幸せを享受せよ

幸せを享受せよ


ただいちゃいちゃしてるペンワイSS

短い


前スレ150の布で口元を隠すワイヤーに感銘を受けました





偶然、二つの船の航路がひとつの島で交わった。

必要なものを買い揃え、情報収集をきっちりして、漸く手に入れた自由時間。

そわそわする気持ちを相棒に悟られて、揶揄われるまま宿を飛び出した。


約束も何もしていないのに当たり前のように酒場の傍らに立つ背の高い謎のマント姿を見付ければ、口元には自然と笑みが浮かんだ。

「ワイヤー!」

ぶんぶんと手を振ると、控えめな笑みで小さく手を振り返され胸が躍った。


ハートの海賊団のペンギンとキッド海賊団のワイヤーは酒の席の過ちやら何やら色々あって、現在お付き合い中だ。

最初はいわゆるセックスフレンドのような関係だったのだが、深みに嵌まって戻れなくなってしまったので責任を取って貰っている。居座っているこの恋人の座というものは存外心地よくて、気が付けばお互いの船員が呆れるほどの幸せを享受している。



挨拶もそこそこに安宿に雪崩込み、買った酒を片手に近況を報告し合う。

この時代、この海、いつ今生の別れになるとも知らない貴重な逢瀬だ。後悔のないように、ペンギンは会話の合間に沢山の言葉を選んで愛を告げる。

「嵐? 怪我してない?」

「慣れてるから大丈夫」

「そりゃ大丈夫だろうけど、好きな人のこと心配になるでしょ」

手を優しく撫でられ、指が絡み、ぎゅうとあたたかい手で握られてワイヤーは視線を彷徨わせた。

「会いたくて急いで用事終わらせたから、この島まだ見て回ってないんだよね。明日は時間ある? おれ、デートしたい」

「……っ」

ぽんぽんぽん、とあまりにもまっすぐに飛んでくるそれにワイヤーは息を呑む。言葉が増える度に徐々にマントを口元に引き上げ、次第に顔を覆い、最後には謎の布の塊と化していた。

「なに隠れてんの?」

マントで出来た繭の端をぐい、と引いても微動だにせず、仕方なくペンギンはその塊を抱きしめた。

びくり、と小さく跳ねるおおきな体とあつい体温。存在を噛み締めるようにぴったりとくっついた。

「ワイヤー、顔見たい」

「……今はやだ」

「ワイヤー、おれキスしたいなァ」

「……う」

「おれのこと嫌いになった?」

「……うぅ」

何度かの押し問答の末、するり、と僅かに捲れた布の隙間からワイヤーの顔が覗く。

眉はいつもより下がり、目元は赤く、瞳は涙の膜が張ってゆらゆらと揺れていた。

やっと見れた恋人の顔に嬉しそうに頬を緩ませて、ペンギンはその額に口付ける。

「好き、会いたかった」

「…ん、……おれも」



情熱的な夜を過ごして重い体をそのままに、カーテンの隙間から覗く朝日を眺めながらワイヤーは深く息を吐く。

最初は遊ぶだけのつもりだった。こんなに本気になるとも、こんなに愛されるとも思っていなかった。

まるで心の中から作り変えられた気分だ。幸せ過ぎて怖いと、離れるのが怖いと、怯える日が来るとは。

隣で涎を垂らして眠る恐怖の源兼恋人の額に口付けを落として、デートの時間までもう少しだけこの愛しい寝顔を眺める幸せを享受した。



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