幽霊が見えるロー

 幽霊が見えるロー

 

 夜になると偶に「キャプテン、キャプテン」と聞き慣れない声が聞こえてくる。男だったり、女だったり、若かったり、年老いていたり、声は様々だ。原因はとっくにわかっているのに、どうすることも出来無いまま放置している。

 声はどうやらおれにしか聞こえていないようで、ベポ達に知らない奴の声がするというと、ストレスで幻聴が聴こえてるんじゃないかと心配させてしまった。だが、断じて幻聴などではない。

 今夜も声が聞こえてくる。いつもなら数分程で止むのだが、今日はやけに長い。こっちにも都合があるというのに、いつまでも居座られては迷惑だ。おれは食堂を後にして声のする方へと足を進めた。

 一際大きい部屋の前まで来ると、声はより一層、大きくハッキリと聞こえてきた。十人以上はいるのだろうか扉の向こうは随分と騒がしい。

 ドアノブを回すと扉はなんの抵抗もなく開く。部屋に入ると血だらけの人間達が視界に映った。眉間に銃痕のある男や自分の生首を抱えた女、胸部に矢が刺さったままの老人も居る。他にも老若男女さまざまな人が居るが、共通しているのは皆一様に笑顔を浮かべていることと体が透けていることだ。所謂、幽霊というやつだ。

 幽霊達は笑いながら円になって囲み「キャプテン、キャプテン」と話かけている。

「野菜とか果物も食べて下さい」「風邪ひかないでね!」「ちゃんと休め」「疲れてないか?」「無理はするな」「暖かくして寝ろよ」「怪我しないようにしてくださいね」「悩みは抱え込まずに相談しろよ」「楽しそうでよかった」「いい奴らに会えたんだな」「貴方が幸せならおれ達も幸せです」

 ボーン、ボーンと日付が変わる音がした。幽霊達は示し合わせていたのだろう一斉に口を開く

「誕生日おめでとうキャプテン!おれらの分まで長生きしろよ!!」

 それを言って、ようやく満足したのか幽霊達は消えていった。


 先程まで霊に囲まれていた男、ジャンバールに視線をやると穏やかに寝息を立てている。

「おい、起きろジャンバール」

体を揺すると、のっそりと起き上がった。

「……?キャプテン……どうした?敵襲か?」

「話がある。食堂まで来い」

「わかった。直ぐに行こう」

 ジャンバールはいきなり起こされたというのに、怒ることもなく大人しく付いてくる。

「……なぁ。さっき、おれのことを『キャプテン』と呼ばなかったか?誰かに呼ばれた気がするんだ」

「呼ぶわけ無いだろ。おれがお前のキャプテンだ」

「……ああ、その通りだ。すまない、おかしな事を聞いた」

食堂の前まで来ると、騒ぐ声が聞こえてくる。ジャンバールに扉を開けさせた。瞬間、パーンっと音が鳴り、紙吹雪が舞う。

「誕生日おめでとう!ジャンバール」

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