君はとても……温かった。
今、ここにいる自分達はただの紛い物。
そう……あの人に言われたのはつい先程だ。
「…この辺りなら、大丈夫ですね」
……ユーマ=ココヘッド。
敵だった筈の彼に連れられ、僕達は日光が当たらない場所に来た。
日光が当たった時の、身体が焼け爛れるような痛みはもう感じない。
だが、そんな事は…どうでもよかった。
「皆さん、身体は大丈夫ですか?何か不調を感じていたりしませんか?」
彼が僕達を気に掛けている。…けれど僕達は、彼に返事など出来なかった。
普段はよく喋るデスヒコとフブキも、寡黙でも表情は動く方のヴィヴィアも、
そして僕も……何も言えなかった。
三年前のあの日から、あの人は変わってしまった。
だが、どれだけの年月が経とうとも、いつかは僕達の知っているあの人に戻ってくれる。
町の者達に嫌われようと、あの人がどんなに非情な事をしようとも、必ず…優しいあの人は帰ってくる。
そう、僕達は信じて……待っていたんだ。
「…さん。ハララさん」
「…………………」
「辛いなら、横になっても大丈夫ですよ。ボクが何か柔らかい物を…」
「……君は、知っていたのか」
「え?」
「僕達に日光が当たった時、君は自分の身を挺して影を作り、僕達を守ろうとした。部長に知らされたからじゃない、最初から…僕達には日光が危険だと知っていたかのように」
「…………………」
僕達に日光が当たり、身体があの痛みを感じ始めたあの時、彼は僕達から日光を遮ろうとしていた。……鬼気迫ったような表情で。
「君は……最初から知っていたんじゃないのか?僕達の、正体を…」
「…予想はしていました。でも……違っていて欲しいとも、思っていました」
「……だったら、何でなんだよ…」
ずっと黙っていたデスヒコが、口を開いた。
「オイラ達が…ホムンクルスだって、人肉を食べなきゃ生きられねぇ化け物だって……知ってたなら、何で、オイラ達を助けたんだよ!?」
「……私達は、ずっと……部長の側に居続けた。何故……あの人が変わってしまったのか、その理由を探していた。その答えが他でもない私達自身だったとは……何も知らずにいた私達は、あの人から見れば実に滑稽で、愚かで、……赦し難い存在だったろうね…」
「あの人を…ヤコウ部長を傷つけて、悲しませていたのはわたくし達。そうとも知らず、あなたを排除しようとしたのもわたくし達。……わたくし達には、あなたに慈悲をかけて貰う資格なんて無いんです。…それなのに、どうして……あなたはわたくし達を守ろうとするんですか…?」
デスヒコ、ヴィヴィア、フブキ、三人の言葉が……重い。
僕だってそうだ。もう……あの人には……
「…僕は、皆さんに慈悲をかけた訳じゃありませんよ。これは、ボクの自分勝手……ただのエゴなんです」
「…エゴ?」
そして彼は…僕達に語りかけてきた。
真剣な眼差しで、けれど……とても優しい表情で、
「確かに…皆さんの行いは、簡単に赦される事ではありません。ボクがこの街に来てからの、幾つもの事件にも皆さんが関わっていて、ボクも……皆さんを赦せないと思った事はありました」
「でも…皆さんが犯した罪がどんなに重い物だとしても、こんな形で終わってしまうのは……違うと思います」
「ボクが、言えた義理じゃありませんが……死ぬ事は償いにはならない。ボクは…皆さんに生きていて欲しいんです。どんなに辛くて、苦しくても……生きて償って欲しいんです」
「ホムンクルスだとしても…構わない。だって、皆さんの中にある心は紛れもなく…皆さんだけの物じゃないですか」
「ヤコウ部長が、皆さんにとって掛け替えのない存在……だから、皆さんはずっとヤコウ部長の側に居続けたんですよね。あの人が、大好きだから…」
「ボクは…ハララさん達も、ヤコウ部長も、助けたいんです。ボク自身の、ただのエゴでも、皆さんを助けて……守りたいんです」
……温かい。
彼の言葉は、とても優しく……温かった。
いつの間にか、僕達は目から温かい物が流れていた。……………凄く、嬉しかった。
「…ボクはそろそろ行きます。ヤコウ部長を止めて……これ以上、誰も……ヤコウ部長も傷つけさせないために。だから…皆さんは、ボクを信じて……待っていてくれませんか?」
ああ………君は、本当に…………
「っっ……頼む!あの人を……ヤコウ部長を………止めて……くれ。ユーマ……」
「はい、必ず」
そう言って、彼は僕達に背を向けて歩きだした。…けれど、不意にそれが止まった。
「…ボクが皆さんを助けた理由。実は、もう一つあるんです。皆さんからすれば、訳の分からない理由なんですが…」
背を向けたまま、彼が言った。
「どんな罪を犯していたとしても……皆さんには生きて、笑っていて欲しいからです」
顔だけを僕達に向けて、君は言った。
「ボクも、皆さんが大好きなんですから」
穏やかに微笑みながら、彼は……ユーマはそう言った。
その姿は、太陽よりも……温かいと、僕は思った。