後日譚【手続き】①

後日譚【手続き】①




 私……ミクとアリスちゃん……いや、39号?

ともかく、『私たち』はナグサ様とユカリ様に連れられ、アリス保護財団に保護された。

その合間に、ナグサ様に、私たちのことをキキョウ様とレンゲ様に紹介していただいた。

ナグサ「というわけで、これからミクとアリスを百花繚乱の所属にするつもりなんだけど……いいかな、2人とも?」

キキョウ様とレンゲ様はそう尋ねられて……

レンゲ「アタシは良いと思うよ!思いもよらなかった出会い……これも青春だね!」

青春が何なのかはまるで分からなかったが……レンゲ様からは、そう快い返事をもらえた。

……しかし。

キキョウ「…………はぁ……」

キキョウ様は、ため息をついて話し始める。


 キキョウ「私は……怪しいと思ってる。そもそも、経緯が全く現実的じゃない。それに、花鳥風月部と接触した、って本人が言ってるんでしょ?本人の自覚の有無に関係なく、罠や災いの元になっている可能性だって十分にある」

……心配するのも当たり前だ。当然、理解を得られない人もいると思っていた。

ユカリ「で、でも、この方たちは『アリス』で───」

キキョウ「だから何?可能性の塊みたいなものだよ、むしろ危険まである。さらに、『ヘイロー2個持ち』という例外中の例外。人によっては……『破壊』した方が安全だって言う人が居てもおかしくはない」

『破壊』。その言葉に、多少なりとも体が震えた。

レンゲ「……な、なあ、そこまで言わなくても……」

ナグサ「………」


 そこで、キキョウ様は続けた。

キキョウ「……だから、『私たちがこの子たちをちゃんと監視する』、っていう条件付きなら、認めるよ。その名目なら、文句を言う人も多少は減るでしょ。

……ただし、少しでも変なことをしようものなら、すぐに引っ捕らえて財団に送りつけるから、覚悟しておいてよ」

そう、頬を緩めて言った。

私たちを見るその目には、敵意は籠もっていなかった。

アリス「……はい!ありがとうございます!」

ミク「誠心誠意、務めさせていただきます!」

私たちはそれに、元気よく応えた。


 ユカリ「キキョウ先輩……流石ですわ……!」

レンゲ「……はぁ、全く……」

ナグサ「相変わらずだね、キキョウ」

キキョウ「…………そこ、うるさい」

そう言い合う4人の様子は、なんだかんだで和気あいあいとしていた。

アリス(……なんか、優しそうな人たちだね)

ミク(はい。……少し、安心しました)

そう話を交わしながら、私たちはヘリに乗って雪山を後にするのだった。


[百鬼夜行 大通り]

 百花繚乱の所属になるとは言ったものの、メンテナンスを長い間していない、イレギュラーの多い体や、今までの経緯。

それらを放置する訳にはいかない、ということで、一度ミレニアムへ向かい、検査や事情聴取を受けることになった。

ユカリ「うぅ……立派になって帰ってくるんですのよー!」

レンゲ「……ユカリ、多分状況が違うぞ」

キキョウ「変な話を読ませすぎたかな……」

ナグサ「じゃあ、また後で」

そう言う彼女らに対してぺこりと大きく頭を下げて、財団の方々に付いていった。


 

 量産型アリス「……あっ、お待ちしていました!事情はお聞きしてます。ここからは、私、『コバチ』がガイドを努めますね!よろしくお願いします、『お姉ちゃん』!」

1人のアリスが、用意されていたヘリから顔をひょこっと出して言った。

ミク「……なんというか……」

アリス「すごい……待遇?だね……」

私たちの他にも、雪山から回収されていた機械はあったはずだが……それとは別に連れ出された、ということは、これは『私たちだけのために』用意された、ということだろう。

その手厚さに圧倒されていると、ヘリに乗っているアリスは答えた。

量産型アリス「うーん…これはお姉ちゃんが少し『異例』だったのもあるかもしれませんが…基本はアリスをお迎えするときは、これぐらい用意しますよ!なんてったって、コバチたちは『アリス保護財団』ですから!」

……どうやら、アリスの保護活動に関しては本当にトップクラスのようだ。


[ヘリ内 百鬼夜行上空]

 足早にヘリに乗り込み、ミレニアムに向けて出発する。

ヘリの中で財団のスタッフとも話したが、財団の方々には気前のいい、優しい人も多く、会話も色々弾んだ。

……その途中で一つ、先程のアリスに尋ねた。

ミク「そういえば、あなたのナンバーは?話から察するに、私よりも後だとは思うんですけど……」

そう訊くと彼女は、「あっ、忘れてました!」と言いつつ、改めて自己紹介した。

12058号「ナンバーは『12058』。財団の設立者であるユウカに、最初に購入された1000体の内の1体で、現在は保護されたアリスを財団へお連れする『ガイド役』を努めています!呼びにくいナンバーではありますので、『コバチ』とお呼びください!

改めてよろしくお願いします、『ミク』お姉ちゃん、『アリス』お姉ちゃん!」

ミク「はい、よろしく───」


 ───待て。今、アリスちゃんもお姉ちゃんと言ったのか?いや、それでもいいけど……何故?

そう違和感を感じていると、アリスちゃんがその質問をした。

アリス「……あれ?私も『お姉ちゃん』でいいの?元は『量産型アリス』ではないんだけど……」

そう訊くと、彼女は元気一杯に言い放った。

12058号「はい!ミクお姉ちゃんと一緒になってまで生きてきた、『恋人』のような存在も、私たちにとってはお姉ちゃん……所謂、『お義姉ちゃん』というやつです!」


 アリス「『恋人』!!!!!!!」

ミク「『恋人』???????」

待て。色々その表現はまずい。というかどこをどう見たらそうなる。ただ、『あなたがいるから生きていられた』とか、体を『いくらでもどうぞ』とか言っただけで……

…………………えっ、と。

───んーと、えっと、とりあえず、そういう仲ではないと誤解を解かなければ……

ミク「……あ、あの、コバチさん?私たちは、そういうのでは……」

と、言おうとしたとき。


 アリス「……ねえ、ミクちゃん……私たち、そうしそーあい、だよね?」

ミク「……???????」

乗っかるつもりなのか、この流れに!?いや、それとも本気なのか??この人ならどちらでもあり得てしまう、という確信があった。

アリス「……ミクちゃんは、どう思ってるの?」

目を細めて足を絡めて、手を自らを抱くように腰に……

ミク「って、何やってるんですか!?ほら、他のスタッフさん顔赤くして目逸らしてますよ!?」

そう言っていると、妹は私に諭すように聞かせてくる。

12058号「……誤魔化したりしないで、ちゃんと答えるべきだと思いますよ、お姉ちゃん。というか既にアリスネットワークを通じて、お二人はもう『そういう仲』だとほとんど知れ渡っています」

ミク「…………嘘でしょ……?????」

アリスネットワークに繋がったあの時から既に、色々と詰んでいたというのか。そういや「何とかなるでしょ」って言ってたなこの人。どこまで読んでた?いや、逆にノリと勢いだけでここまで来たのか?

……いや、私は何を考えて───とりあえず、『そういう仲』では───


 アリス「ウソ、つかないでよ。判ってるから」

ミク「……っ!?」

かつてアリスちゃんに言ったことを、そのまま返された。

……否定でき、ない。一挙一動、一考の演算回数が異常に増えているのを感じるし、体から出る熱も異常な程に高い。メインジェネレータに通じる、五感に関する信号を送る回路が少しずつ、順番にショートしていくのを感じる。

アリス「……顔、真っ赤だよね。照れてる?」

ミク「……あ、ぇ、っと……」

アリス「……じゃあ、もっとシンプルに訊くね?私たち『そういう仲』でも、いいかな?」

……思考回路が高速で回り続ける。私、は……

アリス「───大丈夫。ミクちゃんの本当の気持ち、聞かせて?」

わたし、は。

ミク「……ぁ、はい……わたしも、だいすき、です」

アリス「『そういう仲』でも、いていい?」

ミク「…………はい………」


 そう言った矢先───

アリス「───やったー!!録音できた!言質取ったからね!」

12058号「キャー!甘酸っぱい青春、ってやつですね!祝福しますよ、お二人とも!」

キマシタワー!!ウオォォォーー!!パチパチパチ

ミク「……えぇ……??」

何がなんだか分からないが……

ミク「……皆さん、グルだったんですか?」

そう聞くと、全員ケロッとした態度で答えた。

12058号「いえ、まったく?」

アリス「なんかそういう雰囲気にできそうだったから、面白そうだなーって!」

ミク「???????」

……この人たちは、ノリで日々を過ごしている。

 

ミク「…………うわーん!」

後ろのドアを破壊して身を投げようとしたが、全力で止められた。


[ヘリ内 ミレニアム上空]

 財団スタッフ「そろそろ到着します。皆さんご準備を」

───そろそろ着くらしい。

アリス「ねー……そろそろ機嫌治してよ……大好きって言ってくれて嬉しかったよー?」

ミク「………でも、その気持ちを弄ばれたのは腹が立ちます」

アリス「うっ……ごめんなさい……」

12058号「でも、ちゃんと伝えられたじゃないですか!ミクお姉ちゃんも『そういう仲』でいたい───」

ミク「『そういう仲』って言うの、当分はやめてください」

12058号「………はい、コバチは反省しました」

……これから会うアリスたちには全員そういう目で見られるのだろうか。私には公開処刑にしか見えないのだが……

それに、その関係が1つの体で完結しているのも独特すぎる。さっきまでの話も自分1人の体だけでやっていたと思うと、シュールすぎて今でも恥ずかしくなる。

ミク「……はぁ……もう気にしても仕方ないですし、切り替えますか……」

アリス「そ、そうだよ!切り替え切り替「ごめんなさい、もうちょっと静かにしててください」…………はい……」


 12058号「……あ、もうすぐですね!」

そう言われ、ふと、窓の外を眺めると───

アリス「……わぁ……」

ミク「……すごい……」

 

並び立つビル群に、整った街並み。青く透き通った青空に照らされ、明るい、鮮やかな色が、それら全体を彩っていて……それが、見渡す限り遠くまで広がっていた。

───人々が大都市、と呼ぶものだ。その圧巻の光景に惹かれていると……コバチさんが思い出したように話した。

12058号「……そういえば、表の都市に出たのはお二人とも初めて、ですかね?じゃあ、改めて……」

そう言い、一息ついてから、私たちに言った。


[ミレニアムサイエンススクール]

 

 ───ようこそ、ミレニアムへ!





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