届かない手紙
親愛なる我が友人へ
やあ、コーリャ。元気にしているか? 死人に言ったってどうしようもないなんてわかってはいるが、我慢してくれよ。俺はまあ、何とか生きている。あれから十年が経ったんだ。あんたの年も抜かしてしまったな。
十年は長かったよ。本当に、長かった。冷戦が本格的に戦争に移行していって、漸く区切りがついたくらいかな。技術戦争も、戦争に勝つためだけにヒートアップしていって、本来の業務はもう随分と行っていない。生きているのに、死んでいるような毎日だった。
いいことなんて数える程しかないし、こんなことを「良いこと」に含めたくもないが、漸くあんたの死を受け入れられるようになってきたよ。もういないってわかってんのに、何でかあんたのことを、あんたの痕跡を探してしまっていた。何でだろうな。
天の国にいるのか? そうであったら俺は嬉しい。あんたは自分が罪人だと言うが、それなら全員が地獄行きだ。あんたの献身が死後でも報われてほしいと俺は思う。ずっと、彼ら彼女らのことを考えていただろう。
それから、……だめだ。どうも長くなってしまうな。返事のない手紙なのに。
続きは俺が死んだ後で。紙だって有限だしな。
さよなら。コーリャ。俺の親友。背と夢を預けた唯一の友。俺に呪いをかけたひどい友人。
俺はまだ生きている。もう一度会えたら、春と夏の境目で、カミツレとヒマワリを見に行こう。「弟」や「妹」たちも一緒にな。そうして、あの時できなかったことを沢山やろう。それくらいの夢は、見てもいいだろう?
追伸:俺も、あんたに生きていて欲しかったよ。自己犠牲は直ったか?