少し優しいと優しいの間のお話

少し優しいと優しいの間のお話


私とあかねちゃんがこの業界相手に復讐を始めてから早2年。アクアがこんな疲れる事を何年も続けていた事を知った時の衝撃は凄かった、だって今私はあかねちゃんと二人で復讐を計画してこれだけ疲れているというのに、アクアは1人でずっと行ってたというのだ。疲労も精神の摩耗も私たちの比じゃなかった筈なのに、そんな素振り私の前で一切見せなかったから、アクアは嘘が上手だったんだね。全然気づけてなかった私を呪いたいぐらいだよ。


「…そういえばだけど。あかねちゃん」

「どうしたのルビーちゃん?」

「おにいちゃんが少しの間復讐をしてないときあったでしょ?」

「うん、ちゃんと明日を歩こうとしてた時だね」

「あれって何が原因で復讐に戻ったの…?」

「私も詳しい事は聞いてないんだけど…誰かと会った時に終わってない事実を突きつけられたからって私は思ってる。…該当する人が一人しかいないからそれはないと思いたいんだけどね?」

「でも一人だけは居るんだ、…その人に会ってみたいなぁ。どうしてそんな事伝えてしまったんだって怒りをぶつけたいから」

「………ルビーちゃん、その人…ルビーちゃんが知ってる人なんだ」

「…えっ?!」


私が知っている人でアクアとも関係があって復讐って事になると浮かび上がるのはあの人だけだ、でもだからこそなのかあの人を恨みたくない自分と、恨もうとしている自分が居る。あの人が気づかせていなかったら、アクアは今でも横に居てくれたかもしれないって気づいてしまったから…、そうすれば今頃仲直りしてあかねちゃんと私とアクアで…やめよう、これ以上考えたら私は立ち止まってしまう。立ち止まる事なんてできない。アクアはするなら後悔をするなと言っていた、アクアの願いを踏みにじって私の命を使い潰してまで復讐することにしたんだから、止まる事なんてできない。


「仮にその人のせいだとして、ルビーちゃんはその人を対象にできる?」

「……確かにあの人には恩がある、だけどそれとこれとは話が別だよ。復讐のために私を利用してたっていうだけならまだ良いけど、アクアをある意味では地獄に突き落とすような真似をしたって事でしょ?」

「多分それが無かったらもっと後にアクアくんはある矛盾に気づいて、私やルビーちゃんを頼ってたかもしれないことを考えればね…あの人が突きつけた事実はアクアくんにとっては毒だったんだ」

「…なら復讐の対象になるかも、ミヤコさんにもアクアをあんな風にしたやつは許すなって言われてるし、ミヤコさん…それとなく気づいてたんだ…」

「本当にミヤコさんはアクアくんとルビーちゃんのもう一人のお母さんだったんだね」

「でも今更あの人の相手なんてできないよ。もう大詰めだし、私たちの復讐」

「そうだね、遺書も用意したから。あとは全部行動に移すだけ」

「でも私たちだけってわけじゃなかった、フリルもみなみも本当によく協力してくれたよ、自分たちのいる業界なのにさ」

「あの二人もアクアくんとお話してる時、本当に一人の少女って感じだったし…アクアくんの女たらし!」

「あはは、アクアだから仕方ないよ…前世でもそうだったんだから」


私たちの復讐は、終わる。言い方を変えるなら私たちは明日死ぬ。どんな結末になろうともこの事実を公表できるなら私たちがどうなろうと関係ない。蔑まれても恨まれても罵られても明日死ぬ私たちには何のダメージもない。後悔なんてないよ、後悔なんてしないよ。私の後悔はアクアが死んだあの日からそれだけなんだから、まぁ未練があるとするなら、アクアともっといろんなところに行きたかったな。兄妹として、或いは恋人として過去の願いも兼ねていろんな場所に旅行に行きたかった、二人で好きな物食べて。好きな事をして、はしゃぐ私に呆れつつも笑っていてくれるアクアと一緒に色々な所に行きたかった。これについては多分同じことを考えてるだろうあかねちゃんと視線が合い、なんでもない事なのにおかしくなって笑う。


「思ったよりも短かったね」

「そうだね、もっと早くアクアくんに出会えてたら、私もいっしょに行けたのかな」

「同じ日に二人ともいなくなっちゃったら私泣くだけじゃすまなかったと思うな…」

「前から思ってたけどルビーちゃん私の事好きだったりする?」

「好きじゃなかったら一緒にこんな事してないよ」

「じゃあ、アクアくんが繋いでくれたんだね」

「だって同じ人を好きになってた人だよ?これ以上に信頼できる人いないでしょ?」

「かなちゃんは…?」

「あの人のあれは恋ではあるだろうけど、私とあかねちゃんのそれとはきっと違うものだし、MEMもそうだと思う。フリルとみなみはちょっと怪しいけど、あの二人には後片付け丸投げしちゃったし」

「何時かまたみんなと出会えた時に恩返しをしないとだね…それじゃあルビーちゃん、手元にあるよね?」

「うん、おやすみ。あかねちゃん、また何時かどこかで会えたらいいね」


そう言って私たちは大量の睡眠薬をのむ、それこそオーバードーズ、アクアがいたら馬鹿な事はよせって頭叩かれてただろうな、なんてありもしない幻想を抱きつつ飲む、ごめんねミヤコさん。やっぱり私はアクアがいない日常に耐えれないみたいでミヤコさんを置いて行くことになっちゃったけど、この十余年本当に楽しかったよ。私とアクアのもう一人のお母さんになってくれてありがとう、こんな親不孝な子供たちだったけど貴女と過ごした日々は間違いなくたからものだったよ。私とアクアを愛してくれて本当にありがとう、そしてさようなら。ごめんなさい。


『〇月〇日未明、女優の黒川あかねさんとアイドルの星野瑠美衣さんが同室でなくなっていることが確認されました、また二人の近辺に大量の睡眠薬と思われるものが見られおそらく自殺ではないかと推測がされておりますが現在死因の確認を急いでおります。


「そっか、ルビーもあかねも…漸く眠れたんだね…おやすみ、よく頑張ったね……ミヤコさんはどうします?」

「………あの馬鹿な子たちが安らかに眠れるように、お墓を護るわ。だってあの子たちは私の子供なのだから」

「…じゃあ私もお供します、最後の日までずっと一緒に」


「良く頑張ったわね、ルビー…ちゃんとアクアに謝るのよ。そしておやすみなさい」


星の海ってどんなところなんだろう。そう揺蕩う意識と体でぼんやりと流されている私たち。隣には一緒になって揺蕩っているあかねちゃんがいて、ここは一体どんなところなのかを探っている。そんな中、私は川辺のような場所で釣りをしている、やっていたところなんて見た事ないのにどこか懐かしいその背中と光景に眼をこすり、ふとあかねちゃんに視線を移すと頷きながら、譲ってくれた。「いいよ、ルビーちゃん。私はあとで」そういって背中を押してくれた。


「アクア!」


大きな声をぶつける、ずっと。ずっとずっと会いたかった人に体当たりの如く勢いで抱き着きながら最初の一声は決まっていた。


「家族じゃないなんて言ってごめんなさい、あんなに酷い事を言ってしまってごめんなさい!」

「…ルビー?なんで、ここに…いや、それよりも別にそれは気にしてないし謝られても困るって言うか」

「それでもけじめだから!…ああ、やっと会えた、やっと声を聞けた、やっと…謝る事が出来た…」

「俺はお前には生きていてほしかったんだが」

「…アクアのいない世界はね、地獄だったよ。どこに居てもまともに呼吸できる場所がなかったぐらいには地獄だった」

「あかねや有馬にMEMもいたのにか?」

「友達や仲間は、やっぱり違うよ。アクアは特別だったんだから!」

「そうか…俺はまたお前に辛い事を押し付けていたんだな…」

「良いの、私はどうしてもアクアに会いたかっただけだから…だから一緒に溶けよう、ママのいる海に行こう?」

「ああ、その前にあそこにいる。もう一人の厄介なお客様への対応が終わったらな」

「あ!そうだね。あかねちゃんも一緒に連れて行こう?」

「はいはい、分かったって。思ってた形とは違ったけど、ルビー。よく頑張ったな」


優しく頭をなでてくれるその存在に身を任せる、2年と数か月もの間待ち望んでいた再会、そして一緒に行ける喜びに体をふるわせている私はどうしようもない程、この人が好きなんだって思えて、おにいちゃんとあかねちゃんの再会も見守って。


私たちはその日、再会しママのいる星の海へと消えていった。


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