少年と鳩

少年と鳩


数年前 マリンフォード広場


「あー…なんでジイちゃんとか教官には勝てねぇんだろ…エース達といた頃は大人にも勝てたのにさぁ…」


広場のベンチに座りながら嘆いている少年の名前はルフィ、ある事情で幼馴染と共に海軍に入り今は一等兵として訓練に励んでいる。


しかしルフィは今いわゆるスランプになっていた。同年代や同じ階級の兵士には勝てるのに祖父であるガープには傷1つ付けられずゲンコツ一発で沈められてしまい、自分の力を信じられなくなっていたのである。


ちなみにガープは祖父としての威厳と海兵の凄さを見せる為に見聞色の覇気を使って攻撃を全て回避してカウンターを喰らわされているのをルフィは知らない。


「教官達の変わった動きさえ分かればなんとかなるのにな…うーん…」


フーシャ村にいた頃、ルフィはウタ、エース、サボと共にチンピラとも戦ったりしてた時期もあり、それなりに戦闘は出来る自負はあったがそこは海兵とチンピラ、経験や訓練の密度の違いがあり指導教官やたまに現れるマグマのおっさんやピカピカ男、氷男にも勝てないで負けが続き、伸び悩んでいるのであった。


そして瞬間移動のような歩法「剃」、空中を踏みしめるようにして2段ジャンプをする歩法「月歩」、身体を鉄のように固くする「鉄塊」…そんな体術を使う教官達にも勝てず、やり方を教えてもらおうとしても「まだ早い」と言われスルーされたため、見様見真似ながら訓練するために珍しく休暇を使い自主訓練を行っていた…休暇を取るとウタに喋った時は何で休みを合わせないのかと小一時間ほど怒られたのもあって絶対に体得しようと誓っていたのだが今一つ上達する感覚を掴めないでいたのである。


そしてそんな広場に今日はもうひとりある男がいた。白いワイシャツにサスペンダー付きの黒いズボン、肩にペットのハトを乗せた青年。名をロブ・ルッチという。


殺戮兵器の異名を持つ彼が平日の昼から広場にいたのはある理由からである。


「…は?休暇を取れ?」


「そうなんだよ!いいかぁ!ロブ・ルッチ!!お前は一度も休暇を取ってないんだよ!ソレを労基と総務にバレかけてなぁ!司令長官が休暇を取られせないなんて思われたらおれの出世に影響が出るだろ?だから今のうちに休暇を取れ!あとは適当に誤魔化すから、すぐに取れ!」


CP9の長官室に呼び出されたルッチが眉をひそめながら話を聞いていた。


闇の正義として活動し世界平和に貢献しているのにこの言われようである…それに休暇を取れないのはそれだけCP9が多忙であり人手が足りてない為なのだが目の前の長官はそれに気づいていない。


あの変なマスクを二度と付けないように顔をもっと愉快な状態にしてやろうかと思いながらも休暇届を受け取り休暇を何時まで取るかと考えながらペンを走らせていた。


「最大1年まで取れるらしいぞぉ!まぁそんなに取る必要はないよな!大した趣味もないだろうし、仕事しか興味ないって感じだしな!!」


机に足を乗せてふんぞり返ってる長官がそんな事を言ってくるのでなんとなくムカついたルッチは最大である1年の休暇を取りそのまま長官に休暇届を叩きつけて部屋をあとにした。部屋の方から喚くような声が聞こえたが気のせいだろう…あとカク達には少し悪いことをしたような気もするが折角のバカンスを楽しむようにするかと思うルッチであった。


そんな訳で急遽現れたバカンスをどうするかと考えがてらペットのハットリと共にマリンフォードの広場に来ていたのだが…そこでルッチは面白いものを見た。


(不完全だが剃ができている…なんだあのガキは…)


広場で遊んでいた子供が剃をくり出したのを見て僅かに目を見開くルッチであったが無駄な動きがあるのを一目で見抜いていたが今は静観することにした。


休暇中であり、わざわざ声をかける必要はないだろうとそれに子供の遊びで偶然出来ただけと考えながらもついついその動きを目で追ってしまう…それだけ惜しいところまで来ているのに何故か出来ないのを不思議に思っていたがついに我慢の限界が来てしまった。


「おい、そこの麦わら帽子…なんでそこまで出来て何故剃を使えない」


「…ん?誰だお前?」


ルッチは思わず声をかけてしまった。上手く行かずにしょげて下を向く…いつかの訓練時代に似たような姿を見たような記憶を思い出したためだと内心思いながら目の前の少年…ルフィに問いかける。


「なー…お前さっき、剃って言ったよな…あれ?」


対してルフィも突然声をかけられたことに驚きながら男を見つめる。「剃」と言ったので海軍の誰かだと思い相談しようか考えていたところで目の前にいたはずの男が消えていた。幻覚だったのかと周辺を見渡そうとしていたら突然自身の背後から気配を感じ思わず振り向いた。


「これが人界の限界、お前がやろうとしてる武術 六式の1つ「剃」だ…お前がどこでそれを見たのかは知らないがそんな不格好なのを見せられると俺も気分が悪くなる」


長年の訓練と血の滲むような努力の果てにようやく全ての六式を体得したルッチにとって目の前の少年がやっていたのは酷く不愉快なものであったとそう頭の中で結論付け完璧な剃を見せて諦めさせる。そうすれば自分も目の前の光景に気を取れず休暇のプランを練れると思っていたのだが…


「お前スゲーな!!地面を10回くらい蹴るのかよぉーし!!」


「…!?」


ルッチは再び目を見開く、剃の初動を目で追える動体視力だけでなくたった1回で今までの動きを修正して完全な形の剃を再現したからである。


今も目の前を猿のように動き回る少年のセンスに驚きながらも同時にその才能がどこまでやれるか見たくなってしまった。


「おい、麦わら帽子…来週もここに来い。そうすればもっと六式について教えてやろう」


「ホントか!!お前イイやつだな!!」


屈託のない笑みを浮かべるルフィを見ながらルッチは休暇のイイ暇つぶしになるだろうと思いながら来週再び会うのを約束するのだった。


ここに師弟関係とも友情関係とも言えない不思議な縁が生まれた、この縁がどのような影響を与えるのかは誰も知らない。


ここから1年の休暇を使いルッチは目の前で見せる武術をスポンジの如く吸収するルフィを面白いと思い次々に六式を覚えさせると決意。1年で2つか3つ覚えれば上出来と考えていたが全ての六式を荒削りではあるが体得してしまい思わずその才能に戦慄したり、未来でそんな少年を指名手配にした上司を合法的に消せないか任務先の造船会社の同僚に相談したりするのは別の話である。


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