少しだけ優しいお話(当社比)

少しだけ優しいお話(当社比)


『これをルビーが見てるってことは、俺の復讐は終わってそして多分俺が死んでるって事だろう』


そんなどこか優しくてそれでいて軽い言葉から始まる動画を私は今、見てる。復讐を決意した日の次の日に、今まで声を殺して泣いていたミヤコさんから渡された、できれば私が見る事にならないで欲しいと願っていた…アクアが残した最後の映像作品にして、アクアが私に残した遺言を見てる。


『俺たちは転生とかいうよくわからない、そんなオカルト染みた事が起きて、この世のアイの元に生まれたよな。覚えてるかどうかは分からないけど…いつかの疑問…僕の前世のことを話しておこうと思う』


アクアが残した言葉の中に私に関わりのある、たった一つの名前があった。それは過去に病気で死ぬことになった前世での私の名前、さりなという名前、朦朧としたアクアが天に零した、小さな願望。あの一瞬、確かに困惑した。きっと普段の私なら、何故?と問いただしてただろうけど…。そんな暇はあの瞬間にはなかった、ただアクアの体が徐々に冷たく、緩やかに動かなくなっていく。その現実に私は絶望していたのだから。


『僕の前世は本来アイから君を取り上げる予定だった、産科医の雨宮吾郎という医者だ。何時か君がキモオタとか言っていたが、大いに正解で僕は僕が担当していた患者さんに影響されてアイ推しになり、色々な顛末は飛ばすけど僕はアイを殺したアイのストーカーに殺されたんだ』


やっぱり、アクアはゴローせんせだった。せんせはずっとずっと傍に居た。あの暗闇に一人で居たわけじゃなかった、けど。私は何も気づいてなかった、ふとした瞬間にアクアに感じていた既視感と違和感も今になって分かるものがある、確かにせんせがしていた癖で変な感じだと思っていた…。だけどアクアとせんせが結びつくわけなかったんだ。だって私はアクアはアクアとして好きで、せんせはせんせとして好きで。いつか、せんせに自慢のお兄ちゃんとして紹介するつもりで居たぐらいに二人のことが好きだったから。


『だから僕の復讐にもちゃんと正当性はあったんだよ、なんて急に言われても驚いちゃうか。だけどもし君があの日の僕と同じように復讐に手を伸ばすというのなら、もう一度冷静になって考えてほしい。例えどんなことを言われても、どれだけ嫌われていても僕は君の兄だから、君には幸せになってほしいんだ。』


幸せ、幸せか…私にとっての幸せはきっともう実現はしないだろう、ママもアクアもせんせも居ない、その上私はもう幸せになりたくないと来てる。だってそうでしょ?私のせいでアクアが死んだのに、そんな私が幸せになるだなんて考えたくもない、この命を使い潰してでも私は復讐をすると決めたの…ママには悪いけどね。私はアクアにあって謝りたい。アクアに会えるなら地獄だとわかっていても会いに行くよ。


『それでも君が同じ道を辿るというのなら、誰かに頼りなさい。そして後悔だけは残さない事。それができるのであれば君は君の復讐をすればいい。君の兄だった僕としては凄く寂しい事ではあるけど、僕…いや、俺はお前を尊重する。ああ、そうだ。これだけはちゃんと伝えておかないとな…ルビー、俺はお前を…愛してる』


動画はその言葉で締めくくられていた。あの日最後まで聞けなかった、一番聞きたかった言葉を胸に抱いて。頭の中に響く悪意だけの言葉さえ忘れさせてくれる、そんな強い兄の愛の言葉に瞳に涙がたまっていく、私はちゃんとアクアに愛されていたという事実に胸がいっぱいになった。だから頑張れるよ、おにいちゃん。待っててね、せんせ。必ず遂げてそっちにいくから…もう少しだけ、そこに居てね…アクア。


二人で…星の海に帰ろうね。

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