待てど暮らせど
ビッチの悪魔を待ちながら、アキはパトロールに励む。
「ビッチの悪魔と出くわしたら、お前が先に行け」
「えぇ…やだよ」
殉職した姫野に代わって、新たなバディとなった天使の悪魔は扱いづらかった。怠け癖があり、デビルハンターの業務に対する士気が低い。アキが先行した場合、見張りがいないのをいい事に、天使の悪魔は仕事をサボるだろう。
「バディになったんだから協力してくれ…次に組む相手が俺ほど優しいとは限らないぞ」
「うーん…働くくらいなら、駆除された方がマシかも」
★
コベニと暴力の魔人はパトロールに一区切りつけると、昼食を取るべく手近なカフェに入った。
注文したのはハムエッグにキャベツの入ったホットサンド。自分1人では絶対に頼めない料理に、コベニは喜色たっぷりの表情で齧り付く。
暴力の魔人の前には何も置かれていない。力を抑制するマスクをつけている為、外食できないのだ。
「あの…後でクリームソーダ、頼んでもいいですか…?」
「勿論!飲み終わったら、パトロールに戻ろうか」
コベニがクリームソーダの注文を済ませると、暴力の魔人は件の女悪魔の話を切り出す。自分がビッチの悪魔の誘いに乗って向こう側に突入した後、本部に戻るよう、彼はコベニに頼んだ。
「マキマさんに事情を説明したら、何か仕事を振ってくれるだろうし。道中気をつけて」
「はい…」
★
パトロールを済ませて本部に戻ったデンジは、コベニを見かけると声を掛けた。
「あっ…デンジ君…」
「一人?マスクがいねぇけど」
「暴力さんは…ビッチの悪魔に連れてかれて…」
「出たの!?」
「でっ、は…はい!」
コベニと行き合ったデンジは、彼女と共にマキマの執務室に入る。
「それで、デンジ君は出会えなかったんだ」
「出会えませんでした…」
アキは先日見かけ、暴力の魔人は数時間前に遭遇。自分はビッチの悪魔の影すら捉えられていない。ビッチの悪魔など好きではないが、無視されているみたいで少し腹が立つ。
「わかった…コベニちゃんは本部内で待機。デンジ君は少し残って」
「はい…失礼します」
コベニが退室して、デンジはマキマと2人きりになる。彼女は何処かに電話をかけ、それが済むとロビーに向かうようデンジに指示を出した。
デンジがロビーでしばらく待っていると、職員が1人近づいてきた。彼に案内されるまま、デンジは地下に向かう。
ゆっくりと下降する足場を降りると、案内役がこれから向かう場所について話してくれた。公安が生け捕りにした悪魔がここに囚われており、そのうちの1体から情報を引き出す。
「どんな奴?」
「捕らえられているのは未来の悪魔。私は部屋の前で待っていますので…どうぞ」
軋みながら開かれた扉は、デンジの前に腹の中の闇を晒す。リラックスした態度で入室したデンジの背後で、扉が閉まった。
ーーーー視線
「未来!!最高!!未来!!最高!!」
「あ〜?」
両手を広げた枯れ木のような存在が、デンジの前に姿を見せた。未来の悪魔である。
「テメーが未来の悪魔かぁ〜?」
「そうだ!オマエも未来最高と叫びなさい!」
イェイイェイと未来の悪魔は踊る。
「イェ〜イ」
「元気がないな!!チェンソーの少年!朝飯抜いてきたのか!?」
「うっせぇな〜、こっちは仕事で来てんだよ。てか、俺のこと知ってんのかよ…」
デンジはとりあえず乗ったが、長居する気はない。この場所は陰気臭くて好きじゃない。早く地上に戻り、マキマの顔を見たかった。
「ノリが悪いな!…用件はわかっている!ビッチの悪魔の出現場所と時間の予知が欲しいんだろう!?」
「わかんの?」
「当然だ!対価は既に支払われているからな…耳かっぽじってよく聞け!」
未来の悪魔から予知を聞き出したデンジは地上に戻り、案内役と別れた。執務室に向かうとマキマがいたので、予知の内容を報告する。
「時間は今日の午後7時24分です。場所は……」
「そう。なら今日はこのまま帰って、ビッチの悪魔の出現に備えて。道のりは分かる?」
「いや…自信ないです…」
「そう。なら、まだ時間もあるし、一緒に見に行こう」
「え!?」
デンジは未来の悪魔が予知した地点まで、マキマに導かれた。公用車に乗せられ、江東区北部を横断する小名木川にかかる橋梁の側まで送ってもらう。
「それじゃ、私は戻るから」
デンジを一人残し、マキマは公用車に乗って走り去った。途中で買ったハンバーガーセットを平らげると、手持ち無沙汰になる。
万が一があってはならないと、デンジはこの場に張り込む事に決める。時間が経過し、日が沈み始めるとデンジは不安になってきた。
(もし来なかったらどうしよう…)