復讐の獣

復讐の獣

ホビルカIFの人

・ホビルカIF妄想 スートの間にて


心臓がドクリと脈打ち、視界がぐんぐん高くなる。

(ああ…小人達がシュガーを倒したんだ)

数日ぶりの自分の体がとても懐かしい。


「──っル、カ…」

その声にピクリと体が反応する。

趣味の悪いハートの椅子に縛り付けられた血だらけの兄の姿を見た瞬間。

目の前がぐにゃりと歪み何かに呑み込まれたような錯覚を覚えた。

全身の毛は逆立ち、胸の奥で火花がチリチリと爆ぜる。

(ぼくがオモチャにされたから、兄さまが……)


「──フッフッフ、ルカ…お前もわざわざおれに処刑されに来たのか?」


【兄さまをかわいがってくれた礼をしにきた】


ノートを投げ捨て人獣型になりながら走り出す。一気に距離を詰め武装色の覇気を纏った爪を振りかぶる。


(お前は絶対に許さない)


ガキンッ


金属同士がぶつかり合う音が響く。

打ち下ろした爪はドフラミンゴの糸に受け止められる。ぼくは弾けるように後方へ飛び、次の攻撃に移った。


武装色を纏わせた右爪を振り下ろし、左手で突く、そして間髪入れずに蹴りを飛ばす。

ぼくはただ怒りに身を任せがむしゃらに攻撃し続けた。





(はぁ…はぁ…)

息があがり体に上手く力が入らない。

ぼくの攻撃のほとんどはいなされ、あまりダメージになっていないみたいだった。目の前に立つドフラミンゴはニヤニヤと余裕の笑みを浮かべており、その顔がさらに神経を逆なでする。

カッと頭に血がのぼり反射的に振りかぶる、その一瞬の隙をやつは見逃さなかった。ドフラミンゴの長い足がルカの腹に叩き込まれる。

ドフラミンゴの蹴りを真正面から受けたルカの体は吹き飛ばされ二、三度床に叩きつけられ壁にぶつかり、ようやく止まった。


(──カハッ……!!)


受け身が取れず息が詰まる。

そのまま距離を詰められドフラミンゴの靴が視界に入った。

ぼくは痛みを逃がすように荒い息を繰り返しながら、下から睨みつける。


「なんだァその眼は… 臆病で、いつもローの後でビクビクしていたガキが、ずいぶん生意気になったもんだ」

「…まさに獣だな」そう笑いながら襟首を掴み持ち上げる。周りから見たら猫でも捕まえたかのように映っただろう。


(──っはなせ、くそっ…殺す、殺してやる!!!)


爪を立て足も使って抵抗するが痛みと疲労で覇気が上手く纏えずかすり傷ひとつ与えることが出来ない。

怒り、憎しみ、恨み、悔しさ、様々な感情がルカの頭を埋め尽くし、目から涙となってこぼれ落ちる。


「なァルカ、いつまで喋れねェ振りを続けるつもりだ?おれをコケにするのもいい加減にしろよ」

「やめろ!ルカは本当に声が出ねェんだ!!」

「お前には聞いてねェ…少し黙ってろ」

「ぐあァ!!」


ドフラミンゴが軽く指を動かすとローが呻き声を上げた。


(──兄さま!)


それと同時に怒りで暴走していたルカは我に返った。

涙で滲む視界にしっかりと兄を捉える。兄さまが苦しんでる、助けなきゃ。

しかしぼくがどんなに藻掻き足掻こうともドフラミンゴの腕はビクともしない。


「兄弟仲良く地獄に送ってやろう!!」


(ぼくが弱いせいで大好きな人をまた失うの……?)






──嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ!!






「─ッフゥーッ!フー!!」

怒りで食いしばった口の端から息が溢れる。



「──ッグ…ぃ……ぁ…」

喉の奥から出る空気に、だんだん音が混じり始め形になっていく。



「にィ゛…さ、まは…」


「アァ゛…?」


ぼくが声を失ったあの日から、1度たりとも出ることの無かった音が喉を震わせ、言葉を紡ぎ出す。




(大切な人がいなくなるのはもう嫌だ!!!)


「兄゛さまは…」



──そして吠えた




「兄さまは、ぼくが守る!!!」


部屋の空気を震わせる程の怒号に時が止まったかのように皆、一斉に動きを止めた。

それはドフラミンゴも例外ではなく、サングラス越しに見えた目は驚き見開かれていた。

ぼくは素早く獣型になり手から抜け出す。そしてドフラミンゴの背後に回り込み、鋭く長い爪を振り下ろす。



確かな手応えを感じると同時にドフラミンゴの背から血が吹き出した。


ぼくは今にも倒れ込んでしまいそうな体を必死に奮い立たせ、まだぎこちないかすれ気味の声で呟いた。


「くた、ばれ…クソッタレ」



END


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