《後》
※黒フリード×リコ要素が強いです。
※読む方によってはリコが「人としてどうなんだ」という発言をしています。
ご注意ください。
※長文のため分割しました。先に《前》を読んでいただくと話が分かりやすいです。
フリードが振り返ってリコが立っていた場所を確認すると、電話を掛けているからか元の場所からもアメジオからも離れて、フリード達に背を向けて耳にスマホロトムを当てているリコが見えた。
こちらとの距離はそれ程ないのに、何故直接話しに来ないで電話を掛けてきたのだろうかと不思議に思いながら、ルッカに「すみません」と一言断りを入れて、フリードはルッカから少し離れてリコからの電話に出た。
「もしもし、リコ?」
「ぁ……良かった、出てくれた」
大袈裟なくらいほっと大きく息を吐いたリコに、フリードはくすりと笑う。
「可愛くて愛しい俺の女からの電話を無視したりしないさ。それにしても、テレビ電話じゃないんだな?」
「かわっ……!? て、テレビ電話だとお母さんが話に入ってきそうだから。直接フリードに話に行かなかったのも、似たような理由かな」
そんなに人に聞かれたくない内容なのかとリコの台詞から考えて、少し前まで山小屋でのリコとの甘い一時を思い返していたフリードは自分に都合の良い解釈をしてしまう。
(ひょっとして、土産を買い終わったらシたいって話か? 思えば、山小屋では変に理性が残ってたせいで勿体ないことをした。無理だと言っていたがリコの目は期待に満ちていたし、十二分に休憩して体力を満タンにした後に「おいうち」すればリコと最後までいけたかもな)
ズボン越しに自身の熱を白く柔い太ももに擦り付けた時のリコは、それはもうとてもそそる顔をしていたなと、自然と上がる口角をそのままにフリードは思う。
(倫理なんてモンも、そもそもバレなきゃ無問題……もしリコが俺と同じで、お預け喰らって我慢できなくなって電話してきたとしたら可愛いな♥)
「アメジオがバトルを待ってるよ。早く戻ってきて」
だからこそ、リコの口からアメジオの名前が出た時はスンッと真顔になり、フリードの機嫌は急降下した。しかしそれを噯にも出さずフリードは頷く。
「分かった。すぐに戻る」
「あ、ありがとう! えっと……それでね、アメジオのことで、もう1つお願いしたいことがあり、ます」
緊張しているのか声を上擦らせてたどたどしく話すリコに、今から話す内容の方が本題だと悟ったフリードは身構える。大きく息を吸って吐いてを何度も繰り返し、耳を澄ませないと聞こえない程の小さな声でリコは言った。
「2人のバトルが終わったら、アメジオからの告白の返事を、しても良い、ですか」
震えるリコの言葉を反芻して、フリードは笑みを深くした。
◓ ◓ ◓
黙ってしまったフリードに、リコは「そうだよね」と思いながら痛む胸を押さえた。
自分が同じように、例えばフリードから「コニアから告白されたから返事をしたいんだ」なんて言われたら、言葉の意味を理解するのに時間が掛かって、すぐに首を縦に振ることはできない。
それどころか「相手はエクスプローラーズだよ、罠かもしれないから止めた方が良いよ」と、嫉妬と心配から必死にフリードを説得して考えを改めさせるだろう。
あえて電話でこの話を出したのも、ルッカから絶対に反対の声があがるという確信があったからだった。
(自分がされたら嫌なことをフリードに許してもらいたいなんてムシが良すぎるよ。でも、それでも。このままアメジオとの関係を中途半端にしてちゃいけない)
緊張でスマホロトムを持つリコの手に汗が滲む。
宣告を待つかのような重々しい気持ちでいたリコの耳に届いたのは、とても静かで落ち着いたフリードの声だった。
「それは、アメジオが俺とのバトルに勝った時の報酬か何かか?」
「ううん。勝敗に関係なく返事はしたい。自分でも馬鹿な、身勝手なことを言ってる自覚はあるけど、アメジオに返事をしないで中途半端なままにしておくのは、駄目だって思ったの」
「ふぅん? まぁ、良いんじゃないか」
「そ、そうだよね、フリードがいるのに————へ?」
あっさり了承したフリードにリコの口から空気が抜けたような声が出た。
「い、いの?」
「ああ。リコの気持ちは分かったし、俺がアメジオなら結果はどうであれ返事が欲しいと思うからな。同じ女に惚れた誼みってことで、アメジオなら特別に許すよ。リコとアメジオのやり取りを盗み聞きして邪魔する気はないが、他の連中が襲ってくる可能性はゼロじゃないから、万が一に備えて告白の返事をする時は駆け付けられる位置に待機するが、それでも良いか?」
「う、うん」
明るくペラペラと話すフリードにリコは困惑する。
てっきり怒って猛反対すると思っていたフリードは、リコ以上に張り切った様子で「アメジオに告白の返事をする時はこの施設の屋上が良いんじゃないか」と、場所の提案までしている。
衝突するどころか大好きなフリードが背中を押してくれたお蔭で、何の後ろめたさもなくアメジオに告白の返事ができる。フリードが心の広い人で良かったと、安心するべきだ。
しかし——
(トントン拍子に進んでるせいかな。現実味がないというか、何だかフリードが……)
「それじゃあ、アメジオがキレ散らかす前に戻るよ。じゃあな」
ブツッと通話が切れたのを確認して、スマホロトムを耳から離す。
言葉では形容できない漠然とした大きな不安が、リコの胸に渦巻いていた。