御巫仕掛けの夜-キメラテック・ナイト-

御巫仕掛けの夜-キメラテック・ナイト-


朱色に彩られた演舞台『天御巫の闔』の上でふわり、ふわりと舞っている二人の女の子がいた。

一人は紅い髪をはためかせながら炎が如き激しさを持つ躍動的に舞う『剣の御巫ハレ』。

もう一人は黄緑色の髪を揺らしながら風の様に優雅に舞う『珠の御巫フゥリ』。


二人の舞が終わり、彼女達は談笑を始める。

「どうや!アタシの舞、前一緒に踊った時より何倍も洗練されとるやろ!」

「そやなぁ、でも激しいだけではあきまへん。ウチの様な優雅さも必要とちゃいます?ねずみっこちゃん。」

「ねずみっこ言うなーっ!」

仲良く言い争う二人。ふと、フゥリは空を見上げて首を傾げた。

「あら、もう真っ暗や。早いとこ宿舎へ帰らんとなぁ。」

「え?噓や!だって一回舞っただけやし三十分くらいしか…ってなんやこれ…」

辺りが急に真っ暗になったかと思うと舞台の上に古ぼけたパイプが何本も生えてきて、周囲を黒い煙が包んでいく。

「あら、何が起こったんやろか…けほっ」

「けほっこほっ、なんやこれ煙たいし埃っぽくって嫌な空気や!」

「なんか力も出ぇへんし…」

二人の御巫を毒々しい煙が包み、吸ってしまった二人は苦し気に咳き込んだ。

「…フゥリ!あんた肌どないしたんや!」

「え…嘘、ハレあんたもなっとるやん!」

この工場のような空間の煙には吸った者の身体を侵食し機械へと変えてしまうナノマシンが含まれている。その影響で、二人の肌は所々くすんだ銀色に変色し鈍い光沢を放っていた。

「えぇーっ!てかなんか身体も動きにくい…」

「このままだとウチら大変やぁ、早いとこなんとかせんと…」

二人の目元や指先、太もも、更には服の下までもが侵食され、身体の動きも油を注されていない機械のように鈍くなっていく。


ギィィィィ…ギィィィィ…

「「!?」」

二人の背後から重たい何かが蠢く音が響き、振り返るとそこには。

『ギ…ギギ…』

全身が暗く輝く装甲で覆われた機械の竜『サイバー・ドラゴン』がとぐろを巻いていた。

「なんやこいつ…ヘビ?」

「機械の龍…?」

突如、竜の眼がギラン!と輝く、すると竜は鎌首をもたげて…

『ギャーーースッ!!!!』

耳を劈く咆哮を辺りに響かせた。

「うううぅーっ!」「ぐぅぅぅ…!」

(み、耳が壊れる…!)(頭が割れそう…!)

目を閉じ、耳を塞ぎ轟音に耐えるハレとフゥリ。彼女達は目の前の機光竜の装甲が不気味に蠢いている事に気づかない。

『キシャァァァァァァァァーーーッ!!!!!!』

再び竜が叫ぶと共に、装甲同士の隙間から無数のケーブルが飛び出し、触手の様に二人の御巫を雁字搦めにした。

「「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ゛!!!」」

ケーブルは二人の全身を千切れんばかりに締め付け、更に凄まじい電流が流れて二人を焼く。

(あ、あかん…痛い、苦しいっ…!)

(死ぬぅ…いやゃ助けてぇ…!)

二人の御巫は痛みと苦しみに耐え、辺りに絶叫を響かせながらも踏ん張る。が、少しずつ身体は竜の元へと引きずられていく。

『キシャァァァァァァァァーーーッ!!!!!!』

竜が再び吼えると二人の身体を引きずる力がより一層強くなり、踏ん張る力を超えて二人の身体が宙に浮かぶ。

そして竜の装甲が大きく開き、その開口部に二人の身体をめり込ませるようにして取り込んでいく。

「む゛ぐぅぅぅぅ!!!」「んんんんーーーーーっ゛!!!」

(いや…!とりこまれる!たすけてぇっ!!)

(しぬのはいや!いややぁ!!!)

半身をめり込ませながらもがき苦しむ二人。しかしハレは右、フゥリは左の半身が埋め込まれて、その部分はみっちりと太いケーブルが押しつぶしてきて、口元も半分埋まってしまい声にならない叫び声を上げながらまだ動く半身をもがかせることしかできなかった。

そしてゆっくりと竜の装甲が閉じ、二人の姿が見えなくなると共に叫び声も遮られて聞こえなくなった。


(いやぁぁぁぁぁぁぁ!こわれるっ!ごわれりゅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!!)

(やぁぁぁぁぁぁぁぁ!だじでぇぇぇ!ゆるじでぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!!)

機光竜の中。

二人の御巫のハレとフゥリは全身を人工的な筋繊維を構成するケーブルに締め付けられ、更に穴という穴から神聖な場所にまでケーブルが入り込み、電流を流し込むと共に精気を吸い取っていく。

その間もナノマシンの侵食は止まらず、二人の全身は銀色に染まっていく…


『キシャァァァァァァァッ!』

二人の少女を取り込み、精気を吸い上げた機光竜が咆哮を上げると、全身の装甲が一度粒子状になり再構築されていく。

ものの数分も立つと機光竜は紫色に輝く装甲に覆われた闇の機竜、『キメラテック・フォートレス・ドラゴン』へと融合進化した。

車輪状のパーツが繋がった竜の胴部の装甲が開き、銀色の女性の上半身のようなものが這い出てきた。

それが全身を機械にされ、精気を吸い尽くされた『剣の御巫ハレ』『珠の御巫フゥリ』のなれの果てである事を知るものは誰もいない


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