序章
今年から配属された風都警察署。
ゆかりは勤務を終えて、独身寮への帰路についていた。
故郷が風都のお隣だったから、ふと遠くの空へと視線を向ける時に視界に入ることがあったけれど…
毎日の行き帰りで発見した眺望から風都タワーを眺めていた。
「夜は格別に綺麗だな…」
自分が風都に在住していると認識させて感慨深い景色。
「お嬢さん目の付け所が良いな、ここらは穴場スポットなんだよ」
隣に、大きな鍔付き帽子を被った男性が佇んでいた。
「おじさま、夜中に女性を口説いていたらその指輪の奥様に怒られてしまいますよ?」
「へへっ、街の夜回りだから大丈夫ですよ。おまわりさん」
今の服装はパンツスーツ姿、何処から警察官と気づいたのだろうか?
「あ、ストーカーとかじゃないぞ。知り合いに警察の奴が居て、あんたと似てるんだよ」
その時、異様な物音が聞こえた。
「悪いことは言わない。とにかく、回れ右して逃げろ」
「何からですか?」
物音の方へ視線を動かすと暗がりに人影があった。いいや、人ではない怪物だ。
「なるほど、解りました」
私は、怪物に向かってその場しのぎに石を投げた。体は鍛えている。ひとまず、無理矢理手を握ってあの場から連れて来た一般市民を安全な場所にまで避難させなければいけない。
パンプスではなく、場合によっては男性を背負うことも可能な運動靴を常時着用しておいて良かった。
「きやぁっ!」
私の立っていた地面がぬかるみ、脚を囚われ思ったように動かなくなる。
「先に逃げてください!」
「そんなこと出来ないだろ」
図体にお見合いで愚鈍にしか、動くことが出来ないらしい。噛み砕こうと首を振る相手の行動を見極めてやり過ごした後、男性は身を屈み、怪物の腹部に拳を叩き込むが素知らぬ素振りでいた。至近距離の怪物は、全身がザラザラとした肌質で尖った牙を月光で輝かせていた。
「女、お前は違う。ジョーカー、あんたは…」
「左翔太郎。この街を護る探偵さ」
鮫の怪物は、翔太郎さんを呑み込んでその場から消えました。
それが、最後に私が目撃した翔太郎さんの情報です。