廃墟と化した巨大船にて
「それじゃ、私はこれからクマシーを探しに行く。その間お前は好きにしていいが、絶対に船の外には出るなよ!?」
「………………」
「とにかく外に出るなよ!?わかったな!?」
ペローナは目の前の男にビシッと指を指しながら叫ぶと、そのままどこかへと飛んで行った
男…ミホークは飛んでいく彼女の背中を無言で見送った後、どこかへと歩き始めた
その日、食料や日用品の買い出しのために島の外に出た二人の目の前に現れたのは、なんとも巨大な漂流船であった
そのあまりの巨大さにペローナは一瞬驚いたが、それが懐かしのスリラーバークである事にすぐに気付いた
「おい鷹の目!この中に入るぞ!今すぐ入るぞ!!」
肩をブンブン揺さぶりながら叫ぶペローナに呆れつつもミホークは開いた状態になっている口のような門へと船を向け、この世界一巨大な海賊船へと入っていったのであった
荒れ果てた森の中をミホークは一人進む
時折視界の端に映る瓦礫やゾンビ兵の残骸は、二年前に起きたという麦わらの一味との戦いの傷痕だろう
彼はそれらに一切目を向けることなく、どこへともなく歩いていく
森を抜けて広い墓場に入るが、こちらもそこかしこにゾンビがころがっている
その中を歩いていくと、目の前に大きな墓が現れた
「……………」
ミホークは墓の前で立ち止まり、顔を上げる
ドクロと船が頂点についた大きな十字、それを支える四角の台座には音符の装飾が施されている
そして朽ちてしまってはいるが花が供えられていたと思われる跡もあり、この墓が丁重に扱われていた事が窺える
『ルンバー、海賊団…』
その墓に刻まれていた名に、ミホークは聞いたことがあった
ルンバー海賊団、かの海賊王がまだルーキーであった頃に存在していたという海賊団
その船員の一人のなかでも、“鼻唄”という男はとりわけ強い剣士であったという
かの時代の海賊団の名を、こんな場所で見ることになるとは
ミホークがそう思いながらふと足元を見ると、そこに一本の刀が突き刺さっていた
漆黒に金の装飾が施された、シンプルながら美しい造形の柄と鞘
一見するとこのまま抜いて戦えるようにも見えるが、彼の直観はこの刀が既に死んでいることを告げていた
海賊団の遺品か、それとも別の誰かが置いたのか
この刀に少し興味のわいたミホークが近くで見ようと屈もうとしたその時、
「やっと見つけたぞ!」
振り返ると巨大なクマのぬいぐるみを抱えたペローナがいた
「いったいどこをほっつき歩いてたんだ!?」
そう言って詰め寄るペローナに、ミホークは表情一つ変えず「もう用は済んだのか?」と尋ねる
「ああ。本当はほかにも連れて行きたいけど、お前の船に乗せるには多すぎるからな。って、さっきの私の話聞いてたか!?」
「用が済んだならいい」
「だから私の話を…ってなんだこの墓?」
ペローナはミホークの横から顔を出し、墓を見つめる
「こんなデザイン、モリア様の趣味じゃねェな。それにルンバー、海賊団?ってのも聞いたことねェな」
ペローナがそう言うと、ミホークは「そうか」とだけ返す
彼女が知らないのなら、おそらくこれは麦わらの一味が建てた墓なのだろうとミホークは考える
同時に、目の前の漆黒の刀の主人についても察しがついた
ミホークは口元に微かな笑みが浮かべ、首に下げた十字架に触れる
「なんだ?弔っていくのか?」
物珍しげに見つめるペローナをよそにミホークは目を伏せ、目の前の墓に向かって静かに頭を垂れた