幼妻if√に脳を焼かれた

幼妻if√に脳を焼かれた


「焦げちゃったじゃないですか!」

「良いじゃねェか、食えるんだろ?」

「食べられはしますけど、美味しくないんです! せっかく美味しい物を食べてもらいたかったのに!」

そう言って怒る声は甲高い。御伽噺の主人公であるお姫様が怒る様な声を出しているのは、桃色の髪の青年だった。とはいえ、姿は青年とは思えない程女性的だった。全体的に丸みを帯びている柔らかそうな体で髪は長く、丁寧に手入れされている。この海賊団の頭である四皇黒ひげ、マーシャル・D・ティーチお気に入りの香りがふわりと漂う艶やかな髪だ。そんな彼──名前をコビーという──の側には外側が真っ黒に焦げた何かがあった。手作りのチェリーパイ、だった物だ。3メートル越えであるティーチに合わせた大きさのそれは、ただでさえ作るのが難しい。今日こそは上手く行ったな、と手応えがあったのに、焼き加減を見ている最中にコビーは後ろから軽く抱き上げられた。ティーチにそうして抱き上げられるのも片膝に乗せられる事も大好きであったからそれは良いのだけれど、服の隙間から手を差し入れられるのには困ってしまう。大きくて皮の厚いその手が胸や腹や至る所を撫でるだけで、コビーの中のそういうスイッチは簡単に入ってしまうからだ。髪色と同じ様に染まった頰で、大好きなその人を上目遣いに見上げる。

「ん……っ♡」

顎を掬われて、そのまま捕食されてしまいそうなキスをされる。とっくの昔に口の中まで性感帯にされたコビーはそれだけでどろどろになって、甘ったるい目でティーチを見上げた。

「すっかり淫乱になっちまったなァ」

満足そうに笑って、また貪る様な口付けが始まる。コビーにとって何よりも幸せな時間だった。


アルビダに「役立たず」として船から下ろされ、行く宛も無く、このまま死んでしまうのかと恐怖していたコビーを拾ってくれたのはティーチだった。ティーチは愚図でのろまだと罵られた自分を手ずから鍛えてくれてここまで強くしてくれたし、彼が楽しそうに語る歴史の話が大好きだった。ラフィット達海賊団の幹部や船員達はコビーを家族の様に扱ってくれた。なによりも沢山愛してくれた。温かくてどろどろで幸せで溶けてしまいそうな、何にも代え難い、幸せ。コビーにとって、彼らは世界の全てだった。


一体いつ何処で彼のスイッチが入ったのかは分からないし、焼き加減を見ておかないとせっかく彼の為に作っていたパイが黒焦げになってしまう。しかしその考えが無くなる程、その時のコビーはとっくにティーチに愛される事しか頭に入っておらず。結果、チェリーパイは真っ黒焦げになってしまった。

「おれァ好きだぜコビー、お前の作った生焼けで外が焦げてるチェリーパイ」

コビーを片膝に乗せて髪を撫でながらティーチは言う。確かに彼はいつもなんだかんだでそんな状態でも完食してくれるけれど、やっぱり大好きな人にはちゃんと成功した、美味しい物を食べて欲しい。

「ちゃんと作ったら美味しくなりますよ!……多分。今まで成功した記憶無いですけど……」

何せ作っている最中にいつもティーチはコビーに色んな悪戯を仕掛けてくるからだ。そしてそれにいつも溶かされて流されて愛されて、代わりにチェリーパイはぷすぷすと焦げる。

「なんでいっつも作ってる時にいたずらしてくるんです?」

むう、としながら尋ねると、ティーチはゼハハハ、と笑って。

「そりゃァ、おれの為にわざわざ好物作ってるお前が可愛くて仕方ねェからよ」

「……もう」

そんな事を言われたら何も言えなくなってしまう。きっと次に作るチェリーパイも、中は生焼けで外側は黒焦げなのだろう。


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