引き立て役Bちゃんの懺悔
例の事件でドーム公演中止を余儀なくされ、解散後はアイとは絶縁状態だった。
アイには複雑な感情と、夢のドーム公演が潰された事への(半ば八つ当たり気味な)怒りを抱いていた。
いつしか芸能界も引退し、一般人として暮らす中で結婚、子供にも恵まれた。
日常生活に勤しむさなか、偶然アイが出演する番組を娘と一緒に視聴する。
そこにいるのはかつて自分達を灼き尽くした「完璧で究極のアイドル」ではなかった。
「至って普通の」「並よりは画面映えする」「美人女優/タレント」でしかなかった。
時折かつての輝きの片鱗を垣間見せる時もあったが、あの頃とは比べるべくもない。
娘は画面の中のアイに惹かれているようだが、全盛期の彼女ならこんなものでは済まない。
その時全てのきっかけになった例の事件をふと思い出す。
当時アイは社長夫妻の子供達の面倒を見ていた。
アイは斎藤社長のお気に入りだったし、その縁か夫妻の子供達もよく可愛がっていたという。
押し掛けてきたストーカーに暴行を受け、双子は命を奪われてしまった。
アイは必死で抵抗したらしいが、子供達を守る事は叶わなかった。
アイは実子ではないとはいえ、可愛がっていた子供達を目の前で奪われた。
その悲惨な光景、罪悪感、悲しみ…湧き上がる感情は計り知れない。
今の自分に置き換えてみる。
もし最愛の娘を目の前で奪われたら。
自分だけが助かったとして、生きる意味を見出だせるだろうか。
アイの心は壊れていてもおかしくなかった。
いや、実際に壊れていたのだろう。
だからこそ活動休止、B小町解散に至ったのだから。
そんな彼女の苦しみを知ろうともせず、自分達はアイを一方的に憎み続けていた。
いつしかアイへの申し訳無さ、罪悪感が湧き上がっていた。
解散の時、一方的にアイに当たり散らしてしまった。
あの時の愚かな行為を謝りたい。
今のアイは一部では「かつての輝きを失った」「才能の残骸で生き延びている」などと揶揄されていた。
最近ネットでも目にする「かつての天才子役」のような言われようだ。
でもあれで良いのだ。
あれが今のアイの精一杯なのだから。
今こうして芸能界で生き延びている事が不思議な程。
自分ならとうに潰れて、生きていられるかすらも怪しい。
気付けば目には涙が溢れていた。無意識に娘を抱きしめていた。
娘は戸惑いを覚えているが、私は娘が今を元気に生きている、この事実を噛み締めていた。
「アイ、ごめんね…アイ…ごめん…」
アイドル時代なら絶対に出る事の無かった言葉が溢れ出る。
いつか、きちんと当時の事を謝りたい。
彼女と面と向かって、本当の思いを伝えたい。