小話等

小話等


小話①呪術高専:フイメ商事

呪術高専職員室の固定電話には、時々留守番電話が入る。録音はいつも、中年男性のやけにハイテンションな営業電話だ。

「お電話失礼いたします!フイメ商事の平坂と申します!この度は呪術師の皆様に大ッ変!役立つ商品をご紹介いたします!」

「まずは呪力水!こちら呪力を底上げする霊水でございます!特別な川から汲んだ水に呪力の源を混ぜて作っておりますから、一口で効果を感じること間違いなし!是非お試しください!」

「お次に身代わりの札!日々呪霊を祓う皆様の身を守るお札でございます!こちらは一級呪霊の攻撃も無傷で防げる優れ物!使い方は簡単!この榊の札にご本人様の血液で名前を書くだけ!お守り代わりに1枚いかがですか?」

「ーー最後に!弊社では買取も行っております!取扱いに困っている呪具や呪物、用済みの呪詛師、不要な記憶、新鮮なご遺体などございましたら、是非!ご連絡ください!高額で買い取らせていただきます!」

 

拾遺

猪野琢真様

先日はアンケートご回答ありがとうございました!飴のお味はいかがでしたか?弊社では11個入り、23個入りで飴を販売しております!是非お買い求めください!

 

脹相様 東堂葵様

おや!すたか堂の商品ですね!我々も装飾品や骨董に手を広げたいのですが、すたか堂の素晴らしい品物の前ではなかなか…

ただここだけの話、弊社も新商品の開発がかなり調子良くてですね!質の良い材料が入ったので…おっと!これ以上は社外秘でした!

新商品が出来ましたらまたご連絡いたします!

 

拾遺2

伏黒甚爾様

先日は貴重なご記憶をありがとうございます!新たな商品開発に役立てております!またのご利用をお待ちしております!

なお、弊社ではお身体の買取もしております!一部でも構いませんので!ご一考ください!

 

髙羽史彦様

弊社の泉津が営業させていただいたお客様ですね!お声がけの際は驚かせてしまい申し訳ございません!

しかし、当時は分からなかった弊社商品の使い方、今ではご理解いただけるのではないでしょうか?いえいえ!全てジョークグッズのようなものですよ!勿論!

気になる商品ございましたら、是非!ご連絡ください!

 

(倒語で冥府商事。黄泉比良坂は日本書紀では泉津平坂と記されています。

水は呪力の元である人をたくさん沈めて作っていて、飲むと10月10日で何かが腹を破って出てきます。

御札は普通に身代わりなので、防いだ攻撃によっては対価が足りず、全身の血を持っていかれます。

飴は他人の不幸の代わりに1つ記憶を失うだけのジョークグッズですね。

パパ黒の記憶は何に使ったのか、これは内緒にしておきます。)

 


小話②冥冥:八咫烏

あの人は時々「あ」と目を抑えて支配下に置いた烏を全て放すことがある。理由を尋ねてものらりくらり躱されるばかり。

どうしても気になって彼女の弟に聞いてみたら、「ひとの目は、太陽を見たら潰れてしまうものでしょう」と薄ら微笑まれた。

そうか。肉の焼けるような匂いは、それでか。

 

 

小話③日下部篤也:せめて遺影が年取ってりゃなぁ

近頃行方不明者が出ると、とある山に派遣された。一通り祓い終えて、生存者を探すために廃屋になった山小屋のドアを抉じ開ける。埃が舞って思わず咳き込んだ。

中に入ると中央に大層ご立派な仏壇があって、そこに俺の遺影と位牌が安置されていた。

はー待て待て。俺の位牌これで3つ目だぞ


 

小話④羂索:鬼事

平安の世からかれこれ1000年、どうにも不思議なことが1つある。身体を乗り移る度に「お久しぶりですね」と声をかけられるのだ。相手は死にかけの老人から辛うじて喋れる程度の子供まで、年齢も性別も様々。揃いも揃って薄っすら微笑みながら「お久しぶりですね」と言うものだから気味が悪い。同一の魂でもないし。

初めてお会いしましたが、と言っても「いいえ!いいえ!」と首を横に振られるばかり。どうやら私たちは旧知の仲らしい。そんな覚えはないんだけどね。

この間身体を変えたから、そのうちまたやって来るんだろう。今までずっと否定していたけど…そうだな。今度は私も「お久しぶりですね」と返してみようかな。

 

拾遺(夏油)

下校中、道端でついと腕を引かれた。振り返ると、10歳くらいの男の子が笑顔を浮かべて立っている。

迷子かな。焦ってはいないようだけど。内心首を捻った。男の子は私の困惑を気にも止めず、「お久しぶりですね」と言ってニコリと笑った。

「誰かと間違えていないかい?」

仕方がないので、怖がらせないようしゃがんで目線を合わせる。男の子はパチ、パチと大きな瞬きを2つしてから、ストンと表情を落とし。

「早かったか」

そのままキュッと跳ねるように踵を返して、雑踏の中に消えた。

 

(長い長い鬼ごっこをしています。まあだだよ、と言っていたのに次はもういいよ、って言っちゃうんですかね?ちなみに夏油も巻き込まれました。まだ早かったみたい。)


 

小話⑤夜蛾正道:しかも赤子の声で笑うらしい

この間、学長に呪骸は既製品じゃダメなのか聞いたんだ。学長は少し考えてから、作れないことはないが…と困ったような声で続けた。

「呪骸と、呪骸じゃないが動くぬいぐるみの区別がつかないと困るだろう」

呪骸じゃないのに動くぬいぐるみってなんだ?


(じゅがいは孺孩とも書けるんですね)


 

小話⑥両面宿儺:水交

この間、何かの時間潰しで博物館に行ったんだ。学生はタダで入れるって言うから、ふらっと。日本の美術品があるとこだったんだけど、突然宿儺の目がきろきろ動き出して、

「久しいな。貴様が後の世まで残るとは…」とか「水滴よ。あの硯はどうした。何?焼けただと?」とか「ほう。随分と煌らかに飾られたな。好みではない?ケヒ、贅沢者め」とか、ブツブツ言い始めてさ。

何してたのか聞いてもだんまりだから、宿儺が誰と話してたかはよく分からない。

 

 

小話⑦レントゲン写真

呪術師は半年に1度のレントゲン検査が義務付けられています。検査によって、もしも体内に本人の名前が刻まれた骨が発見された場合、摘出して治療してください。これを行うことで、呪術師の死亡率が年間9%低下すると判明しています。

なお、本人の名前の他に日付が刻まれた骨が発見された場合は手遅れです。最期まで有意義に呪術師を続けさせるため、担当医師は速やかにレントゲン写真を処分してください。

 

 

小話⑧伏黒恵:犬のぬいぐるみ

あのサングラスの人が来た後も、しばらくは色んな奴が俺と津美紀の周囲を彷徨いていた。チクチク遠回しに嫌味を言われることもあったし、逆に胡散臭い笑顔で擦り寄られることもあった。その度に放っておいてくれ!と歯噛みした。

ある日、見知らぬおじさんから、「お父さんにはお世話になったので」と犬のぬいぐるみを貰った。スゲェ怪しかったけど、津美紀が可愛いとはしゃぐもんだから、そのまま受け取ってしまった。

ぬいぐるみはリビングに飾られた。津美紀は毎日嬉しそうに眺めている。しかも、最近周囲を彷徨く奴が目に見えて減った。きっとあの人が手回しが効いてきたんだろう。

…だから。たまに見る、犬が色んな奴の首を噛み切る夢と、時々首輪の鈴に散っている赤い液体の跡は、何も関係がないと思う。


(パパ黒の記憶はとても良いものだったので、子供たちにプレゼントを渡しに来ました)

 

 

小話⑨猪野琢真:尊敬する人

僕にも尊敬する人がいるのでわかります!そう言って俺の七海サントークに付き合ってくれる補助監督がいる。2人でお互いの尊敬する人について盛り上がるのはとても楽しい。さっきも、七海サンと先日飲んだ話と、補助監督の尊敬する人が昨日彼を褒めてくれた話で一通り語り合ったところだ。

だから俺は、その補助監督の尊敬する呪術師が実在しないことを知っているのに、トークタイムが惜しくて何も言えないままでいる。

 

 

小話⑩永遠の17歳

2年生の教室には誰のものでもない机と椅子がひとつある。片付けないのかと聞くと、在籍してるからなと名簿を見せられた。何の変哲もない普通の名前。呪術師の家系でもなさそうだ。

ずっと2年に在籍している生徒だそうで、学長も同級生だったことがあるとか。ソイツはある日校内で行方不明になったっきりだが、時々4階美術室から声がするから、まだ学生でいいんだと。

 

 

小話⑪髙羽史彦:アルバム

卒業アルバムに知らない人が1人混ざっていた、という怖い話を聞いた。全員違ったらもっと怖い…を超えて面白いかもな!と思いながら自分のアルバムを開いたら、同級生が全員知らない顔と名前になっていた。

数ヶ月経った今でも、アルバムは元に戻らない。時々かかってくる自称同級生からの電話では、ひとつも知らない思い出話ばかりされている。俺の本来の同級生はどこにいったんだろう…


(髙羽は元に戻ったら面白いだろうな!と思うことはないので一生このまま)

 

 

小話⑫早くいきましょう!

佐藤はる子って名前の補助監督が持ってきた任務は受けちゃダメだよ〜!そんな人いないからね。と昨日先生に言われた。

さっきノックの音で目を覚ましたんだけど、「おはようございます!佐藤と申します!急ぎの任務があるのですが…」という女性の声。開けたらまずいかなぁ。

 

 

小話⑬挽歌

呪術高専には校歌がない。昔はあったのだが、歌う度に酷く線香の匂いが立ち篭めるので楽譜ごと忌庫に封印されてしまった。

 

 

小話⑭禪院直哉:禪院⬛︎⬛︎

部屋の抽斗から出てきた日記帳のとある日付の頁には、『禪院⬛︎⬛︎を思い出してはいけない』ちゅう文がビッシリ書かれとった。

禪院に⬛︎⬛︎なんて名前の奴はおれへんし、思い出したらあかんちゅうのも意味がわからへんし、そもそも俺は日記やら書いたことあらへんし……せやけど俺の字やねんな。

 

(忘れないって言ったのに)



小話⑮夏油傑:冤罪

学生の頃、悟とよくお互いの部屋で遊んでいた。悟が私の部屋から帰った後、白い毛が部屋のあちこちに落ちていることがあった。色素が薄いと色々あるんだな…と思っていたけれど、呪術高専を出てからも白い毛は引き続き部屋の隅に落ちている。

悟、あの時生え際を心配してごめん…

 

 

小話⑯天元:名付

この名で呼ばれるようになったのはいつ頃か。遥か遠く記憶も朧ではあるが、この名は実の所、賜ったものだ。

さて、私がまだ童であった頃。私は草葺きの屋根をかけた竪穴で飯を食い、日が登れば鍬を担いで田を耕し、日が沈んだら藁へ潜って眠る。そんな生活をしていた。世の理なぞひとつも知らぬ無知であった。知っているとすれば饑さ位だろう。

しかし、ある黄昏時。葉の落ち始めた林にて、私はその御仁にまみえる幸いに恵まれた。雲の如白し御衣を纏い、透き影の御髪のいと長く麗しく、下がり端などいみじう艶やかで…いや、失礼。うむ。兎角神さぶる御方だった。

御前は白く美しい手で私の頬に触れた。集めた薪がバラバラと落ちたが、御前の目見の美々しさの他は何も考えられなかった。私が惚けていると、唐錦の奥から響くような音声がした。しゃらしゃらと涼しく晴れがましき、天より降り来る婚ひ星の音であった。

「愛い子。吾の愛し子。遥けし当来にても、あめつちのために存ぜよ。我が巫よ。祝り子よ。寄す処を授こう。其方は諸行の最中にて。これより天元と名告りたまえ」

この託宣が、誰も知らぬ私の始まりである。

 

拾遺

饑さ:ひだるさ。飢え

透き影:薄い布に透けて見える姿

下がり端:切り揃えられた額髪

婚ひ星:よばひぼし。流星

あめつち:天地

祝り子:はふりこ。神職

寄す処:よすか。拠り所

諸行:万物

最中:中心

 

天元はその名を暫く名乗らず、この託宣も心に秘めていたが、いつしか自然とその名で呼ばれるようになったので、定めと諦めたとか。

 

(所謂神様のデザイナーベイビー)


 

小話⑰九十九由基:不純物

天元と同化した星漿体2人の声の他に、時々、どちらのものでもない低い声が混ざることがある。それはこの世のどこにも存在しない言語で、ボソリボソリと歌うように呟いている。

…不純物ってのは、こういうもんのことを言うべきだろ。

 

 

小話⑱冥冥:冥銭

おや?遂にチラシまで寄越すようになったのか」

蛇のような手がするりとチラシを抜き取った。持ち主は振り返るまでもない。

「まぁ…お前なら知ってるだろうな」

「そうだね。しかし随分嫌な顔をする。被害は呪詛師の方が多いじゃないか。敵の敵は味方だろう?」

「馬鹿言え」

ジロリと視線を向けると、編んだ髪の向こうでキュウと目が細まった。はー待て待て。頼むぜオイ…

「…何買った」「流石。よく分かったね」

懐から取り出されたのは紐で連ねた6枚の銭貨。

「幽世で使える金も用意しておかないとだろう?」

「おッまえ…何で買った?あの会社の対価のエグさ忘れたのか?お前より酷いんだぞ。胡散臭ぇ水飲んだ奴は腹ン中から食い破られた穴開けて死んだ。飴買った奴は食った飴の数だけ記憶を取られて病院送りだ!事と次第によっちゃあ…」

冥冥はくっきり笑みを深めて、指先をくるりと回した。

「御先」「は?」

「御先を1羽生け捕りにした」

「ハァ!?罰当たんぞ!?」

「フフ、人間なんて生きてるだけで罰当たりだろう。大丈夫。地獄も金で解決できるさ。何せ、金が在るんだから」

そう言って、守銭奴はまたチャリ、と六文銭を振って見せた。


(彼岸の金を手に入れるために神の使いを差し出す度胸、尊敬します)

 

 

小話⑲乙骨憂太:閉じ込めていたのに

呪術高専敷地内の神社はほとんどがハリボテだが、そのうちの幾つかはホンモノだ。ホンモノには全ての門口に注連縄がかけられていて、月に1度神主が入る以外、一切の出入りが禁じられている。なので、基本人間が境内にいることはない。

…あの。昨日しっかり注連縄が掛けられた鳥居の内側で、迷い込んでしまったって困り果ててる人がいたから、呪術高専の敷地外まで案内しちゃったんだけど。あの、これって…あのさ。僕今この話初めて聞いて…えっと、どうすれば…

 

 

小話⑳シン・陰流:骨噛み

閲覧注意/グロ系?/人怖/因習

https://telegra.ph/%E9%96%B2%E8%A6%A7%E6%B3%A8%E6%84%8F-05-12-2

 

 

小話㉑西宮桃:6フィート下より

ザクッ!と音がして振り返ると、霞ちゃんが水溜りに無表情で刀を突き立てていた。暫く水面を睨み付けた後、泥を払って刀を納めた霞ちゃんにどうしたのか問いかけたら、いつもの可愛い顔でにこりと笑った。

「私たちを引き摺り込もうとしてきたので、注意しました!」

私はそれ以上何も聞けなかった。よく考えたらここ数日一度も雨は降っていないけれど、きっと盛大な打ち水とか、誰か何かしたんでしょ。きっと。ね?

 

 

小話㉒加茂憲紀:そこにいる

ある港町で任務があった帰り、通りがかった小さな砂浜をなんとなしに見ると、走り回ったように乱れた足跡がさらさらと風に吹かれて消えていった。

けれど…2つだけ。いくら吹かれても消えない足跡がある。そしてその爪先は、ジッと私の方を向いている。

 

 

小話㉓天元の森

天元様が守る森に生えているとある木には、時々ヒトガタが貼り付いている。それには49日前に亡くなった呪術師や補助監督の名前が刻まれていて、死因の箇所が黒ずんでいるそうだ。

天元様はこれを残らず集めさせ、逆修しているという。あの方直々に祈ってくださるのなら、そりゃあ帰りたくなるってもんだ。



小話㉔七海建人:大安でお願いします

呪術師に戻るため久々に五条さんに会った。いつ正式に戻れば良いか聞いたところ、「いつでもいいけど、友引以外かな〜」と言われた。

疑問が顔に滲んでいたのだろう。五条さんは「別にオマエがそうなるって言いたい訳じゃないけど。友引に戻ってきた奴って大体、結構すぐ他の呪術師とか補助監督巻き込んで酷い死に方するんだよね」と言い。

それからコトリと首を傾けて、「で?いつにする?」と笑った。 



小話㉕灰原雄:対価

呪術高専には来るな。私はこれをお兄ちゃんに繰り返し言い聞かせられた。でも、呪霊は怖いし見ないふりなんて難しくて、少しでも抵抗する力が欲しかったのも事実で、いつも曖昧に返事をしていた。お兄ちゃんにはバレバレだったんだろう。

ある日お兄ちゃんは私にネックレスをひとつ押し付けた。これを付けてれば大丈夫。もう見えないからって。それから、呪術高専には来るなよ…って。

お兄ちゃんは、それから間もなく家に帰ってきた。ひと月後のことだ。火葬中、炉の扉に寄りかかって膝を抱えてぼんやりしていると、扉の向こうから「代金をいただきにまいりました」と嗄れた声が微かに聞こえた。

収骨時、お兄ちゃんの頭骨が見つからず大騒ぎになったところで、全てを悟ってネックレスを握りしめた。それから一度も、私は呪霊を見ていない。

 

(すたか堂。堅洲国より。例の産土神信仰には関わりありません。死後頭骨を差し出す約束でネックレスを手に入れました。)


 

小話㉖狗巻棘:翌日はパンダだった

「棘。何か元気ねぇな。どうかしたか?」「…おかか」

「なら良いんだけどよ。無理すんなよ?」「しゃけ!」

パンダが時々別の何かと入れ替わっていることに、自分だけが気付いている。が、伝える言葉がないので誰にも伝えられないままだ。パンダ(仮)はこちらの行動を監視するように、いつもずっと側にいて、こんな風に歯を見せて笑いかけてくる。

…あ。喉の奥に小さな子供の手が、

「棘?」「…ツナマヨ!」

「トイレ?もうすぐ授業始まっちまうぞ!急げ!」「しゃけ!」



小話㉗五条悟:人魚の肉

「仮想怨霊ってさ、人魚とかもいんの?」「いないよ」「へー、そうなんだ」

「…悠仁は人魚を見たい?」「いや別に?いんのかなって思っただけ」

先生は窓の外を見ながらそっか、と軽く呟いた。

「人魚はいないよ。人魚の卵はいるけど」「卵?」

「成りかけ。育ったら人魚になるね」「え、じゃあ人魚いるんじゃん」

「いないよ。成る前に全部処分してるから」「処分?」「殺すんだよ」

振り向いた先生の表情は、強い逆光で目を細めても見えない。

「火種になるから」

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