彼女の夢見る世界

彼女の夢見る世界


「ユウカ!ゲーム開発部にもっと予算出してよ!こっちはカツカツで頑張ってるんだぞ!」

「・・・少しは実績を出してから物をいいなさい。そもそも、何にそんなに予算使うのよ。ゲームの開発でしょ。PCのソフトで作るんでしょ。PCも、ソフトも買える分は予算出してるわよ。」

「アリス知ってます!この前遊びに行った時「もっとお菓子ほしー、経費ってことにして予算で落ちないかなー。」ってモモイ言ってました!」

「あ!こら!アリスちゃんそんなこと言っちゃダメだよ!太もも魔王が怒っちゃう!違うよ、ユウカ!とにかく違うの!」

「・・・誰が太もも魔王よ!これ以上カットしてもいいのよ!とにかく他の部活みたいに目に見える成果を出しなさい!ミレニアムプライズ取るとか!

エンジニア部を見習いなさいよ。いちばん新しい実績は身体の不自由な人のための義肢制作よ。何も、そんな風に社会に貢献しろって言ってる訳じゃないの。目に見える実績を持ってきなさいって話。ネットでゲーム販売してその売上実績を持ってくるとかね?」

「むー!フーンだ!いいもん!ユウカなんか、もっと太もも太くなっちゃえばいいんだ!行くよ、アリス!」

「はい!モモイ!・・・?」

《可能性は排除されました。》

「アリスはセミナー所属よ。勝手にゲーム開発部に入れないでもらえる?」

「あ!リオ会長!今日はこっちでお仕事なんですね!」

「えぇ、数日ぶりにアリスたちの顔が見たくてね。ほら、ユウカのくれたヒントを元にもう少し頑張って見なさい。」

「ヒント?・・・あぁ!ネットで販売!よーし、やるぞ、今回のミレニアムプライズは私たちゲーム開発部がいただきだー!」

「・・・はぁ、騒がしいのがやっと出ていった。会長も甘いですね。」

「あら、本当に甘いのはどっちなのかしら「セミナーの冷酷な会計」さん?」

「アリス知ってます!ユウカみたいな人のことツンデレって言うらしいです!ミドリに教えてもらいました!」

「・・・会長、やはりゲーム開発部は教育に悪いのでは?」

「あら、そうかしら。みんな楽しそうじゃない。とてもいい事よ。」

《世界は正常に回っています。》


カコーン!

「ふう、ストライクだ。次はお前の番だぞ、ヒナ。」

「はぁ、せっかくの休みの日になんでマコトなんかとボウリングに来てるのかしら。」

「おいおい、お前は誘わなかったら万魔殿の案件以外で外に出てこないじゃないか。なぁ、議長殿?」

「押し付けられただけよ。他でもないあんたにね。けど、風紀委員がしっかりしてるから仕事が少ないのがいいわね。やっぱり組織のトップに必要なのはカリスマなんじゃない?風紀委員長が持ってるみたいな。」

「ははは。あれはカリスマと言うよりも、もっと別のなにかだろう。ほら、早くボールを投げるんだな。」

「・・・しょうがないわね。「いたー!」・・・はぁ。」

「ちょっとヒナ議長!今日が会議の日ってこと忘れてるんじゃないでしょうね!今日こそはきちんと万魔殿の議長として出席してもらうわよ!」

「・・・アル委員長。どうしてここがわかったのかしら。まさか、」

「私だ。ここは私の顔に免じて陸八魔委員長について行ったらどうだ。そろそろお仕事の時間だろう。」

「貴方に免じる顔なんてないわ。」

「ヒナ議長いた?アル社長。・・・?」

《可能性は排除されました。》

「どうしたのカヨコ。私は社長ではないわ!ゲヘナの治安を守る風紀委員会の長!泣く子も黙る陸八魔アルとは私の事よ!」

「・・・ああ、そうだ委員長、委員長だ。あ、ヒナさんいた。そろそろ議長に出て頂かないと不味いよ。なんかアコが勝手に政策作って可決しちゃうよ?」

「む、確かにそれはまずいわね。はぁ、しょうがないわねこのゲームが終わったら行くわ。」

「ほんと!良かった!じゃあ待ってるから!行くわよカヨコ!」「はいはい。」

「・・・あれがカリスマか。ふん、面白いな。」

「まぁ、ああいう子の元にはいい子が集まるんでしょうね。いいことじゃない。平和で。」

「あぁ、そうだな。平和だな・・・」

《世界は正常に回っています。》


「遅いね、サッちゃん。」

「なんか、部活の後輩に構って遅くなるらしいよ。さっきモモトークできてた。」

「やっぱり人気者ですねぇサオリ姉さんは。」

「頼りがいがあるし、なんだかんだで派閥の長だからね。そのへんのかねあいもあるんでしょ。」

「・・・それにしてもほいほい引き受けすぎ。せっかく今日はみんなで買い物行ってカフェ寄ろって話だったのに。」

「ごめん!みんなお待たせ!後輩の子達と話し込んじゃってて!」

「ん、全然いいよ。でも、ねぇミサキはサッちゃん取られて拗ねてるみたい。」

「そうですねぇ、ホイホイつられてんじゃねぇぞ尻軽がって言ってましたねぇ。」

「はぁ、拗ねてないし!そもそもそんなこと言ってないから!もう!早く行こサオリ!」

「あらー!昔みたいにサオリ姉さんって呼んでくれていいんだけど?」

「ーーッ!早く行こうよ!」

「そうだね、アズサへの誕生日プレゼント、みんなで送るって話だもんね。みんな事前調査は済んでる?」

「あぁ。最近アズサは「スカルマン」というキャラクターにご執心だそうよ。やっぱりそのグッズじゃない?」

「グッズ持ってたらどうするの。ダブったら面倒じゃん。やっぱ消え物がいいんじゃない?クッキーとか。」

「立ち話もなんですし、みなさんカフェで話し合いましょう!最近できた新しいとこおすすめなんですよ!」

「ほんと耳が早いねヒヨリは。じゃあ、とりあえずそこに行って作戦会議だね。」

《世界は正常に回っています。》


「楽しかったねアズサちゃんのお誕生日会!アリウス派閥の人たちに、まさかミカ様も来てくれるなんて!びっくりしちゃった。」

「・・・ああ。とても楽しかった。いっぱいプレゼントも貰ったし、お祝いの言葉ももらった。とても、幸せだ。ヒフミもありがとう。今日のことを企画したのはヒフミだと、サオリから聞いた。本当にありがとう。なにかお礼をできないだろうか?」

「全然!私も友達の誕生日を盛大にお祝いしたかっただけだし!でも、じゃあ、そうだな。うん!こうしよう!私の誕生日もお祝いしてほしいな!パーティーとまではいわなくても、お誕生日会ぐらいは開いてほしーなー。」

「むむ、が、頑張ろう。ナギサとか、アビドスの面々を誘っておくよ。そんな楽しそうな催しを見逃す人たちとも思えないしな。ホシノさんも最近「ユメ先輩が卒業したくせにずっとアビドスにいる。何とかして外に出さないと。」って犬の飼い主みたいなことも言っていた。盛大な誕生日会を期待してもらって構わないぞ!」

「やった!期待して待ってますね!とっても楽しくって、幸せです!」

「・・・そうだな、幸せだな。」

「?どうしたんですかアズサちゃん浮かない顔で。今日もお誕生日でいろんな人に祝われて、美味しいご飯を食べて、みんなからプレゼントを貰って。とってもよかったじゃないですか。」

「・・・なんだか、一人、忘れている気がするんだ。きっと、その人は私の・・・?」

《可能性は排除されました。》

「アズサちゃんと仲のいい人はみんな呼んだと思っていたんですが、だれか忘れてましたか?」

「・・・いや、あれが全員だった!ありがとう、ヒフミ!ヒフミの誕生日も期待していてくれ。」

「!はい!」

《世界は正常に回っています。》


(どうしてだろう、とても幸せで、みんな楽しそうだ。でもなぜか、とても退屈に感じてしまう。幸せで、楽しくって辛いことなんてないはずなのに。)

(みんながルールを守って、この町には秩序があって、明日は必ずやってくる。それでいいはずじゃないか。それでも、なんだか、とても退屈だ。それに、なにか大切なものを忘れている気がする。私を育ててくれた、何か大切なものを・・・。)



神秘の蔓延する学園都市キヴォトス。キヴォトスを統治するサンクトゥムタワー、その上空で彼女は微睡んでいた。これでいいと、みんな幸せじゃないかと。光の繭に包まれ、戒律の刻まれた石板を抱き。彼女は夢想する。規律ある世界を、秩序に満ちた世界を、誰も傷つかない世界を。そのためにレールを敷き、そこから外れそうなときには外れないように干渉する。彼女の思う完璧な世界を実現するために。


「ああ。この世界はどこまでも平和だ。辛いこともなく、傷つくこともない。”あんな”未来が来るというのなら、きっとこのほうがいいのだろう。誰も死なず、誰も殺さずに済むんだ。とてもいい世界じゃないか。

私が導こう。私が正そう。正して、糺そう。そして、きっとみんな幸せに・・・。」


彼女の世界は広がり続ける。かの預言者の巡礼のように。神より授かりし石板を持ち、海を割り、楽園を目指す。自身がそこへは至れないことを分かっていながらも・・・。


ーーーー


「先生、非常事態です。火急の要件にて電話にて失礼します。」


シャーレでの職務中にかかってきた非通知の電話。出てみると、黒服と名乗るゲマトリアの一員からであった。


「現在キヴォトスは危機にさらされています。その危機は目に見えるモノではなく、人の心に干渉する。誤った可能性を排除し、世界を正常に回るようにする。正す、というより糺す、そんな脅威です。正すのではなく、糺す。正解を与えるのではなく、物事の罪を見極め判断する。そんな世界が急激に拡大、このキヴォトスさえも飲み込もうとしているのです。」

”それで、私にどうしろと?”

「あなたには事態の対処に当たっていただきたい。あなたの愛する生徒さんたちが変わってしまう前に、糺されてしまう前に。そして、」

”?”


言葉に詰まる黒服。普段の冗長な語り口とは裏腹に簡潔に物事を述べてくる様は奴が真に焦っている事を予感させた。そして、と続けられた言葉に私は絶句するしかできなかった。


「アリウスの教官殿を絶対にサンクトゥムタワーに近づけないでください。今回の騒動の原因は、彼女にあります。あまねく未来を観測し、そのすべてに絶望した彼女は決意しました。不変の世界を、停滞する世界を、秩序に満ち溢れた世界を作ると。そしてそれは成しえた。そう成しえてしまったのです。詳しいことは直接お話いたします。メールで送った場所に急ぎ来ていただきたい。あなたの信じる生徒と共に。」


アリウスの教官。私には何もできなかった子。ここで、何もしないことはまた彼女を救えないことになるのではないか。そんな考えが頭をよぎった瞬間、私は考えるよりも早く行動をとっていた。仕事を途中で投げ出すという、大人としてはあるまじき行為を取ったかもしれない。それでも、「先生」は「生徒」のためには走らねばならない。コートをひっつかみ、メールに添付されていた場所を生徒の皆に送信し、走り出す。今度こそ、あの子を救うために・・・。



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