序章もしくは蛇足

序章もしくは蛇足

稲生紅衣メメ虎屋ダルヴァの主
分かりやすい様にお借りします

──女の話をしよう

脳が自我を獲得した頃には既に少女には不幸が付いて回った

自我は獲得したがモノゴコロという物は身にはつかない

過去からの賜物だ と王は手を差し伸べる

悲劇の結果だ と余人は憐れみ手を伸ばす

そこに無ければ無い と少女は言い切る

硝子で出来た心は透き通る

手を差し伸べ 砕けるのは心が先か 手が先か


恋は夢(みらい)見る力 だが現実に阻まれその目は潰れてしまう

愛は過去より湧きだす力 だが夢に焦がれ焼き尽くされてしまう

現実は歩み進める力 だが過去に足を取られ釘付けにされてしまう

王に恋を 王女に愛を 少女に現実を

行く末を見つめず過去は振り返らず 少女はただ今を明瞭に見据える

その姿は狩人 だがその口からは獣の如き牙が見えていた

人はそれを笑顔と認めたが 果たして──


「さて どうやらようやく仕事を運んできたらしいな...

いや待て...俺が自分から仕事を欲するとは 世も末が近いらしい!」

白の領土と呼ばれる領域の一部 そこにアンデルセンは既にカワキが用意していた影の内に陣地を形成していた

マスターとサーヴァントといった関わりでは無く ただ雇い主と雇われといった関係

しかし 仕事ははただ陣地を作成し維持するというだけであり...執筆に関してはノータッチだ

「執筆? ここを維持してくれれば好きにして良い 私は何も縛る気は無いよ」

脳裏にはあの感情の抜けたような顔で少女が放った言葉が思い返される

作家の身であったアンデルセンもカンヅメにされた状態であるのに何も求められないという経験はそうそうない あってたまるか

「カルデアのマスターか このふざけにふざけた物語にオマエはどうケリをつけるのか」

きっと普段なら仕事など出来るだけ拒みたくなるだろうが今日は特別だ 今はマスター達を迎え入れるためにお湯の一つでも沸かしておこう


「さて カルデアのマスターとサーヴァント...そして性悪女」

「アンデルセンさん カワキさんは性悪と呼ぶような人とは思いませんが...」

マシュが開口一番に悪態をついたアンデルセンに可愛らしい顔を少しムッとさせて抗議するがアンデルセンは気にしていない

「真実を語って悪びれる気は無い それよりも情報は集めておいたが...聞くか?」

「そうしてもらえると助かるね」

カワキも特に気に留めていないようだ アンデルセンも気にせず話を続ける

「黒の陣営 赤の陣営 白の陣営...それぞれの陣営が交差する地点にはぐれ者たちが徒党を組んでいるのは知っているな?

ただはぐれ者たちは中立と行っても全てに喧嘩を売っている だが叩き潰されずに今日まで生き残っている」

なぜ生き残っているのか カルデアのマスターが不思議に思うのも無理はない

少なくともカワキ程の手練れが群れを成して囲んでいるのだから考えづらい話だ

「確か...霊脈のある地点に拠点を置き相当に強固な門で守っている 恐らく王が直接出向か無ければならないなら後回しになりつづけるのも理解できる」

カワキがそう答えると 軽くため息を吐きながらアンデルセンが訂正する

「それは『嘘』だ 既に術中にあるその耳では納得できないだろうが...実際に各陣営が掴んでいる位置には霊脈は無く小規模なダミーがあるだけだ

彼らの本物の拠点は少しだけ白の陣営に寄った場所にある 理解を深めるためにも人物に関しても語るとしよう」


○虎屋翼 男性 完現術師 見た目は少女に近い

「少々倒錯した趣向を持っているが一般人に近い感性を持っている が...文字通りの復讐者だ 黒の陣営の王に対して恨みがあるがよそとは相いれない結果このはぐれ者となった 能力は人の心を暴き 人の体を操る...碌な物では無いな!」

マシュ「強力そうな能力ですし対策を考えないといけませんね...」

○稲生ひよ乃 女性 滅却師と死神 見た目は少女に近い

「能力が鴉の生産と嘘を自他ともに信じ込ませるという物 元々黒の陣営に召喚されたが裏切ったスパイであったため殺されかけたようだな その結果はぐれ者になった

スパイの期間ではぐれ者の情報に嘘を混ぜ込み多くの者に信じ込ませたようだな...おかげで雇い主がポンコツになってしまって仕事が増えた!」

カワキ「生前は黒の陣営の王に効く武器(矢尻)を作成したと言っていた 嘘でなければ有益だろうね」

○メメ・マールヴォロ 男性 虚と滅却師 見た目はゴリマッチョ

「ピザの配達をしているニンジャ 黒も赤も白も全て配達範囲内で安心だ

念の為言っておくが...拠点の位置がバレない様にコンビニで受け取っている」

マスター「あるんだ...コンビニ!?」

○京楽紅衣 男性か女性 死神と完現術師 見た目は長身の男か少女

「あ ま り に も!中途半端な男だ!全裸と謳いながらその実は局所を検閲(光)しているとは無粋が過ぎる!いっそ俺が脱いで手本を見せてやりたいほどの凡夫だ!あまり見せても良い気分にならん体だがな!

能力は服を弾けさせる物とモザイクをする能力だ」

マスター「礼装が破損したら戦力的にも社会的にもマズいね...いや冗談じゃなく」

○シーカーダルヴァ シーカー・マツィヤ

「赤の陣営には黒の陣営の王が呼ぶだろうと遠慮され 黒の陣営の王にすっかり忘れされられていた忠臣(笑)とその被造死神だ

忘れられていたことにキレて黒の陣営の王アンチとしてはぐれ者をしている

能力は両者頑健な事と基礎が出来ている事 毒や薬の生成 魚を扱える事らしいが...スシの出前にでも使って欲しい所だな」

カワキ「戦うとなると恐らく時間がかかる 面倒も多くなるね」


ある程度言い終えアンデルセンが紅茶を飲んで口を潤す 次に出てきた言葉は

「総評するとだいたいエ〇トラップダンジョンだな...常識改変に身体操作に思考への侵食,毒や薬に弾け飛ぶ衣服...なるほど 仮に嘘の仕組みが分かっていても誰も行きたがらないわけだ」

「トラップ...?よく分かりませんがこの特異点自体の情報も不足していますし そこには近づかないようにして陣営についての情報をもっと集めませんか?」

アンデルセンが言っている概念をあまり理解していない様子のマシュは特異点への理解を進めることを進言した

少しばかり体を休めてまたこの不可解な特異点を彼らは歩む

物語は少しずつ黒いインクで乱雑にかつ規則的に埋まっていくのだろう

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