幸せを届ける花
(クリス寝る時服を着ない概念が面白かったのでSS書き捨て)
クリス・プリンスは裸族である。
誤解が発生するので付け加えるが彼は眠るとき服を着ずに全裸になるのが常であった。自らの筋肉こそが寝巻きなのだとは何かの雑誌でのインタビューでも語っていた。
そんな彼は今日のトレーニングデータをまとめておりその順調な成果に満足げな笑顔を浮かべている。作業が終わりデータを保存しタブレットの電源を落とせば後は眠るだけだ。いざ就寝と服を脱ぎ捨て下着に手をかけたところでドアがノックされる。
一瞬服を着なおそうかと考えたが再び脱ぐのも億劫だ、自分の身体を見て不快には思われないだろうと結論づけたのか完璧と称される肉体を披露したままドアを開けた。
そこにいたのはクリスの教え子の一人である凪誠士郎の友人である雪宮剣優だった。凪や雪宮はペットと言っているが恐らく冗談だろう、そんな彼は何故かバスローブを着ており美しい微笑みを浮かべている。
「こんばんはユッキー!こんな時間にどうしたんだい?」
「こんばんは、今日はクリスさんに幸せを届けに来たんです」
「幸せのデリバリーが出来るのかブルーロックは。まあ少しくらいなら話も出来るし中にどうぞ」
「お邪魔します」
クリスが中に入るように促すと雪宮は静かに部屋に入る、床に散らばっている衣服を踏まないようにしながら歩を進めれば大きなベッドに辿り着いた。凪くんと寝てるのより大きいな、と思いながら上に座ればしっかりとしたマットレスが雪宮の体重を受け止める。
「散らかっていてすまないねユッキー、寝る前はどうしても服を……ってストップストップ!何をしてるんだ!」
脱ぎ散らかした服を集めながらクリスが雪宮に目を向けると彼は着ているバスローブの紐をほどき始めていた、慌てて止めるが少し遅くしゅるり、と音を立ててバスローブが脱げ上半身があらわになる。クリスは慌てて自分の持っている服を全て雪宮の身体にかぶせた。
「はぁー間に合った……さて剣優、君は何を考えているのかな?」
「何を、ですか?俺はクリスさんに幸せを届けたいだけなんですが」
その質問に服の隙間から顔を出した雪宮が答える、その内容は部屋に来た時と全く変わらないものだった。しかしクリスには解せないことがある、何故幸せを届ける為に脱ぐのかだ。
クリスの優秀な頭脳が様々な答えを導きだす、しかしその答えと脱ぐという行動が噛み合わない。そこでクリスは最悪の答えを考え付いてしまった。
雪宮剣優は現役のモデルだ、芸能界に身を置く彼は恐らくその恵まれた容姿から様々な"問題"に直面していただろう。クリス自身もCMなどの撮影に参加しているからそういう話はよく聞くし何なら対象にされかけたこともあった。もちろん全身全霊で叩き潰させてもらったが。
しかし雪宮はまだ未成年であり守られる存在だ、前に彼とフレグランスの広告を撮影した時はどうだったか。あの時は二人とも服を脱いでいたが周囲の反応は様々だった。クリスに対しては完璧な肉体に称賛の声があがっていたが雪宮に対しては何やら下世話なそれが混ざっていなかっただろうか。
「剣優、君はまさか…」
「クリスさんがやりやすいように脱ごうとしたんですが駄目でしたか?」
「あぁ……そんな、やりやすいようにだなんて、君は、君は…!」
彼は薄汚い大人の毒牙にかかってしまい深く傷ついている、ならば自分に出来ることは何なのかとクリスは自らに問いかける。教え導く者として、大人として彼に寄り添い癒すべきなのだと答えを出した。
「誠士郎は、知っているのかい?」
「凪くん?凪くんがどうかしたんですか?」
「…OK、今日は俺の部屋で泊まるといい。誠士郎とは明日時間を作るから話し合うとしよう」
「えっ、それはちょっと「よし、そうと決まれば寝ようかユッキー!安心してくれ俺は大人として君を守るからね!」え、えぇ…?」
クリスは素早くベッドの中に入り服で包み込んだままの雪宮を引きずり込む、枕元に放り出したままだった電気のリモコンで部屋を暗くすれば寝る準備は万端だ。向かい合うように横になれば虚をつかれたままの彼の顔が目に入った。
「安心してくれ剣優、俺は君を傷付けた輩とは違うから。もうあんな事をしなくてもいいんだ」
「はぁ…」
混乱したままの雪宮と自己完結をしたクリス、そこに訂正を入れてくれる人間は存在しなかった。
翌日凪を起こす為にクリスの部屋を抜け出した雪宮は羽織っただけのバスローブ姿だったこともありイングランド棟の面々にあらぬ誤解を与えることになるのだがそれはまた別の話。
そして監視カメラの映像を見ていた絵心によってクリスにとんでもない疑惑が浮上してしまったのも別の話である。