帰港
別れは嫌い。シャンクス達に置いていかれた時のことを思い出すから。でも、今回ばかりは少し、毛色が違った。
旅はおしまい。私たち麦わらの一味は、ワンピースを見つけ出し、各々違う道へ進むことになった。皆それぞれ故郷に帰ったり、もう少し旅を続けたりするみたい。
そんな皆との別れを惜しむ気持ちは尽きないけど、それでも彼らのこの先の人生のことを考えると、心の底から応援したくなる。張り切って歌なんて作っちゃったりして。みんな喜んでくれて何よりだったなあ。
ジンベエ
あの時、ルフィを助けてくれてありがとう。もしあそこでルフィに何かあったら、今の私はなかった。もしかしたら心が壊れてスクラップになってたかもね…。
なーんて!安心して!貴方のおかげでそんなことにはならなかったんだからさ、親分!!
ブルック。
わたしに音楽を思い出させてくれてありがとう!声が出せなくても音楽はできるって言ってくれた時は、本当に嬉しかった。今度会えたら一緒にライブしたいね!
ソウルキングwithソングクイーン!
なんてさ!
約束だよ?それまでにもっともっと上手くなっておくからさ!楽しみにしてて!!
フランキー。
あの時はよくもー!え?心当たりが多すぎていつのことかわかんない?なんだとー!!!あっははは冗談だよ。色々あったけどなんだかんだ楽しかった!何より…人形でも戦えるようにしてくれたこと、感謝してる。本当にありがとう。貴方のおかげで自分が少し好きになれたよ。
ロビン。
最初の印象は正直あんまり良くなかったよ。だって裂かれかけたし、でも、実はとっても優しくて、可愛いもの好きだったり、私の事も大事にしてくれたり。
人に戻ってからも、本を読んでくれたり、色々教えてくれたり、なんだか…お母さんがいたらこんな感じだったのかなって。ちょっと!泣かないでよ!まだまだいっぱい言いたいことあ……もー、せっかく我慢してたのにー!!…大好きだよ。
チョッパー
1番迷惑かけちゃったかもね。え?そんなことない?あはは、ありがとう。でもね、君が居なかったら私きっとすぐ死んじゃってたと思うんだ。わりと大真面目に。人に戻ったばっかの時とかさ、傷ついてもウソップとかナミの方に行ってたしね。縫ってー。とか。今考えたら異様だよねほんと。真っ当な感性に戻ってくれて嬉しいって?君のおかげだよドクター。
私も、お医者さんは無理でも、歌でみんなのことを助けたり出来たらなって思うんだ。応援しててくれる?うん。頑張るね!
サンジくん
冒険が終わるのと同じくらいサンジくんのご飯が気軽に食べられなくなっちゃうのが残念だよ。バラティエに来ればいくらでも食べさせてくれる?ほんとに?約束ね!!
人形のころ、私の席にお花飾ってくれてたり、戻ってからも料理教えてくれたり、ほんとに優しいよね。サンジくんってさ。え?最初のお弁当?あーあれ嬉しかったなあ。だってみんなの好きな物が全部入ってるんだもん。私も食べてみたかったものばっかりでさ!泥まみれ?そうだったっけ?美味しかったことしか覚えてないや。…なんで泣いてるの?
ウソップ
ゴッド・ウソップ様ー!バンザーイ!!
あははは!そんなにビクビクしないでよ。冗談だって。…感謝してるのはほんとだけど。元に戻してくれて、本当にありがとう。感謝してもしきれないよ。メリーの時のこと?…うん覚えてる。忘れるわけないじゃん。あの時は酷いことを言った?そりゃ私だって捨てられるんじゃないかって不安だったし、怖かったけど、ウソップがメリーのことが大好きなのは知ってたし、メリーも皆のことが大好きなのも知ってたから、当然だったのかなって思うよ。わたしもメリー大好きだし。なんて今があるから言えるのかもしれないけどさ。その今があるのもウソップのおかげなんだから、もっと胸を張って欲しいかな?勇敢な海の戦士さん?
ナミ
お姉ちゃんみたいに思ってたよ。一応私の方が歳上なんだけどさ。オシャレとか、美容とか、全然知らないまま生きてきてたからとっても楽しかった。初めて会った時?あーあったねそんなこと!ゾロもルフィも航海術なんて持ってなくてさ。私が少し手伝ってたんだよね。そっか、考えてみればナミがいなかったら私とルフィは海の藻屑になってたかもしれないんだ…コワッ!本当に仲間になってくれてありがとう。今度あったらさ、また一緒に寝てくれる…?ほんと?約束だからね!
ゾロ
もう迷子になっても助けてあげられないんだからね!え?もう世話にはならねえ?ほんとかなー?あはは!冗談だよ。
思えば、ルフィの初めての仲間はゾロだったよね。海賊王の右腕には世界一の剣豪くらいなってくれなきゃ困る、か。ルフィとの約束守ってくれてありがとう。頼りにしてたよ。副船長。
全員と別れ、船に上にルフィと2人きり。こんなのいつ以来だろう。そんなに経ってないような気もするけど、気の遠くなるほど久しぶりな気もする。二人の間に会話は無いけれど、心地良い静寂が流れてる。これもなかなか乙な物だね。センチメンタルってやつ?
あれ?そういえばわたしは、どこに帰ればいいのだろう?シャンクスの船?いや今更だろう。それに私はもう、海賊王の音楽家だ。赤髪海賊団のじゃない。シャンクス達だって、そう言ってくれた。私もその肩書きに誇りを持ってる。でも、一味が解散した今、私の居場所は何処だろう。どこに帰れば、良いのだろう。
「何考えてんだ?ウタ」
私が悩んでることを察したのか、ルフィが話しかけてくる。
「え?いや、ちょっとね」
「ちょっとじゃ分かんねェよ。別に言いたくねェなら無理には聞かねェけどよ、そういう感じでも、ねェんだろ?」
「ああいや別に……うん。聞いてくれる?」
「おう!何でも来い!!」
「実は…私はどこに帰ればいいのかなって、考えてたんだ。ほら、皆自分の居場所に戻ったけど、私って人形の時からずっとルフィと一緒に居たでしょ?だから、お別れしても行くところがなくってさ…」
「何言ってんだウタ?お前は俺とフーシャ村に帰るんだろ?」
「え?」
「シャンクスたちにもウタを頼むって言われてるしよォ、ゾロたちにも「もうウタを離すなよ」って言われてるからな。あ、行きてェ場所があるならそこに行ってからでもいいけどよ、でもダダンたちには会いてェしな…」
「いや、そうじゃなくって!帰る?私も?」
「?当たり前だろ?他に誰が居るんだ?」
「…わたし、ルフィと一緒に居ていいの?」
「?変なこと聞くな?当たり前だろ」
「もう、冒険は終わったのに?」
「あんまり関係なくねェか?それ」
「グズッうわああああん!!!!ルフィィィィイイイーーーーーーーーー!!!!!!!」
ダメだった。ルフィ相手には泣かないって決めてたんだけど…というより綺麗に別れるつもりでいたんだけどなぁ…計画全部丸つぶれだよ!どうしてくれるのさ!…でも、今はもうちょっとだけ胸を貸して貰おうかな。役得ってやつだね。
私を絶望の中から救ってくれた人。
この世で2番目に私を見つけてくれた人。
…この世で1番、好きな人。
この気持ちはまだもう少しだけ、隠しておこうかな。探せ!この世のどこかに置いてきた!なんてね。
……なるべく早く見つけてね。海賊王さん?