嵐の前の静けさと何でも無い話し合い

嵐の前の静けさと何でも無い話し合い


多分こんな事もあったんじゃないかと思った結果のちょっとした話

これと言った山も無ければオチも無い、いやオチはあるかな?

出だしの部分は何となく書きたかっただけなので正直あんまり本編と関係ない事書いちゃった




 いつからだっただろう


 あいつの足音1つで

 あいつの声1つで

 あいつの動き1つで


 ろくに頭が回らなくなったのは

 ろくに体が動かなくなったのは


 牙を抜かれ

 爪を折られ

 羽を切られ


 ただ弱く

 ただ脆く


 愛玩される為のまるで人形のようにされて


 嫌なのに

 嫌だけど

 今の俺には何も出来なくて

 それを受け入れているそんな俺自身も嫌で


 嗚呼シスター

 もし貴方の言う通り神がいるのなら

 もし俺の願いを叶えてくれるのなら


 今すぐに

 俺を死なせて……





 ひやりと冷たい床に全身を投げ出し、自分の体から流れ出ていく赤が妙に熱く感じた

 躾と称したただの暴力が、拷問が終わって、安堵の感情から一気に力が抜けていく

 ドフラミンゴが使用した道具を片付ける音が聞こえる

 その他に聞こえる物といえば一方的に話しかけてくるドフラミンゴの声だけだった


 不定期に開催される鬼ごっこ

 あいつが楽しいだけの遊びは、時間いっぱいまで逃げ切ればクルーの遺品を返してもらえるという条件付きの物

 クルーの遺品だけでも何とかして取り返したくて提案されれば二つ返事で了承して必死に逃げた

 何度もやって、一度も逃げ切れず、罰ゲームと称して拷問か遺品の破戒をされる

 拷問の方がまだマシと感じるのは、俺がまだあいつ等の事を思えているからか、はたまた俺の感覚が狂ってしまっているからなのか、正解が分からない

 今日も負けた。結果がこれだ

 全身に力が入らず、呆然としている俺をドフラミンゴが抱き上げた


「あァこんなに冷えちまって。すぐに治療してやるからな」


 こいつは何を考えてそんな事を言っているんだろうか、この怪我も何も全部お前がやったんだろうが

 運ばれる振動が心地良いのか、それとも死にかけだからなのか、段々と瞼が重くなる

 このまま眠れば死ぬんだろうか

 そんな俺の考えを見透かしたかのようにドフラミンゴが話しかけてきた


「死なせねェさ」


「…………」


「お前の考えてる事なんざ手に取るように分かるからなァ」


「…………」


「逃がしゃしねェよ、絶対にな」


「…………」


「例え逃げてもすぐに見つけ出す」




「お前は一生、いや未来永劫俺の物だ」




「ッ!!」


 飛び起きて辺りを見回せば無機質なあの部屋とは違う潜水艦の俺にあてがわれた部屋の中

 寝ている間にかいたのであろう汗で背中がじっとりと濡れていたが、それが気にならないくらい震えが止まらない

 逃がさないと言ったあいつの声が脳内で木霊している

 大丈夫、この世界にあいつはいない

 そう必死に自分に言い聞かせるが夢のせいで鮮明に思い出してしまった恐怖心は中々消えてくれなくて、一本しかない腕で自分の体を必死に抱きしめた


―逃がさねェ―


「うるさい…」


―どこへ行こうと捕まえる―


「うるさいッ」


―なァロー―


―籠の中の鳥がお前にはよく似合ってる―


「うるッ「お前の方がうるせェ」


 突然聞こえてきた声に驚いて顔を上げると、いつの間にか部屋に入って来ていたこちらの世界の俺がいた

 どうしてここにいるのかと問うよりも早く、もう一人の俺は湯気の立ち昇るティーカップとのマグカップの内マグカップを差し出してきた

 受け取って中を覗けば、そこに注がれていたホットココアが目に入る

 一口飲むと熱が全身に巡る感覚がして、気付いた時には震えが止まっていた


「落ち着いたか?」

「あ、あァ…」


 そうか、また俺の夢をこいつにも見せてしまったんだろう。だから俺が眠れずにいると思ってこうしてホットココアを用意して持って来てくれたんだ

 また一口飲めば、最初と同じように全身にじんわりと温かさが広がっていく

 ふぅと一息吐くと強張っていた体が程よく脱力する


「お前がこっちに来て結構経つが、久しぶりに悪夢で飛び起きた」


 自分用に持ってきていたであろうティーカップに口を付けたこちらの世界の俺がふいにそんな話を振ってきた。言われてみれば、こちらに来てすぐの時は毎晩見ていた悪夢は療養の中で見る頻度が減り、最近はめっきり見ていなかったのを思い出す


「くぅーん」

「おにぎり…」


 枕元で寝ていた筈の、俺によく懐いてくれている子犬のおにぎりが俺の太ももに前足を乗せて身を乗り出して俺の顔を覗き込んでくる


「うるさくして悪かった、折角気持ちよく寝てたのに」


 グイグイと身体を押し付けたり、脚にすり寄ってくれる様子が可愛らしい。そういえば、犬がこういった寄り添ったり身体を擦り付ける行動を取る時は「大丈夫か」と気遣ってくれているって前に本で読んだな

 こんなに小さな身体で俺を励まそうとしてくれるおにぎりが本当に有り難い


「ありがとうおにぎり」

「ワン!」


 俺が笑えばおにぎりは楽しそうに鳴いた


「お前もありがとう。それと、悪かった、嫌な夢見せて」

「こればっかりは仕方ねェよ。お前だって見せようと思って見せてる訳じゃねェんだから」

「ん…そう言ってもらえると助かる」


 もう一人の俺は俺の隣、ベッドの縁に腰掛けた


「眠気が来るまで何か話すか」

「何を?」

「ま、その辺は適当にな。それに今夜中には次の島に着くんだ、とっとと寝て体力回復出来るように小難しい話でもするか」


 なんて言って小さく笑うもう一人の俺

 会話をしながら熱めのココアをちびちびと飲んでいると、飲み終わりの頃に段々と眠気が来ていた

 俺の手からマグカップを取ったもう一人の俺に支えられながら再びベッドに横になる

 目を瞑ってゆっくりと呼吸をして、そうしてもう眠りにつく直前、もう一人の俺の「おやすみ」という声だけ聞こえて、安心して眠りについた




 本当に久しぶりにもう一人の俺の悪夢で目を覚ました

 へばりつくようなあいつの言葉が、俺が言われた訳でもないと言うのに耳に残っている。その不快感を何とかしたくて、あと単純に様子が気になるという理由でもう一人の俺の部屋へ向かう事にして、ついでにキッチンに行ってもう一人の俺の分のココアと俺の分のコーヒーを入れた。カフェイン?んなもん速攻で効く訳じゃねェし、何なら眠る前にコーヒーを1杯飲むと血行促進効果でよく眠れる上に翌朝すっきり目が覚めるんだ、何の問題も無ェ

 部屋に行けば案の定目を覚ましていたもう1人の俺が不安を吹き飛ばす様に叫んでいたが、取り敢えず今は寝ている奴もいるからうるせェと一蹴しておいた

 ココアを渡して、何の面白みもなければ変哲もない会話をしてもう1人の俺がようやく安心したらしく船を漕ぎ出したのを見て、ベッドに寝かせてやって後は忠犬に任せて俺は部屋を後にした

 食堂へ飛んで残りのコーヒーを飲み干して、カップ2つを洗って自分の部屋に戻った


 自室のベッドの上に飛べば、寝転がると同時に眠気が襲ってきた

 そういえば、何だって突然また悪夢を見たのだろうか。何かストレスがかかるような事があったか、それとも単純に思い出すように見たのか、はたまた何かの前兆か

 考えている内に沈むような感覚になり、抗うこと無くそのまま眠った















 暗い暗い海中を行く黄色い船体のポーラータング号は静かに陸を目指して泳いで行く



 目指す次の島に今夜







 ピンクの羽の怪鳥が降り立った事を彼等は知らない









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