彼の体には秘密がある
昨日のイサムくんは限界を超えて動き続けていたらしい。私の工房兼自宅へ着いた途端に倒れ、箱の中で眠り続けている。蒸しタオルで体を拭いてやり寝巻きに着替えさせ箱へ寝かせる、ここまでしても起きなかった。少しでも落ち着くよう抱き枕やぬいぐるみを詰めてから自分も寝た。
「おはようございます……っと、まだ起きそうにないな。朝ごはんは一人分でいいか」
朝、そっと様子を覗くと、イサムくんは抱き枕にしがみつくような形で寝ていた。
「ゆっくり寝てくださいね」
「ん……ん〜……」
夢の中で何をしているのか。イサムくんはモゾモゾと体を動かしている。箱とはいえ多少寝返りを打てる余裕はある。可愛いので寝起きの紅茶を飲みながら見ていると、途中から動きが変わってきた。ただの寝返りにしては下半身を枕へ押し付けるような感じだ。
見なかったことにしようと目を逸らす。二十歳の男の子だから溜まるものはあるだろう。人によっては疲れるといつもより盛るらしいし。
もしこのまま夢精などしてしまったらイサムくんに罪悪感を覚えさせてしまうのではと気づいたのは、紅茶を飲み終わった後だった。これ以上彼の心を傷つけたくはない。そうなるとここは一度起こしてあげたほうがいいのかもしれない。
しばらく悩んだがやはり起こすことに決めた。
「イサムくん、起きて。朝ですよ」
「ん? ああミツヒラさん、おはよう……」
浅い眠りだったのかすぐに目を覚ましたイサムくんは、抱き枕にマウンティングをするような姿勢の自分に気づいた。頬がちょっと赤くなる。元々顔色が悪いので赤みが増してようやく普通の頬だが。
「よ、汚してませんよ。大丈夫です」
混乱した私はそんなことを口走った。イサムくんの方が冷静に私と抱き枕を見比べる。
「汚さないと思うよ。できないし」
「え?」
「……あ、いやなんでもない。泊めてくれてありがとう」
「いえ、私の趣味に付き合っていただいてるんですから。そう、その、目玉焼きの加減を聞きたくて起こしてしまったんです。半熟か固茹でか……」
イサムくんが奪われたのは四肢だけじゃないと、その時の私はまだ知らなかった。