小さな亀裂
神永 side in
セイバーのマスター、トーマスがライダーに殺されたことで俺たちはバーサーカーという犠牲を払いつつも勝利を収めることが出来た。
だがこれにより美作は聖杯戦争における参加権を失ってしまった、が何故かそこまで悲観的になっていないようだ。
「そこら辺の話は後でするわ、私は先にセイバーのマスターの工房を調べてくるから」
そう言って屋上の階段から下に降りていった。
「主殿、何とか勝利出来ましたね」
ライダーがトーマス氏の首を持ったまま話しかけてくる、正直気分が良くないので首は死体の所に置いておくように言う。戻ってきたライダーに質問を飛ばす、無意味な質問だが
「ああ、……なぁ、殺さないってことは出来なかったのか?それこそ令呪を切り落とすとか」
「無理です、それを狙った隙に私が殺されてますね」
「…そうか」
ライダーの言うことはその通りだ、だが…沈んでいる自分とは対照的に弾んだ声で話しかけてくるライダー
「それより主殿、敵将の首を取りましたよ!」
「……そうだな、流石だライダー」
「えへへ…もっと褒めてくれても良いんですよ?」
───キモチワルイ
正直、感覚が違いすぎるせいかライダーの笑顔がキモチワルイものに見えてくる。
「……ライダー、聞きたいことがある」
「はい?何ですか?」
「もし俺に褒められるなら何をするんだ?」
「そうですね…他マスターの首を献上しますね」
「はは、流石に冗談だよな? 」
「流石に冗談です、私1人で他マスターを倒せるとは思っていませんよ」
「───できるなら、やるのか?」
「ええ、やりますよ?」
首を傾げたライダーはさも当たり前のように答える
───狂ってる、正直な感想がそれだ。
コイツは、俺が褒める、それだけのために可能ならば他のマスターを躊躇無く殺すと言ったのだ。
なんで…なんでそんな風にできるのか
オレはこの時初めて牛若丸いや、源義経が兄である頼朝に殺されそうになったのかを理解した。基準が人では無い、そういうことなのだろう。
「主殿?もしかして体調が優れないのですか?」
「あ、ああ少し気分がな…悪い、先に下に行って美作と合流しててくれ」
「はい!先に行っています!」
そう言ってライダーは階段から下へと向かっていく。
これからライダーのマスターとして居続けられるのかの分水嶺に立っている、そんな気がした。
神永 side out
穂乃果 side in
バーサーカーが消滅し、私はマスターとして聖杯戦争に参加する権利を失った。
ただやりようはある、故にトーマス氏の工房の調査の手を緩めることはありえないのだ。
「……ん〜調査資料ぐらいね、あと私たちが会ってないマスターの資料は…見つからないか」
置いてあった資料をバッサバッサとひっくり返しながら確認していく、有用そうな礼装もあるにはあるのだが正直何かが仕掛けられている可能性もあるのでライダーに集めてもらい後で全て燃やすつもりだ。勿体ないのだが仕方あるまい、まぁ隼人辺りに聞いて確認しよう。
「…あ、手帳ね」
おそらくトーマス氏が聖杯戦争に参加した辺りから書いたであろう日記や備忘録があるはずだ
「……魔術的なロックが掛かってる」
そこまで難しいものでも無いので1日2日時間をかければ解除はできるはず、貴重な情報源のためこれは持ち帰ることにする。というかライダーが礼装をシーツに纏めて持って行ってくれるのでそこに突っ込むことにする。
「ライダー、神永クンは?」
「体調が優れないそうで少し遅れるそうです」
「そう…まぁあれだけ宝具を使えば体調崩すわよね」
宝具を3つも使ったのだ、むしろそれだけ使って立っていられるだけでも凄いのだ。
「……ん、よしこれで探索は終了ね」
「他に持ち帰るものはありますか?」
「いいえ、必要ないわ」
必要なものは全てライダーが背負う巨大な袋に入れてあるので問題は無い。後はあいつを待つだけなのだが……
「……遅いわ、何やってるのかしら」
「様子を見てきます!」
そういうとライダーは隼人の様子を見に屋上へ向かった。
「アイツ…サーヴァントとの付き合いに悩んでいるのかしら」
ライダーがトーマスの首を獲ってからの様子がおかしいのは何となく察してはいたが……
「重症なら、少し発破かけますか」
私が聖杯戦争を勝つために必要な相手だ、こんなとこで脱落されては困った所では無い。
さて、とりあえずアイツ連れて家で話し合いにしますか
穂乃果 side out