居酒屋アフター

居酒屋アフター


居酒屋ぷろすぺら、私はここでたまにお母さんのお手伝いをしている。でも、最近はたまにじゃなくて毎日手伝っている。

今まではお母さんとお姉ちゃんとゴドイさんと私の4人で切り盛りしてきたけど、最近新しい仲間が二人加わった。

見た目がそっくりな二人はケレス家の三つ子の兄弟らしい。もう一人は居酒屋のバイトに来てないけど毎日のようにお店にやってきてすっかり常連さんだ。


バイトの時間も終わってお腹が減ったのでまかないを食べている。今日は余ったなめろうを固めて焼いてハンバーグみたいにしたり、そのままご飯にかけて食べている。これはゴドイさんが作ったものではなく、三兄弟の真ん中のエランさんが作ったものだ。お母さんやゴドイさんに教えてもらって料理をするようになった笑顔の素敵なエランさんは、メキメキと腕を上達させて調理も担当するようになった。暇があれば私たちを手伝って食器を片付けたり会計もしているので視野が広くてすごいと思う。

物静かな一番下のエランさんは私と一緒に接客をしている。所謂フロアやホールと呼ばれる仕事だ。

下のエランさんも最初は調理をしようとしてたんだけど、お兄さんたちに「食に無頓着なお前(君)はやめておけ」と止められて私と一緒に働くことに決めたみたいだ。

仕事は丁寧だと私は思うけど、主に一番上のエランさんがいつも心配している。というより今日も来ている。

「お前が接客とか本当に大丈夫なのか?ちゃんと愛想よくしてるか?」

上のエランさんはなめろうハンバーグをつまみながらウーロン茶を一気飲みしている。なんだか仕草がおじさんみたい……

「してるよ」

下のエランさんは水を飲みながら、お兄さんを冷めた目で見て短く言った。

「本当かよ……おい、お前見てたよな、どうだった?」

上のエランさんは真ん中のエランさんに話をふった。真ん中のエランさんはご飯になめろうをかけて食べていた手を止めて飲みこんでから、

「まあ、仕事はできてたと思うけど、愛想よくはなかったね。いつもの無表情だったよ」

正直に忌憚のない意見を述べた。私から見ても笑ってはいなかったと思う。確かに愛想はよくないのかも……

「で、でも!仕事はちゃんとしてるんだし、そこまで心配しなくても大丈夫じゃないでしょうか!」

「だめだスレッタ、こいつにあまり甘くなるなよ。こう見えてかなり図々しいからな?つけあがるぞ」

上のエランさんはウーロン茶をグイっと煽ってジョッキをガンとテーブルに置いた。やっぱり、おじさんみたい……

「そんなことない。スレッタ、騙されないで」

下のエランさんはムッとした顔で抗議している。そこにサイダーを飲みながら楽しそうに眺めていた真ん中のエランさんが割り込んできた。

「まあまあ、兄さんの心配ももっともだと僕は思うよ。笑顔の練習してみたら」

下のエランさんににこやかに笑いかけてから、ふっと真顔になって上のエランさんの方を向いた。

「ところで兄さん。君はここの店員じゃないのに、どうして我が物顔でまかないを食べてるのかな?それ僕が作ったんだけど、あとで代金払ってよね」

「べ、別にいいだろ!お前ホント嫌に細かいところあるよな……」

わーわーと言い合ってるけど、何というか仲がいいなと微笑ましい気分になった。


「何はともあれ笑顔の練習だ。今やるぞ」

上のエランさんはビシッと下のエランさんを指さして宣言した。

「なんで兄さんが仕切ってるの」

下のエランさんがぼそりとつぶやいたけど、上のエランさんはスルーして話を進める。

「お前のせいでレビューサイトで、料理は美味しかったけど従業員の態度が最悪、星2です。とか書かれたらたまったものじゃないからな。なによりここに迷惑がかかるだろ」

「ケナンジって人は星5くれたって聞いたよ」

下のエランさんはなおも不服そうに食い下がっている。

「それはな、お前がまだ従業員やってないときの評価だろうが!今の話をしてるの俺は!」

「兄さんはこうなったら退かないから、諦めなよ」

真ん中のエランさんにも言われて渋々受け入れたみたいだけど、今の表情は笑顔とは程遠い。

「ほら、僕のマネをしてごらん」

真ん中のエランさんがニコッと笑う。素敵な笑顔だと私は思う。だが、

「それ、気持ち悪いって言われてた」

下のエランさんはバッサリだ。

「張り付いた仮面みたいで気持ち悪いって不評だぞ」

上のエランさんも同じだった。

「酷いな!なんてこと言うんだい!」

「わ、私は素敵だと思います!」

素直な言葉で庇うと真ん中のエランさんはグッと距離を詰めてきた。

「スレッタ……君は、優しいね」

震える瞳が真っすぐにこちらを捕らえる。ねっとりとした口調で話しかけられれば、背筋がぞくぞくとしてこそばゆい。これはなんだろうか?

「ひゅ、ひょわ……」

「君さえよければ、この後僕と……って、うわ!」

背後から伸びてきた二つの手がべりッと真ん中のエランさんを引き剥がしてしまった。激しくなった動悸が少し落ち着いて、ふうと息を吐く。

「そういうところだぞ、お前」

「そういうのやめて」

二人に言われて真ん中のエランさんはしゅんと肩を落とす。

ふと私は思いだしたものがあった。

「あの、笑顔の練習しなくても笑えてると思うんです」

そう言ってスマホで撮った写真を見せた。下のエランさんが写真とか全然撮ったことないと言っていたので、一緒に自撮りをした時のものだ。

「お前……こんな顔できたのか」

写真に写っていた表情は穏やかで自然に笑えていたと思う。上のエランさんも驚いている。

「へえ~……抜け駆け?ズルいね」

真ん中のエランさんはニヨニヨしてるけど、目は笑っていない気がする……

「違う。見ないで、恥ずかしい」

下のエランさんは顔を少し赤くしている。分かりにくいけどかなり照れてるみたいだ。

「きっと笑えないんじゃなくて、笑い方がよく分からないだけだと思うんです。だから、まずは楽しいこといっぱいやって笑いましょう。その……できれば、私とも……」

最後の方は尻すぼみで小さな声になった。でも聞こえていたようで、下のエランさんはポーっと小さく口を開けている。

「うん。今度の土曜日、いいかな?」

「あ……はい!どこか遊びに行きましょう!」

「ふーん、僕も混ぜてよ♪」

「俺も行くからな」

「ついてこないでよ」

下のエランさんは不服そうな顔をしてるけど、楽しいことはみんなで楽しんだ方がいいと私は思う。

今度の土曜日は賑やかな休日になりそうだと、胸を躍らせた。

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