嵐の夜に

嵐の夜に


ずっと、嵐が止まない。

悪魔の力をこの身に宿して数年。獣の病の研究は飛躍的に進んでいた。

幼き日のドフラミンゴが聖地で教えられた知識と、ファミリーが集めた世界中の医療技術、そしてヤーナムで続けられていた治験とも言えない悍ましい探求の足跡は、オペオペの奇跡をもってようやく実を結んだのだ。

瞳がわずかに蕩けた初期症状の患者を皮切りに、多毛の症状が見られる中期、骨格の変形が現れた末期患者まで。治せる人間が増えていく。

素性どころか素顔すら晒さず、ただただ病を治すおれはいつしか街の内外から「奇跡の医療者」の名で呼ばれるようになっていた。

医療大国ドラムの医者狩りから逃げ出してきた医師たちも"おれたちの"医療教会に加わって、周辺諸国、いや、驚くほど遠い島々の者たちさえ、最後の望みをかけてヤーナムを訪れる。

悪夢を地獄の釜で煮詰めた如くの街並みだって、病から解放され、異邦人が増えるにしたがって、夢から醒めたかのように美しく穏やかなものに変わった。

それでもずっと、心の中の嵐は止まない。


獣狩りの夜を生き残った住民たちから聞き込んだ、あの優しいコラさんとは似ても似つかない異邦の狩人「コラソン」の話。

容赦なく獣の病の罹患者を狩り、教会の医療者を引き裂いた狂気の狩人だと。

それも、仕方がないことだった。何度もそう思い込もうとした。

だってあの時のコラさんに、獣の病を治す方法なんてなかったのだから。

でもそれは、珀鉛病も同じだったということに、おれはもう気付いていた。オペオペを手に入れることでしか、決して治せないはずの病だった。

死病から解放されたあの日から、一度も見ていない故郷の悪夢を思い出す。


コラさんあんた、どうしておれを助けたんだ。

大聖堂の最も深い隠し部屋で穏やかに眠るその手はほのかに熱を発する手袋に包まれて、今日も変わらず温かかった。







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