山海経鎖国令

山海経鎖国令

鎖国体制に入った山海経

山海経に暮らす殆ど全ての住民が、“歪みあっている”…と認識している二大勢力、玄龍門と玄武商会

しかしこの日、玄龍門に玄武商会からの客人が現れた

案の定玄龍門傘下の者達は、突然の来訪に警戒心を向ける…するとそこに現れた門主の竜華キサキは、鶴の一声で部下達の警戒を解くと客人を防音設備の整った会議室へ案内する

客人である玄武商会の会長、朱城ルミと彼女の護衛鹿山レイジョ。そしてキサキと執行部長兼護衛である近衛ミナの4人が、会議室の席へと座った──


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キサキ「何?砂漠の砂糖…じゃと?」

ルミ「そう、今キヴォトス中で蔓延している恐ろしい麻薬。その味は市販砂糖を遥かに上回る程美味で甘い…その依存性は並大抵の薬を上回る…どう?中々怖いと思わないかな?」

「ふむ…何やら怪しい動きがちらほらと報告されていたのは…なるほどな、合点がいった」

「それで言いにくいんだけど…実は商会の一部の子がこの砂糖を摂取しちゃったんだよね。ほら、うちは食材のためなら火の中水の中じゃん。一見質の良い砂糖だったから口に入れちゃったみたいで…他所に砂糖を流通させたりはしなかったからまだ良かったけど、とりあえず摂取した子達は今拘束中なんだよね」

ミナ「なんだと!?拘束せざるを得ないほど危険な代物なのか…!?」

レイジョ「はい、砂糖を摂取した時こそ楽しそうな様子ですが…効果が切れると機嫌が著しく悪くなり、非常に攻撃的な性格に陥るのです」

「…これは由々しき事態じゃな」

「くっ…玄武商会より先に砂漠の砂糖の情報を仕入れていれば、早期対応出来たかもしれないのに…!」

「否、食材の流通に関しては玄武商会の方が玄龍門よりも上手じゃ。危険な食材に関する知識も、ルミ達の方が我々より造詣が深いじゃろうて」

「まさか味は良いけど麻薬同然の砂糖があるなんてね…あたしも驚いたよ。実は砂糖だけでなく塩もあったんだよね」

「なっ…!塩まであるのか!?」

「塩は砂糖と違って無気力になる効果があります。こちらも効果が切れると性格が一変して攻撃的になりました」

「…砂糖と塩か。料理に欠かせぬ調味料に麻薬効果を持たせているとは悪逆非道の極みじゃ。到底見過ごせんな」

キサキは机の上に乗せた拳を強く握る

「早めに報告したかったんだけど、砂糖摂取しちゃった子をなんとかしつつ砂糖の処理もしなきゃいけなかったから遅れちゃったんだよね…」

「いや、ルミは被害が広がらぬよう努力していたのであろう。気にするな」

「門主様…如何しますか?」

「こうなっては致し方ない…砂漠の砂糖と塩を徹底的に排除すべきじゃ。まずは観光客を帰さねばな…ミナ。部下に命令して山海経郊外の廃墟ビルを爆破せよ」

「ば、爆破!?何故ですか門主様!?」

「テロ事件が発生したと見せかけるためとか…そういう感じかな?」

「ふっ…お見通しか」

「会長、それはどういう?」

「レイジョ。仮に観光客へ『麻薬流通を規制するから帰れ』なんて言ったとしても、お客さんは言う事聞くと思う?」

「…いえ、聞かないと思います」

「だよね?じゃあ仮に『テロが発生したから急いで帰れ』と言ったならどう?」

「その方が身の危険を案じて帰ると思います」

「そういうこと。廃墟といってもビルが爆破されたと聞けばみんな驚くよね」

「なるほど、山海経外の人間を合法的に追い出すための策…」

「よいか?ビルを爆破したらテロが発生したと全域に通達し、客や外部の者全員を帰せ。数時間後『実行犯を拘束した』と発表して山海経の住民達の不安を解消せよ」

「りょ、了解しました…!」

「じゃあその後はテロ対策という名目で鎖国令を出す…って感じでどうかな?」

「ああ、鎖国令を発布した後、山海経の住民達へ“砂漠の砂糖”について説明し、甘味を控えるよう触れを出す」

「甘いものだけで大丈夫?」

「塩を舐めるような者はそうおらんじゃろうて。ともかくこれで砂漠の砂糖と塩の新たな流通を阻止する。あとは自治区内の砂糖と塩を規制し、蔓延を防ぐぞ」

「よし、じゃあお願いねキサキ。あたし達も動くよ。…ごめん、うちから中毒者を出しちゃって」

「其方は中毒者を拘束し、流通を防ぐという適切な対応をしていたではないか。其方らしくもないから気に病むな」

「ありがと。じゃあレイジョ、ちょっと忙しくなるけど一緒に頑張ろう!」

「はいっ!会長!」

「ミナ、今回は山海経にとってこれまでとは比にならぬ危機…抜かるでないぞ」

「はっ!門主様!」





玄龍門は廃墟ビルを爆破した後に、外部の人間をテロという口実を使って山海経から追い出した

数時間後、『実行犯を拘束した』と公表して山海経の住民達を安心させ、その後鎖国令を発布

鎖国令と同時に『甘味は暫く控えよ』というお触れを出し、砂漠の砂糖について説明する事で警戒を促す…


こうして山海経は、砂漠の砂糖を徹底的に排除する体制に入ったのだった

外部の者が入る事は許されず、内部の者が山海経から出る事も許されない


後に、錬丹術研究会の薬師サヤのみ唯一山海経を出て反アビドス連合に治療技術の提供と砂糖中毒の研究を始め、中毒者治療に大きく貢献した

だがそれはまた別の話…




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シュン「甘いものは暫くの間控えるようにですか…砂漠の砂糖…そんな恐ろしい代物が、今キヴォトス中で蔓延しているだなんて…先生は大丈夫でしょうか…」


爆破テロという大事件の報道がされたと思いきや、外部の人々が山海経から追い出された後にテロの実行犯は拘束されたと公表されたが、その直後に『テロ事件は虚偽であり、本当は山海経に流通している“砂漠の砂糖”なる麻薬の蔓延を防ぐための口実だった。そして砂糖の影響が無くなるまで山海経は鎖国体制に入る』というお触れが出された

『甘いものは暫く控えるように』というお触れも出され、春原シュンは立て続けに出された情報で混乱してしまう

しかし、とにかく砂漠の砂糖という危険な麻薬を子供達に接種させてはいけないというのはよく分かる


シュンは急いで園児達を集めると、問題のお触れについて全容は明かさぬように説明した

『お砂糖が手に入りにくくなったので、暫く甘いものを食べるのは控えるようにしましょう』

『その間のおやつについては玄武商会の方達が代わりになるものを作ってくれるので我慢しましょう』

当然お菓子好きの子供達は納得出来ない様子だったが、シュンがそう言うならと受け入れてくれた




園児達を帰した後

「ココナちゃんにも言っておかないと」

彼女は自室にいたココナを訪ねる



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シュン「ココナちゃん、いますか?」

ココナ「シュン姉さん?居るけど…」

「ちょっと大事な話があります」

「え、何急に?」

ココナは扉を開けた

「ココナちゃん、暫く甘いものは控えるようにしましょう」

「えぇっ…!?ちょっとシュン姉さん!なんで甘いもの食べちゃダメなの…!?ちゃんと食べ過ぎないようにしてるし、歯だって磨いてるじゃん!」

「…もしかしてココナちゃん、門主様とルミ会長のお触れをまだ見ていないの?今キヴォトスでは、“砂漠の砂糖”と言う危険な依存性を持った砂糖が広まっているのよ。山海経に外部の人が殆ど来なくなったのは、砂漠の砂糖の流入を抑えるために玄龍門と玄武商会が動いて山海経全体が鎖国体制に入ったから。門主様とルミ会長が『甘いものは暫くの間控えるように』というお触れを出したから食べちゃダメって事なの」

「…な、なにそれ…」

「子供達は…勿論納得こそしてなかったけれど、それでもちゃんと言うことを聞くって言ってくれたわ。だから、ココナちゃんもお願い。その間は代わりになるおやつを、玄武商会が考えてくれるって言ってたから…」

「…砂漠の砂糖…?なんかどこかで見たような…っ!?ま、まさか!?」

ココナは突然走り出した

「ちょ、ちょっとココナちゃん!?」




「どこ…どこ…!?」(ガサゴソ)


『そんなはずがない。昨日食べたお菓子の成分表を何気なく見た時に同じ文字があったなんて空見だ』

そう思いながら必死にゴミ箱を漁る

そして見つけたお菓子の包み紙

震える手で成分表を再度確認したココナだったが…

「───」




「どうしたの、血相変えてゴミ箱を漁るなんて…」

「………どうしよう、姉さん…」

「えっ?」

「こ、これ……」

彼女が持っていたくしゃくしゃのお菓子の包み紙には、成分表にハッキリと“砂漠の砂糖”という文字が刻まれていた──



「そんな…!?」

「こ、これ食べてた時、凄く幸せだったけど…嘘、だよね…?姉さん…絶対違うよね!?そうだよねっ!?」

「──ひ、一先ずルミ会長と門主様に報告すべき…ですね…」

「ね、姉さんっ!砂糖を摂っちゃった人はどうなるの!?」

「ココナちゃん落ち着いて…!お菓子はいつ食べたの?」

「き、昨日開いてた出店で買ってから、そのまま持って帰って食べた…」

「何個食べました?」

「えっと、手持ちがあまり無かったから少ししか…確か2個だけ食べた…」

「2個ですね?それならまだ軽微だと思いますけれど…」

「っう…ぐすっ…ごめんなさい…シュン姉さん…私、食べちゃった…」

「いいえ、大丈夫ですココナちゃん」



シュンは泣いたココナを抱きしめる

「ルミ会長も門主様も、砂糖をなんとかするために頑張ってくれています。園児達は私に任せて、ココナちゃんは治療に専念してちょうだいね?」

「うぅ…ぐすっぐすっ…」

「よしよし、少し待ってて?ルミ会長に連絡してくる」



シュンはココナを一度離すと携帯電話を探す

「あら、どこに置いたのかしら?」

ココナの部屋に来るまでは確かに持っていたはず

部屋のどこかに落としたのだろうか

床を探し始める


「姉さん…」

「?」

「ごめんなさい」

「もう、あまり気に病まないで──」

「姉さんの分もあるんだ」


「…っ!?」

シュンは寒気を感じてバッと振り向いた

そこには恐ろしい笑みを浮かべながら、砂糖菓子を片手に持つココナが…

「ココナちゃんっ!?」

「姉さん!姉さんも食べようよ!あはっアハハハハッ!」

狂った笑い声をあげて飛び掛かる

「いやっ、やめて…やめなさい!」

「これ、美味しいんだよ!?どのお砂糖やお菓子より美味しいんだよっ!?」

「くっ!これが砂糖中毒の…!」

襲ってきたココナの膂力は、なんと普段以上に強かった

体格差をものともしない力でシュンの口に砂漠の砂糖を捩じ込もうとする

「このままじゃ…っ、あれは!」

部屋の隅に携帯電話が落ちている

「どきなさ…いっ!」

(ドンッ!)

「ひゃっ!?」

シュンはココナを突き飛ばして携帯電話を拾いあげる


「姉さん…ひどいよ…折角姉さんのために買ってきたのに…!」

ゆらりと立ち上がりながら怒りを込めた視線を向けるココナ

「ふざけないでよぉ゛ッ!!!」

「っ…ごめんなさいココナちゃんっ!」



シュンは部屋から出ると、全速力で走りながらルミに電話をかける

「ルミ会長!ココナちゃんは砂糖を摂取してしまっていましたっ!今中毒症状が表層化して、私に襲いかかっています!すぐ梅花園まで来て下さいっ!」

ルミ「本当!?分かったすぐ向かう!」

「姉さぁ゛ぁ゛ぁぁぁんっ!!!」

「ど、どうかお願いしますっ!」


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電話を切ったシュンは、梅花園の倉庫に急いで入ると鍵をかけた

直後、外から殴りつけるようなノックが始まる

(ドンドンドンッ!)

ココナ「姉さんなんで逃げるのっ!?早く開けてよっ!開けてってば!開けろぉ゛っ!開けろっつってんでしょうがぁっ!!!」

シュン「はぁはぁ…ごめんなさい…でもそれはダメなのよココナちゃん!」

「はァ゛!?砂糖の何がダメなの!?いいからさっさと食べてよっ!一緒に砂糖食べたいってだけじゃん!」

「っ…ココナちゃんの優しさはよく分かります!でも、それを食べるのは…」

(ドガンドガンドガンッ!)

「きゃっ!?」


ココナは近くの教室から机を持ってきて倉庫の扉に叩きつける

「早くっ!開けろって!!言ってんでしょっ!!!いい加減開けてよッ!」

「うぅ…ルミ会長…早く…!」

するとその時

ルミ「ココナちゃん!」

「っ…ルミ会長!?あぅっ…!」

梅花園に駆けつけたルミは、玄武商会の部下を数人引き連れてココナを取り押さえた

「離してっ!離せぇ゛っ!邪魔しないでよぉ゛っ!姉さんに砂糖食べさせ…」

「ごめんココナちゃん」

ルミは暴れるココナの口に布を噛ませた後、部下達に縛るよう命じた


数十分後

「シュン教官。もう大丈夫だよ」

ゆっくりとバキバキに割れかけてる倉庫の扉を開けたシュン

「あ、ありがとうございました…ココナちゃんは?」

「ごめん、とりあえず縛って玄武商会に連れて行ったよ」

「そうですか…」

「まさかココナちゃんまでねぇ…流石にあたしも怒りが抑えられないよ」

ルミは握った拳を震わせている

「…とにかく、園児達はこの命に代えてでも私が守ります。ココナちゃんは幸いあまり摂取していないみたいだったので軽微で済んでいるはずです」

「そっか。うん、押し付けちゃうみたいで申し訳ないけどお願いね?もし協力が欲しい時は、玄武商会でも玄龍門でも…好きな時に連絡して欲しいな」

「はい、これ以上被害者を増やさぬようみんなで力を合わせましょう」


シュンは涙を手で拭いながらルミと握手を交わした

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