後日詳細を聞いたキッドが暴れた
茜色に染まる道を、二つの影が並んで歩いている。うち一つは少女のもので、四皇『麦わらのルフィ』ことモンキー・D・ルフィだ。嬉しそうな笑みを浮かべながら、自分より高い影の主を見上げる。その姿は戦闘時からは想像もつかないような、天真爛漫な少女そのものだった。
「今日のデートも楽しかったね!トラ男!」
「…あぁそうかよ」
隣で歩いているどこまでも能天気な少女に、トラファルガー・ローはこめかみを押さえた。ルフィとは正反対に、どこか疲れ切った様子である。
そもそもローにとっては、ルフィとの外出は断じてデートではなかった。毎度のごとく麦わらの一味から子守りを押し付けられただけだ。そしてルフィの興味の赴くまま、レストランのサラダバーやら露店やらに振り回された挙句、賞金稼ぎと騒ぎを起こした結果海軍から逃げ惑う羽目になってしまったのだ。
Dはまた必ず嵐を呼ぶ。
かつての恩人の言葉が蘇り頭が痛くなる。嵐も悪くはないが、たまには邪魔の入らない静かで穏やかな時を過ごしたい。まぁコイツといると一生無理な話だろうな。そうローが思ったところで、ふとルフィの姿が目に止まった。
トレードマークの麦わら帽子こそ変わらないものの、その装いはいつものボーイッシュなタンクトップとハーフデニムから一転し、オレンジ色のキャミソールとそれに合うひらひらとしたスカート。随分と女性らしい服装だ。そして女性陣にやってもらったのか、髪が少し巻かれている。薄くメイクも施されていて、夕日に照らされたラメがキラキラと輝いていた。
どうしたことか。別にデート中は何とも思わなかったのに。思ったとしても『年頃だし洒落気づいたりもするよな』くらいの感想だったのに。
どうやら自分はよほど疲れているらしい。
_麦わら屋は、こんなに可愛かったか?
そんな考えが頭の中に浮かんでくる程度には。
「あ、船見えた!じゃあねトラ男!また遊ぼう!」
ルフィの声にハッと意識が戻る。気がつけば、サニー号とポーラータング号はもう目と鼻の先だった。ローに手を振り、もう片方の腕で仲間の元へ飛ぼうとするルフィ。そして今にも飛んでいきそうだったその腕を、思わずローはつかんでいた。
「…トラ男?」
伸ばしていた腕を戻し、怪訝そうに首を傾げるルフィ。謝って、早く手を離さなければ。頭では分かっているのに、自分の手はいつの間にか彼女の手を握っている。そして口から出た言葉も、全く正反対の言葉だった。
「…もう少し、一緒に歩かねぇか」
ルフィの顔が赤く色づいた。それは夕日に照らされているためなのか、それとも自分が発した言葉が原因なのか、ローには分からなかった。しかし彼女が手を握り返してくれたことが、今のローにとって全てだった。
「…うん」
照れたように笑う彼女の手をしっかりと握り直す。寄り添うような二つの影は、ゆっくりと帰路についたのだった。