたふたする少年だったが、すぐに肉を受け取った。
なんか太陽をイメージさせる笑顔を見たら安心してしまい現状を受け入れたのだ。
「ルフィ大佐が肉を他人にあげたぞ!!」
「明日は大嵐がくるぞおおおおおおお!!」
同じ制服を着ている屈強な男たちは絶叫して周囲に異常を知らせていた。
そのおかげで少年は、目の前の青年の正体、そして所属する組織が分かった。
「大佐?」
「そうだ!なんかお偉いさんみたいなんだけど未だに慣れねェんだ!」
「もしかして海兵なの?」
「そうだ!すげぇだろ!!」
無駄に自信満々に海兵を誇る青年を見ても少年は何も感じなかった。
それよりも気になる事がある少年は立ち上がって周囲を見渡した。
個室なので風景は見えなかったが、船内なのは間違いなかった。
ここは海軍の軍船、それが意味するのは…。
「待ってくれ!!僕は…!」
「ああいいのよ。もう事情は知っているから」
「え?」
少年は自分の行く末を悟ってしまい、なんとかしようと口を開いた。
だが、紅白の女が既に事情を知っていると告げて強制的に話を終わらせた。
「あんた、妹の為に“首領・ペリーノ”に上納金を納めてたでしょ」
「なんでそれを…」
「モヒカン野郎を尋問して吐かせたからよ」
両親が事故死した少年には、病魔に苦しむ小さな妹が居る。
薬を服用しないと動けないほど病弱でぬいぐるみくらいしか友達が居なかった。
妹を養う為に働こうとするが、8歳という若さのせいで肉体労働ができなかった。
それどころか、学校にも通えないので頭脳労働も不可能であった。
そんなどうしようもない少年は、闇バイトに応募して金を稼ぐしかなかった。
「いいんですか?そんな話をされて…」
「この子の妹を保護したって事を告げないといけないからよ」
海兵たちのやり取りを聞いて少年は瞼を大きく開いてしまった。
すぐに妹の居場所を訊こうと口を開こうとするが目の前に居る女の名が分からない。
そのせいで上手く会話に繋げる事ができなかった。
「あの…!!その!!」
「まず君の名前を聴かせてくれない?妹さんの話はその後でしてあげるからさ」
「……パドリックと言います」
パドリックは、窃盗や万引きをして入手した物を無頼漢たちに上納していた。
その代わりに妹の病気に効く薬をもらっていたのだ。
「あれ!?なんでペリーノファミリーって分かったの!?それに妹の居場所も…」
「モヒカンの持ち物にパドリック君らしき住所があってね。それで辿り着いたの」
「でもペリーノファミリーだなんて分からないはずなのに!!」
「そうよ。だからわざわざ身分を隠して潜入したのよ」
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この常夏の島は、ペリーノファミリーという金持ち集団が仕切っている。
独自の上納金を定期的に納めるので世界政府から【中立】を獲得している。
そのせいで、通報を受けた海軍ですらこの島に足を踏み入れる事ができない。
当然、大海賊時代と呼ばれる世の中で中立を名乗れるのは只者ではなかった。
「ペリーノファミリー!!絶対にぶっ潰してやるわ!!」
「何がウタ准将をそこまで突き動かすのだろうか…」
「女友達が悲惨な目に遭ったらしくてその報復らしいぞ」
「ルフィ大佐ですらドン引きしてるんだからよっぽどの事だな」
海賊嫌いを公表しているウタは、とにかく海賊と悪党が大っ嫌いである。
ある事件がきっかけで、ペリーノファミリーを潰したい彼女は潜入捜査を開始した。
ルフィを護衛にしたのは、自分の暴走を止めてもらう為である。
そして相変わらず騒動に巻き込まれたので、開き直って有効活用した。
「お願いだ。勘弁してくれ!おれ様は本当に何も知らねぇんだ」
「確かにあんたには、ペリーノファミリーの繋がりはないわね」
「そうだとも!!だから!!」
「じゃあ、別に生け捕りしなくても良いって事だよね!」
捕えたモヒカンの巨漢は捨て駒だった様で指示役までの繋がりは発見できなかった。
しかし、一緒に保護した少年の家族がペリーノファミリーとの繋がりがあった。
故に情報は充分集まったと判断したウタは、用済みとも取れる発言をした。
「なんでもする!!お願いだ命だけは!!」
「じゃあ、あんたに最後の活躍の機会を与えてあげるね」
ウタが彼に何をしたのか幼馴染のルフィですら分からない。
ただ、父親であるシャンクスを恨んで成長した彼女は危ういところがある。
なので本気でヤバいと感じたら完所を止めるつもりであった。
まあ、モヒカンに関してはどうでもいいのでどこに行ったのかは追及しなかったが。
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「パドリック君のお父さん、“首領・ペリーノ”に雇われた庭師だったそうじゃない」
「うん…でも」
「ペリーノの悪事を知ってしまい消された。そうでしょ?」
「うん…」
ペリーノファミリーの首領は、表向きは薬品工場を経営し常夏の島の領主とされる。
大富豪として名を連ねる存在であるが、その実態は複数の海賊団を束ねるボスだ。
極めて依存性が高い薬物を処方薬と混入し、患者や客の金を奪う最低な野郎である。
「まあバレるわけがないがな!」
しかし、仮にも薬品工場の経営者なので薬品の成分を把握している有能である。
家族経営という鉄壁の情報統制と検出されない程度に劇薬を混ぜる狡猾さがあった。
そのせいでウタの同期は、身体を壊し続けて廃人になった挙句、薬物中毒で死んだ。
ウソップ海賊団を追跡していたウタは、その報告を受けて壊れた様に動き出した。
亡き同胞の死で悲劇を終わらせようと誓ったのだ。
「パドリックの両親は死期を悟っていたのでしょうね」
「妹さんの愛用しているぬいぐるみにメモを挟むなんて博打にもほどがあるわ」
「まあ、そのおかげでペリーノファミリーをぶっ飛ばせるから良かったけどね!!」
あくまでモヒカンの副産物に過ぎなかった少年のおかげで鬱憤を晴らす事ができる。
それを知ったウタは、嬉しそうに作詞作曲をして楽譜を作りあげるほどであった。
未だに興奮が収まっていないのかパドリックを無視して乙女は話を続けていた。
「おいウタ!」
「どうしたの!?」
「そろそろペリーノなんとかをぶっ飛ばしに行くんだろ?」
「そうだった!!パドリック君!!お留守番をよろしくね!!」
ルフィの一言によってウタはやるべき事を思い出した。
今からペリーノファミリーを襲撃して悪事を全世界にバラす使命がある事に。
道中で傘下の海賊団が立ち塞がって来るだろうが、全て粉砕するだけでいい。
悪事の証拠さえゲットし、【中立】を取り消しにできれば、何も問題はない。
未だに自分の背負う正義が見つからない彼女は、いつだって全力である。
「お待ちくださいウタ准将!我々はどうすれば…」
「この子と妹さんを守ってあげるだけでいいの」
「僕の妹はどこなんですか?」
「医務室でぐっすり眠っているわ。どっかの誰かさんの血筋を感じられるほどにね」
とはいえ、相手が億越えの賞金首を複数配下にしている。
部下たちでは相手にならないと考えてウタは泣く泣く彼らを置いて行く事にした。
もちろん、パドリック君の心配ごとを減らすのに欠かさない気遣いはある。
「ですが…!!」
「あと、近隣の海軍基地から軍艦をありったけ集めといてね」
「何故ですか?」
「世界政府という正義が悪党を成敗するショーを作る為よ」
世界政府の下位組織である海軍は、文字通り世界政府の狗である。
なので、ペリーノファミリーを裁く為に世界政府を味方にする必要があった。
本来であれば、准将程度の発言力では政府を動かす事などできやしない。
「お言葉ですが、世界政府がその程度の証拠で動くはずもありません」
「いえ、動くわ」
「何故ですか?」
「“七武海”クロコダイルが起こした大事件を打ち消すにはもってこいだから」
しかし、“海軍の歌姫”という広告塔であるウタは、その影響力で動かす事が出来る。
いつの時代だって、救いようがない悪党を吹っ飛ばすカタルシスは大人気だ。
特に世界政府は大失態を上書きできるほどの朗報を求めている。
「あれのせいで世界政府や七武海制度に疑いの声があがりましたもんね」
「既にサカズキ大将には連絡してあるの。後は実行あるのみ!」
海軍の超新星によってクロコダイルの国家転覆という野望は阻止された。
その英雄たちが再び悪党をぶっ飛ばしたとなれば、世界政府は全力で推してくれる。
そう考えて、ウタは直属の上官以外に潜入任務を報告せずに活動をしていた。
「じゃあ行って来るね!!“首領・ペリーノ”を収容する牢屋を用意しておいてね!」
「暴れて来るから今日の晩飯は豪華な焼肉定食!!野菜は抜きにしろよ!!」
ルフィとウタは潜入捜査時と違って正義のコートを羽織り船室から飛び出した。
きっと彼らは、ペリーノファミリーをボコボコにして悪事を世界に公表するだろう。
だが、少年も軍人も絶対に碌な事が起きないと…そう思っていた。
実際にそうなるのだから人の想像力は馬鹿にできないものである。