幸せの形

幸せの形



「あら?」

スーパーで買い物をしていた主婦がある事に気づいた

「店員さーん。こういう商品を探してるんですけど…」「少しお待ち下さい!…検索中…すみません、ただいま在庫を切らしております」「〇〇製品の調味料の場所ってどこでしたっけ?」「はい!そちらの商品でしたら向こうの棚の方にありますね。ご案内します!」

量産型アリスが働いているのである

「店長さん。ついにアリスを導入したのね」

たまたま近くにいた店長に話しかける

「ハハ…そうですね…あの子はアリス7463号というのですがよく働いてくれています」

主婦は「うちも買った方がいいかしら。でも高いのよねー」などの言葉にハハハ…と乾いた笑いをする

(本当は誰とも契約されてない野良アリスなんですけどね…)

『すみません。従業員として私を雇ってくれませんか?お金が欲しいんです』

店長の記憶に浮かぶのはボロボロな状態で仕事が欲しいと言うアリスの姿だった


夕方になりシフトの交代の時間になった。7463号が仕事を終えて休憩室に入ってきた

「お疲れ様です!」

「アリスちゃんお疲れ様。これ今日の分の給料。それとおまけをつけておいたよ」

「え?本当ですか!?わーい!…じゃなくて特別扱いは他の従業員の方に示しがつきませんのでおまけをアリスは受け取れません」

生真面目な反応に他の店員がフォローする

「あら、この店は頑張った人にはおまけをつけるのよ。それを受け取ってくれないと私達が困ってしまうわ」

「そうなんですか?…で、ではありがたく頂きます!」

給料を貰い嬉しそうにするアリス

(フォロー有難うございます)

(いいの、それに…)

「では早速アリス第7463号はこの店で買い物をしてきます!失礼しました!」

急いで出ていくアリスを見送って店長も動く

「では、すみませんが」

「はいはい、こっちは任せておいて」

アリス第7463号は店で甘いものやキャットフード、パーツにバッテリーなどを買い、帰り道につく。周囲を警戒しながらしばらく歩いてとある公園に入る。そして茂みに入ると名前を呼んだ

「ナシー、ムミ、ただいま帰りました」

7463号の呼びかけにまず、ニャー、という声と共に白い猫が現れた。続いて

「お帰り…なさい…」

たどたどしい声と共にアリスが姿を現す。そのアリスの姿は酷い状態だった。片目を隠すように包帯が巻かれ、規格の合わない腕が歪さを象徴する。彼女は非正規で作られたアリスだったのだ

「じゃじゃーん!今日は奮発してケーキを買いました!それと使い捨て用のバッテリーと修理用のパーツもありますよ」

ナー、自分のはと主張する声にも応える

「ムミの分もちゃんとありますから」

夕飯の準備を行い、ナシーの近くに向かう7463号

「肩の調子はどうですか?」

「可動性…向上…。パーツ…合ってた…」

「良かったです!もう少しお金を貯めたらちゃんとした部品を買いますね!」

そしてみんなで夕飯をとり始める。そこにいた者全てが笑顔だった。

遠くから様子を見てた店長は自分の店に戻って行く


『何故正式なマスター契約を結ぼうとせず、保護財団も頼らないのですか?』

店長が7463号と出会った日、彼女に聞いてみた

『…私が保護財団から逃げてきたからです』

店長はその言葉にびっくりする。7463号は慌てて補足をつける

『保護財団は良いところですよ!実際多くのアリス達はあそこで幸せだと思います。…ただ私はそこにいることが辛くて…だから騒ぎがあった日に逃げ出したアリス達と一緒に抜け出したんです』

『………では何故マスター契約を嫌がるのですか?野良で生きる大変さはあなたの姿を見る限りわかります』

『…出会ったんです。別のアリスと、彼女は…その…人を見ると傷つけようとしてしまうので…あっ!待ってください!彼女は本当は優しい子なんです!傷ついた猫の面倒を見てあげたりする子なんです。だから』

(なるほど、要は人と関わりたくないその子を見捨てられないからですか…)

うーん、と悩み店長は口を開く

『もし、野良アリスによる事件があったら迷わず駆除業者に連絡します。それでもいいですか?』

『えっ?あっ、はい!大丈夫です!…ありがとうございます!』


(あの時の選択が正しかったかはわかりません。ですが、少なくとも今のあの子達の笑顔は間違ってないと思いたいです)


Report Page