幸福の意味
護廷十三隊は横のつながりが薄いと言われる。それは事実であった。だが一部にとってそれは過去の話。
一年と4ヶ月前に拳西が保護した子供が変えた。痛々しいほどに細く、儚く、心身に傷を持っている、それでありながら健気な真っ直ぐさを失わずにいるその魂が変えた。
12月23日夜、六車拳西邸。ここに集まった者達を見ればなんの緊急会議かと思うところだろう。
家主である拳西を筆頭に、夜一、喜助、ローズ、平子、ひよ里、羅武、リサに白、ハッチ、京楽、浮竹。だが実際はなんのことはない。彼等の視線の先にいるのは幼い子ども達であり、護廷の主力達は今はただの保護者たちである。
拳西が子供を保護する前から、浦原が保護者をつとめる阿近や京楽の親類である七緒、そして平子が後見をつとめるギンと乱菊など子供はまあまあいたのだが、拳西達は平子と親しいためギンと乱菊のことは多少知っており会話をすることもあったとはいえその程度の繫がりでしかなかった。
けれど拳西が保護した修兵はそれまでの孤独と過酷な環境からあまりに深く傷ついており拳西ひとりでは色々と支障が出ることが明白だったために、自然と周りに協力を仰ぐことになった。結果、隊長達の繋がりは急速に強化されたというわけだ。
ともかく今日、ここにこれだけの面子が揃っているのは明日がクリスマスイブだからだ。 明日は夕方から、朽木家が場所とモミの木を提供してくれてクリスマスパーティーなのだ。
ちなみに拳西は明日有給を取得しており、朽木家の使用人と協力しながら修兵の好きな料理なんかも作ってやるつもりでいるが、その楽しいパーティーを前に子供達は今夜は拳西邸でお泊まり会をしつつツリーを賑やかにする飾りを作っている。
そして大人達はそのなんともほのぼのとした光景を少し離れて見守りつつ幸せな気分になっているのが現在である。
ここにいる子供は修兵と、春先に両親が亡くなり修兵のあそびあいてもかねて拳西が引き取ったイヅル、阿近、七緒、ギン、乱菊、白哉、そして貴族の思惑で流魂街から瀞霊廷に来て今は羅武が保護者となった○○。
「こうしてみると白哉坊もギン坊もやはりまだまだ子供じゃのう」
「ほんまやな。乱菊の保護者みたいな態度とることも多いけどアイツもなんやかんやと子供しとるわ」
くっくっ、と笑ったのは夜一と平子。
もちろん悪い意味ではない。
「阿近君もね。よかったよ。子供は子供らしいのがいちばんだ」
子供好きの浮竹の至極尤もな意見にみんな微笑う。拳西もそれに同意しながら修兵の様子を伺ってみた。昨年の今頃はなんとか精神的に落ち着き、慣れた者とは笑顔で会話ができるようになってはいたしプレゼントもしたのだが、全く初めての経験に目を丸くするばかりだった。
しかもようやく少し痛々しい細さを脱し笑顔も増えてきて良かった良かったと安堵し年が明けた今年に入って、全く親しくもない形式にばかり拘る者達が修兵の言葉遣い、つまりは修兵が拳西を呼び捨てにすることを咎めるという害でしかないことをしでかしてくれたせいで修兵は拳西に対して一時的にではあるが緘黙症のようになり話せなくなっていた。幸いにも短い期間で原因が判り解決できたからよかったものの、対応が遅れていたらと思うとゾッとする。本当にそのまま拳西と口がきけなくなっていたかもしれない。
そんなこともあったがどうやら修兵はクリスマス飾りの作成を楽しめているようだ。これは明日楽しませてやらないとな、と改めて思う。
「おほしさま?」
「そう、これで星になるの」
天辺の星飾りは、朽木家でちゃんとしたモノを用意してくれるらしいがこれはそれとして子供達は折り紙などを駆使しながら飾りを作っているようだ。
「まさか護廷が保育所になるとはな」と笑ったのは羅武。
「けんせー。できたー!」
「ん、どうした?」
ニコニコと笑いながら駆け寄ってきた修兵に視線を合わせてやると
「おほしさまできたよ!」
告げる幼い瞳はそれこそキラキラと輝いていた。
「すごいな。上手だ。明日みんなと作った飾り大っきな木に飾ろうな」
よしよし、と頭を撫でてやると、うん!と元気よく言った直後、大きな瞳からポロポロと涙が流れ出す。
その光景に驚いた子供達が一斉に集まってきた
「修くん、どうしたの!?」
真っ先に声をかけてきたイヅルに、ローズが、大丈夫だよと声をかける。修兵自身もなぜ涙が出ているのかわかってないようだ。せっかく作った星が涙でダメにならないようにイヅルに預けてから、拳西は修兵を抱き上げた。
「楽しいな、修兵。」
微笑んで背をあやしながらゆっくりと声をかけてやる。
「……うんっ、」
「皆と楽しいことできて嬉しいな。」
「うんっ!」
はじめての幸福感でいっぱいになって言葉にできずにいる修兵のかわりに、子供達に伝わるように言葉にしてやる。イヅルや白哉、七緒、阿近は楽しくて涙が出るという感覚が判らないのか不思議そうにはしていたがそれはべつに構わない。
むしろ、こんなことをわかってしまう修兵やギン、乱菊の今までが悲しいだけだ。
けれどその悲しみももう終わったこと。
「これからずっと沢山こういう楽しいことあるんだぞ。当たり前にな。」
「けんせーも…、いっしょ?」
「それも当たり前だ」
うんっ!とまた輝く笑顔に戻った瞳に残った幸福の涙の名残を指ですくい取ってその頬をそっと撫でた。