彼女と彼女と彼女たちの事情(1)
平社員を先頭にして便利屋たちは粘液塗れの廊下を走る。
道を塞ぐ生徒たちを取り込んだままの触手たちは平社員が火炎放射器で薙ぎ払い
散発的に襲いかかってくる触手たちは後続の3人が排除する。
温泉開発部などが居ることも織り込み済みのゲヘナ学園部活棟は
無闇やたらと頑丈で延焼の危険もそこまで心配はない故の
荒っぽいやり方で便利屋たちは奥へ奥へと踏み込んで行く。
一方で、ほんの少し違和感もある。
火炎放射器で炙られそうになった触手たちは必要以上に距離を取る。
本能的に炎を恐れているのかとも思ったが、
自身たちが多少焼けようと中に抱え込んだ生徒を優先するような動き。
多少ダメージを受けても苗床があればいくらでも増殖できるからかとも考えるが、違和感の払拭には至らない。
そもそもここに来るまでにロボット市民や動物市民が襲われている所も見てはいない。
何故生徒のみを襲い、生徒の中で増殖し、生徒を犯して進化する?
あの少女の手で産まれたにしてはあまりにもおかしな動きだ、いや、元々おかしいんだが。
動きを鈍らせそうな思考を打ち切り、先に目を向ける。
本人が無事なら聞き出せば良いとひたすら走り、ついには食堂の前に到達。
大型の扉の周囲で蠢く触手(と生徒)をグレネードで吹き飛ばし、
勢いのままに扉を蹴り飛ばして踏み込んだ先にぴぇっと言う声。
目の前にいたその人物と視線が合う。
この事態の第一容疑者、牛牧ジュリがそこにいた。
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視線を下げて見えたジュリの姿は控えめに言って破廉恥極まりなかった。
毛布一枚だけ羽織った裸身から零れ落ちそうな乳は常より一回りも二回りも大きく、
その先端からはとろりと白い液体が垂れ落ちている。
それなりに引き締まっていたはずの腹はだぶついた皮でだらしなく弛んでいた。
他の生徒同様に苛烈な凌辱を受けた痕。
だがそれに反してその顔は正気を保っているのはこの地獄の中では明らかに異常。
自然と己の表情が強ばるのを自覚する中、
ジュリの羽織った毛布の後ろからこちらを見つめるきらきらした眼と視線が合った。
ここに居るはずのない者を見て思考が止まる。
子供だ。ジュリによく似た、ただ他に誰かの面影のある……
次の瞬間、ジュリが背後に居た子供を庇うように抱きかかえた。
怯えた表情を浮かべながらも便利屋から視線を反らす事なく見る。
再びの見つめ合いとなったいくばくかの沈黙の後、便利屋の社長は深くため息をついた。
「……その子に今すぐ手を出すつもりはないから、まずは貴女の知っている事を教えなさいな」
子供の緑がかった皮膚も、緑の髪がもふりと動いたのも彼女の目はしっかりと捉えていたが
まるで母親が娘を守るような光景に手を出すのはあまりにもアウトローらしくなかったからだ。