年下の男の子 3
・前回までのあらすじ
平子のセフレであることに納得いってない藍染。でも平子の何になりたいかはわかっていなくてー?
市丸三席「縛道掛けられてる内に藍染に成り代わられていた。特に恐ろしいのは成り代わられてる間の記憶がボクにしっかり植え付けられてる。鏡花水月はヤバイ」
あらすじ 終わり・
たまに声は漏れるが、基本的に平子は喘がない。だが飄々とした平子の見せる無防備な表情や快楽に溶ける顔を見るたびに藍染の中にある征服欲が満たされていく。
「……んん……」
「……ああ……すごい……」
平子の首に吸い付きながら中で果てる。中に出される感覚に感じるのか、平子は身体を震わせていた。
「……そーすけ」
「………」
退け、と言いたいのだろう。平子は藍染の下でぐったりとしたまま動かない。だが藍染は吐き出しても満足出来ない。もう一度、いや何度もしたいと思うのは当然だ。
「ちょ、待てやもう無理やって」
「もう一度だけ、まだ日付けは変わっていません」
「駄々っ子やなァ」
平子が呆れたように呟く。
藍染は構わず、一度引き抜き、平子を抱き起こすと胡坐の上に乗せる。
平子は諦めたかのように抵抗しなかった。向かい合い、対面する形で平子に再び押し入る。わざとらしさのない声をあげる姿は酷く淫らで、藍染は再び自身が昂っていくのを感じた。
「うあ…あ……ああ…」
「ん…ん…は…ぁ」
結局それから日付が変わるまで。跨る平子も藍染も敷布が絞れるくらい汗だくに濡れていて、お互いに気怠げだった。
「はい終わりィ…今日も元気やったな」
「……足りないんですが」
「ナァンも聞こえんな。汗やばいからひとっ風呂浴びるわ」
腰キツゥ。そう言って藍染の上から立ち上がる平子はまだ余裕がある。
藍染は一緒に汗を流していいかと声をかけると、平子は一瞬嫌そうな顔をしたが何も言わずに風呂場へと向かった。敷布を替えてやり、水音を聞きながら藍染は考える。
平子との関係は割り切ったものだと思っていたし、今もそのつもりだ。
それなのにこの感情は何だ? 自分の知らないところで平子が浦原に抱かれていたと考えるだけで許せない。
確かに独占欲はある。あの女は私だけのものだ。自分だけが触れて乱す事を許される存在で居て欲しいという願望も所有欲もある。何故なのかはわからないが、少なくとも他の男には渡したくはないと思っているのだ。
「……何だこれは」
計画に関係ないものは捨て去ってきた筈だったがどうにも上手くいかない。そんな事を思いつつ、藍染は風呂場に向かった。
「入りますよ」
返事を待たず、藍染は浴室の扉を開けた。
「本間デリカシーないなお前」
「すみません。あなたの身体、僕が洗います」
「ハァァ?…いやいや桶と石鹸返せ」
平子の言葉を無視して、風呂の湯で軽く身体を流すと石鹸を手に取り泡立てる。
「僕の気が済まないんです。後始末はマナーですよね?」
「……好きにせィ」
「遠慮なく」
平子の背中に触れる。背中から抱き締めるように肩、胸、腹へ手を伸ばして行った。
「……なんやコレ」
「按摩ですね。みんなやってることですからねー」
「リンパ按摩やめろ。追い出すぞ」
「何を仰いますやら。ほら、きちんと洗っているでしょう?」
鼻歌でも歌いそうな藍染はそのまま洗い終え、風呂の湯で洗い流す。服を着替えている間に平子も身支度を整えていた。
「お疲れ様でした。風呂もありがとうございます」
「ハハ、いつものお前になっとるやんけ」
口の端を上げて笑みを浮かべた平子に眼鏡を掛けて貰い、部屋の戸まで連れて行ってもらう。
「じゃあなおやすみィ、藍染副隊長」
「また朝に、平子隊長」
そのまま部屋の扉を閉めた…
「悪すぎやろ」
とは同僚で友人リサの弁。
現在の情夫を白状した一件以来、平子への当たりが中々に強い。
猥談に興味津々なリサから面白い話無いか?と振られ、藍染の名を出さずに話してからのこれである。
(ソイツとまだ続いとったんか!と驚かれた)
「下手に刺激すると爆発するかもしれんのやぞ」
「他の女かお高い料亭で従業員と秘密の恋するの勧めェ。それくらいの金持っとるやろ」
リサはケラケラ笑いながら眼鏡を動かし、藍染やろ?と声に乗せず伝えてきた。藍染は隠しているつもりで居るらしいが元恋人探しといい、平子の友人に対しての態度があからさま過ぎたようだ。
「あいつそんな事しとったんか?阿呆やなァ」
「アタシしか知らん。ひよ里にどつかれてないんが奇跡よ」
平子には理解出来ない。何故そこまで藍染は自分にこだわるのか。
「なんでも初めてってのは特別やん?良かったなァシンジ。その内刺されそうやけど」
「ぬかせ。そもそも隠しとるわけちゃうわ」
「刺されるかもって自覚あるなら早いことケリつけや。シンジ程ではないけどアタシも仕事上、恋寝刃クンと関わりはあるんやで?プライド傷つけられたなんて怒ってミィ、シンジ以外どこに被害くるかもしれんわ」
「アイツを非モテ童貞言うて一番弄っとるんはお前や。俺はワルないやろっ!」
平子は茶化そうとするも、リサの目は真剣そのものだったので押し黙る。
真面目な話をするときのリサの目は鋭くて苦手だ。
平子は小さく溜息をつくと、徐に立ち上がり給湯へと向かう。
「ナニ、お茶いれてくれるん?」
「ついでやついで」
平子が急須に茶葉を入れると、後ろからリサが手元を覗き込んでくる。
「茶入れ上手い奴は床上手で料理上手言うもんなァ…シンジは男好きの恋愛下手やけど」
「余計なお世話じゃボケっ!」
「心配しとるんやん」
その言葉に振り返るがリサは平子の反応を見て楽しんでいるようだった。平子は再び前を向いて、湯飲みを取り出し準備をする。
自分の事は棚上げしおって!何やコイツは!
確かに恋愛経験は少ないが今までの男たちはそれなりに上手くやって円満に別れてきたつもりだし、藍染とも割り切った関係を築けていた筈なのだ。
最近藍染の様子がおかしいが、仮に平子のせいであったとしてもそれを受け入れる気はない。
逆撫が興味を示す人間など皆一癖も二癖もあり、碌な目に合わなかったからだ。
「部屋連れ込むときは気ィ付けな?」
「あの顔で女抱くと鬼畜にも顔通りにもなるで」
「アカン、想像したらウケる」
リサは笑いを堪えながら、さりげなく肩に手を回してくる。
「男の子に噛まれた傷、見せてくれへん?」
「キッショ!お前もおかしいやろ」
「興味津々なだけですゥ‼︎‼︎」
肩に回った手が首筋から耳の裏までなぞるように動いていく。ゾクッとする感覚と共に熱っぽい吐息をかけられて、身体が強張る。
「……フ……えぇ顔するやんお姉チャン」
「ふざけんなや」
「振り方気をつけや。自分以外巻き込みたないンやろ」
「……」
「ご馳走さん。そんじゃアタシもう行くわ」
「二度と来んな!」
執務室を出て行ったリサを見送ると、平子は机の上に突っ伏した。惣右介もギンも留守にしていて良かった、と思う。
初めの内こそ身体を許すという行為は藍染を監視する手段の一つであったが、歪な繋がりをズルズルと続ける内にいつの間にか逸脱して藍染は情を持ち始めている。
平子は危機感を自覚していたが、かといって犯罪や計画の決定的証拠を掴めていない為、関係を断ち切ることも出来ずにいる。そうやって悶々としている内に、月日は流れていった。
・恋寝刃 余り恋愛したことの無い男