帰路の船上
私は今、帰路の船上で波に揺られている
ゼフとの取引も無事終わり、後は彼の成果を待つのみだ
正直自分でもかなりの無茶な要求であるとはおもっているが、まぁこれぐらいはしないと誰であろうゼフ本人が納得しないだろう
わざわざ彼の命を救ってまでした取引だ、あまりにも簡単な内容では彼の命を軽んじているということになりかねない
こちらにはそのような気はなくとも、向こうがそう捕らえる可能性はある
ならば、こちらは遠慮なく考えうる最大の価値を先んじて付けてやる
こちらはそれだけの価値をゼフに見出して助けたのだということを示すために
…などと、カッコつけていったものの、実のところせっかく助けたのだから最大限利用させてもらおうと考えているだけなのだがね
さて、ゼフが新メニューの開発をしている間、私はやるべきことをやっておこう
やるべきこと、すなわち海軍に対するゼフの懸賞金の凍結交渉だ
知っての通り、海賊は皆海軍に追われるお尋ね者
名のある者は個別に懸賞金がかけられており、そうでない下っ端でも捕まれば即罪人扱いだ
当然、ゼフも海賊船長として異名が付くほど名うての海賊
相応の懸賞金と共に全ての海にその手配書がばらまかれている
このままでは海軍や賞金稼ぎに追われる毎日で、まともにレストランの経営などできないだろうからな
そのための手配凍結の交渉なのだ
海賊に掛けられた指名手配が解除される手段はいくつかある
最も簡単のは"逮捕される"もしくは"死亡が確認される"こと
逮捕されれば当然、掛けられていた指名手配は解ける、死んでも同じことだ
まぁ中には死んでから何年も後にそれが確認され手配が取り消されるケースや、逆に自身の死を偽装し別人となって生き残っている者もいる
他に有名な物であれば"王下七武海"への加入
他の海賊からの略奪を許可されている代わりに、その名と武力をもって政府に協力することを求められる海賊たち
加わることが出来れば掛けられた指名手配は即時凍結、仲間や部下にも恩赦がかけられる
その分求められる知名度も強さも生半可なものではだめだがな
以上の二つは選択肢としては無しと考えていい
現実的ではないからな
そしてこの二つ以外にも、掛けられた手配を取り下げる、あるいは凍結させる手段はある
それは身体などに障害が現れたものが、身元引受人の同意のうえで自身に掛けられていた懸賞金と同額を政府に収めること
年々その数を増していく海賊たち
そのすべてに対応できるほど、海軍の戦力は充実していない
ましてや障害を負って海賊の存続が不可能なものを無理に追う余裕など余計にない
さらに、偉大なる航路の海賊たちの中には、四肢欠損程度では止まらない剛の者もいる
下手にそう言った者たちを追い詰め多大な被害を出すよりも、懐柔し平穏を与える代わりに対価を要求する方がはるかに楽だ
と言っても、この方法は大抵の者は使えない
まず海賊という立場上、政府に収めるための金の確保が難しい
それは海賊として名が、懸賞金が上がれ上がるほどに、だ
そしてそれ以上に身元引受人の確保が難関だ
この海で海賊の身元保証するのだ、相応に地位を持ち政府からの信頼のある人間でなくてはならない
そんな人間とパイプを作ること自体、海賊という身分では不可能に近いだろう
…と、ここまでこの方法がいかに難解なものかを説明したが、正直これらの条件は我々には何の枷にもならない
私は政府とそこまで親しくはしてないものの、名そのものは知られている
引受人としては十分だろう
政府に収める金も、ゼフが持っていた財宝―現在は私の手で管理されている―の一部を換金すれば作れるし、その分を差し引いてもレストラン開業には十分残る
あとはゼフが海賊を継続不能であるという証明をすればいいのだが、こちらは今後の交渉次第というところだ
彼の足の状況を交えつつ、慎重に交渉していく必要があるだろう
だが私自身、勝算は十分高い交渉になると思っている
とは言え確実ということはない、気合を入れて準備に取り掛かるとしよう
あれだけゼフに精神的優位性を取っていたのだ、これで私のミスで失敗などということになれば、サンジ君と共にどんな目で見られるかわかったものではないからな