彩タキトレ概念

彩タキトレ概念


「あ、アグネスタキオンさんのトレーナーさん!」

「ん?どうしたー?」


ある日のこと、昨日は徹夜で実験をすると息巻いていたタキオンを起こす為に研究室へと足を運んでいると、ウマ娘の一人に声をかけられた。


・・・はて、こんなウマ娘はいただろうか、大体は頭に入れたつもりだが、しかし記憶にない顔だ。


「えっとですね、トレーナーさんにお話したいことがあるので、3女神像にまで来て貰えませんか?」

「え、急だな・・・これからタキオンを起こしに行くつもりだったんだけど・・・」


何せ僕の担当バであるタキオン─アグネスタキオンは、研究のことと限界を見ることについては少々熱心だが、しかしその分のしわ寄せなのか日常生活においてはおおよそ「ズボラ」と言い換えても差し支えがないほどに───まぁ、その、破綻している。


服はネット通販、自室の片付けはルームメイトがやっているまでは良かった。いや良くはないのだけれど。

しかし食事を得体の知れないミキシングドリングで済ませていると知った時は思わず卒倒しそうになったものだ。


それ以来、僕が毎朝、3食分のお弁当を作ったりしている訳だが・・・。


閑話休題


そんな訳で、僕はこれから研究室でおよそ体が軋むことを度外視した寝方をしていることは疑いようのないタキオンを起こしに行きたいのだけれど・・・。


「お願いします!大事なお話なんです!」

「んー・・・しょうがないか」


担当ではないとは言え、1トレーナーとして目の前のウマ娘を蔑ろにするのもまた違う。

タキオンにはちょっと怒られるかもだが、ここはマンハッタンカフェに任せるとしよう。


カフェに「今度マカロンを作るから代わりにタキオンを起こしてくれないか」と連絡を送る。


しばらくの沈黙の後、カフェから「仕方ありません」と連絡が来たことを確認し、目の前の子に告げる。


「わかった、大事な話なんだね。女神像まで行こうか」

「!ありがとうございます!」


その子は耳と尻尾をぴょこぴょこさせながら喜ぶ。そんなに大事な話だったのか。


一体どんな話なのだろうかと3割、カフェに起こされたタキオンの機嫌取りのお菓子は何にしようかと8割考えながら、気がつけば3女神像の前についていた。


「それで、一体どんなはな・・・あれ?」


振り向いて彼女に聞こうとしたけれど、その先に彼女はいない。

はて、自分は狐にでも化かされたのだろうか、それとも昨日の薬の副作用で偶然幻覚でも見たのだろうか、そんなことを考えていると──。


「──ごめんなさい」


「え、ごふっ!?」


衝撃。その後暗転。


残念、僕の人生はここで終わってしまったようだった──




「ってなるかーーー!!!!!」


がば、と布団をはねのけて起き上がる。


「あれ、ここは・・・」


回りを見渡すと、真っ白い空間。

知らない風景・・・でもなく、ここはトレセン学園の保健室だった。


「倒れた僕を誰かがつれてきてくれたのか・・・いたた・・・」


頭部の痛みで思わず手を当てる。

ピョコ、という感触が手に当たる。


「・・・・・・んぇ?」


思わず手をみる。

そして気がつく。


はて、僕の手はこんなに細かっただろうか・・・。

そのまま目線を下にやり、2度驚く。


「はぁ!?え!?こ、れは・・・」


何か、というのは僕の成人男性としてのプライドから言えないが、柔らかい小山が二つ、僕にくっついていた。


「ちょっと待って、ちょっと待ってくれ・・・?ん・・・なんか背中にもいわ・・・かん・・・」


僕が背中側に違和感を憶えて意識を向けたのと、ガラララッ、と保健室の扉が開くのは同時だったと言えるだろう。


「トレーナー君!女神像の前で倒れたと聞いたが大丈夫なの・・・かい・・・?」


扉をあけてやってきたタキオンが目をぱちくりしている。

それもそうだろう。僕もそうだ。


何せ、僕が意識を向けた時に僕の顔に何かがあたったのだ。


それは、尻尾だった。


おそるおそる、頭部に手を翳す。


ぴょこん、といくすぐったい感覚が襲う。


・・・間違いない。間違いないのだ。


「・・・・・・タキオン」

「トレーナー・・・君?」

「ごめん、僕ウマ娘になったみたい」


その日、滅多に聞くことのできないタキオンの悲鳴が、トレセン学園を駆け巡った。



数週間後、という名のオチ。


「んん・・・」

「ほらタキオン、起きて、おーきーて」

ある朝、アグネスタキオンとアグネスデジタルの自室にて、ゆさゆさ、誰かがとタキオンの体を揺する。

「なんだいデジタルくん・・・私は昨日遅くまで実験をしていたのだから寝かせておいてくれと言った・・・」

「やっぱり、自室に帰ってから実験してたんだね、タキオン」

「・・・・・・トレーナーくん?」

「そうだよ。あーあ、「私」の言いつけを破って夜遅くまで夜更かしするおねぼけタキオンには、この持ってきたお弁当はいらないかなぁ」

「わかった、起きる。起きるよ。だからそのお弁当を没収だなんて言わないでくれたまえ」

「はぁ・・・今日はちゃんと早く寝るんだよ?はい、お弁当」

「わかったよ・・・これではトレーナー君はなくお母さんだねえ」

「私は男でタキオンのトレーナーだろ!」

「その一人称とその喋り方、そしてその見た目を見てそう思う人間やウマ娘が、一体どれほどいるのかねぇ」

「社会人として、見た目に合わせた口調にしているだけです。私はタキオンと違って大人、ですので」

「ほぉ・・・言うねえ?その体になってブラックコーヒーが飲めなくなったとカフェから聞いたよぉ?」

「なっ・・・カフェぇ・・・!そ、そもそもタキオンだって甘党じゃない!しかも私よりうんと!」

「はっはっは、そうとも。しかし、ずいぶんとまぁ感情が表に出るようになったんじゃないかな?まるで思春期のウマ娘のようじゃないか」

「あぁ言えばこういうタキオンだこと・・・。やっぱりお弁当は没収しようかなぁ」

「あー!それはずるいぞトレーナーくん!ひーきょーうーだーぞー!」

「はっはっはー!これが大人なのだよタキオン!」



・・・私は、意外とすぐに順応できたのだった。

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