彼女は正常な人間です。

彼女は正常な人間です。

死体処理専門の二級術師、まひろ

幼少の頃、今では過ぎたことだしどうでもいいとも思ってる出来事があるんだ。まぁすぐに流してくれて構わないよ。軽いただの世間話だから。


えっとな、小3くらいだったかな。漸く『目』も慣れ始めてきた時だったんだ...って、何のことか分からないよな。

私の目は呪力量が余りにも多すぎるから視界にも影響が出ていてな。気付いた時には人の内臓やら眼球やらが剥き出しで見えていたんだ。初めてみた時はなんだあれ?って思ってたんだけどな。他の人にも聞くから「は?なにそれ」って言われるのも少なくはなかった。そこで気付いたんだよな、自分の視界が変だって。

そこからは慣らす日々が続いてな。まぁ酷いのなんの、見ようと意識してないのに気を抜いたら全員が皮の剥がれた人間に見える。気持ち悪いよな、バイオハザードじゃないんだし。


さて、話を戻すか。

そんな小3の頃な、父親が死んだんだ。死因は大動脈の血管が切れたことによる即死。母親も姉も大混乱だったさ、夕飯食べている時に急に血を流して死んだんだから。...私?私はあんまり驚けなかったな。

だって、血管を裂いたのは小さな呪霊だったから。しかもその時、体育でマラソン3キロ走らされてた時でさ、疲れてたんだ。だから気を抜いたんだろうな。思わず見えたんだよ。管の中から徐々に穴を開けて血管を裂く羽の付いた呪霊が。いや、もう気持ち悪かったな、本当に。

驚かず、本当の死因を知っていた私は茫然としているどころか葬式でも泣かない。それどころか、食い破った呪霊を潰すのに必死だったな。救急車がくるまでずっとぴょんぴょん跳んで、漸く潰したと思ったら奇異な目で見られてた。そんなことをしてたからさ、姉に言われたんだ。


『アンタ、頭イカれてんの?』


そこからは怒涛。思えばあの時からアンタはおかしかった...って。今では笑い話だけど、子供の時の私はおかしくないって言い返してたな。そこからかな、姉とも亀裂が入ってまたもに会話しなくなった。今?...さぁ、どうなんだろうな。

あぁ後、小4の頃精神病院に入院したんだよな。期間は2年半くらい。どうやら入る前に変に発狂してたらしいよ。なんか言うには、『入ってくるな、入ってくるな!』ってずっと連呼してたって。夏から毎夜毎夜、母親が止めてもずーっと。だから入院してた。

でも嫌な思い出しかないんだよな...医師も変に圧かけてくるし、母親はおかしな子が産まれたって嘆かれて、姉からは無視。しかも、事実全部伝えたら伝えたではっきり言われたんだ。


『今の君はおかしいんだ。君はそれを分かってないんだ。』


もう、なんか、嫌になったよな。しかもここからが酷いんだ。頭掴まれてぶんぶん振り回されて、母親も顔見に来る度に泣いて泣いて。自分が嫌になったし、人間ってこんな生き物なんだって。コミュニティも関わりも狭いけど、そう思っちゃったんだ。嫌なやつだよな、私。


高専に入ってからはそう言うのは無くなったな。茅瀬も田代もいたし、先輩も先生もいたし。自分だけがおかしいんじゃないんだってちょっと安心した。

もちろん、今のみんなだっていい人だって思ってるし、一緒にいて気が楽だよ。





え、今の仲間はどう思う?


そりゃあみんな、いい奴だよな。

ー中身は全部、みんなクソ野郎。ー


桜宮もヨウも、今では前向いて明るいし。

ー復讐だとか潰すだとかあほらしい。ー


坂野もさ、生きる理由を見つけたっぽいし。

ー歪んで馬鹿で、気持ち悪い。ー


冬河さんも、今でも持ち直したみたいだし。

ー人に生まれてかわいそう。ー


天秤も、いい奴だよな。

ー見られそうで、1番嫌。ー


茅瀬も、...まぁ一緒にいてくれるし。

ー何で私を好きになったんだろう。ー



私も、...こうして今を過ごしてるし。

ーお前が1番死ね。死んで消えて、果ててしまえ。ー



まぁ、みんな手を取って、頑張って生きてるんだ。

最後にはまぁ、何とかなるだろ。


ーでも最後は絶対に裏切る。裏切られる。

人間はみんな怪物。腹の底に残るのは偽りと負と馬鹿な自愛。



だから、人間みんな、死ねばいい。ー








『まひろ』の本質は、拒絶と否定。

幼少に生まれた、存在しない狂気の成れの果て。


しかし、露鐘眞尋は気付かない。

気付こうとしない。

何故なら知れば、彼女は人間に戻れなくなるから。

故に、露鐘眞尋は狂わないし、狂えない。

だって、『まひろ』がいるから。




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