『小さいねーちゃんと小さい樹』
「おかあさんとおとうさんはどこ!?」
「おかあさんとおとうさんにあいたいよぉ」
本当に参った。
小さくなったと聞いてはいたが記憶まで昔に戻っているとは思わなかった。
俺の腰にも届かない小さなねーちゃんとさらに小さい樹が両親は何処だとぎゃいぎゃいと騒いでいた。
正直にお袋さんと親父さんがもう居ないなんて言えるわけないしどうしたもんか……。
「アンタはしらないのっ!?」
「しってたらおしえて……」
「えっと、ねーじゃない、風と樹の両親は仕事で帰れないから知り合いの俺が2人の面倒を見る事になったんだよ。初対面の俺なんかじゃ嫌かもしれないけど少しの間だから我慢してくれよ……なっ」
本当の事は言えないから出任せで誤魔化すしかない。
樹は人見知りだからビクビクと怯えているし、ねーちゃんはそんな樹を守る為に気が立ってるみたいだし上手くいくかは賭けみたいなもんだ。
「アタシといつきはアンタなんかと『ぐうぅ~~~ぅ』……あっ」
どうやら小さくなってもねーちゃんが食いしん坊なのは変わらないらしい。
俺はしゃがんでねーちゃんと視線を合わせると優しめの声で伝えた。
「お腹空いたんだろ? ご飯作るから待ってな」
「う、うん」
「おねーちゃん……わたしも……おなかすいた」
「いつき……その、わたしよりもいつきに……」
「ちゃんと樹の分も作るから少しだけ待っててくれよ。樹も良い子だから待てるよな」
「……うん」
樹の頭を撫でながら言うと、ほんの僅かに微笑んでくれた。
んじゃまぁ、自分よりも樹を優先する優しい所は変わらないねーちゃんと、ようやく笑ってくれた樹の為にも美味しいご飯を作らなきゃな!
・・・・・・・・・・・・
「おかあさんのあじ!」
「おいしいね、おねーちゃん」
風も樹も小さい身体なのにパクパクとご飯を食べている。
どうやら2人とも俺の作った料理はお気に召したらしい。
その理由であるお袋さんの味って言ってもねーちゃんが独学で再現したのを教えてもらっただけで凄いのはねーちゃんなんだけどな。
俺と樹の為に料理の腕を磨いてくれたねーちゃんには感謝してもし切れない。
お袋さんと親父さんが居なくなってバラバラになりそうだった俺たち姉弟をねーちゃんが繋いで守ってくれたんだ。
樹だってそうだ。
樹は自分にはできることは何もないなんて言うけれど、俺もねーちゃんも樹が居なきゃダメだった。
辛いときや苦しい時も樹の笑顔が待ってるって思えたから、どれだけでも頑張れたんだ。
あの日、両親が亡くなって一人ぼっちになってしまった俺を家族だと言ってくれたねーちゃんと樹は俺にとってかけがいの無い存在だ。
だから今度は俺が2人を守らなくっちゃな。
「——ねぇ」
「ん、どうした風?」
「なんでアタシたちにやさしくするの?」
ズゴゴゴと勢いよく食べていた手を止めて、ねーちゃんは俺へと問いかけた。
隣の樹も思わず手を止めて、ねーちゃんと俺とを交互に見る。
何で……か。
2人が大切で掛け替えのない存在って言っても伝わらないよな……。
とりあえず思った事を言えば良いか。
「風は樹や他の人の為に頑張ったり努力ができて思いやりに溢れてる。樹は寂しかったり不安がった子に優しくできて暖かい笑顔をくれる。そんな2人が俺は大好きだから優しくしたいし一緒に居たいんだよ」
俺に寄り添ってくれた2人の事を想い返しながらゆっくりと語りかける。
元の姿の時には絶対に恥ずかしくて言える内容じゃないけど、こんな時くらいは良いと思う。
「「…………」」
えっと、何か言って欲しいんだけどな2人とも。
俺が喋ってから無言で俺の事じっと見るのは止めて欲しい。
何か顔も赤いけど……。
子供って体温高いからこんなもんなんだっけ?
ともあれ、この食事が上手くいったのか、ねーちゃんも樹も俺に懐いてくれるようになり元の姿に戻るまでは姉弟仲良く過ごすことができたのは良かったと思う。
風呂や寝るのも一緒が良いと言われたのは驚いたけど……まぁきっと忘れてるしセーフだと思いたい。
・・・・・・・・・・・・
「ねーちゃん、風呂沸いたぞー」
「だ、駄目ッ!……えっと、入って来るわね」
「……」
「樹ーそろそろ寝る時間じゃないかー」
「ふえっ!……うん、おやすみ……なさい」
「……」
——全然セーフじゃないっぽいのだがどうすればいいんだろうか……。
どうしよう、どうしよう。
あれからワイの顔がちゃんと見れない。
どうしよう、どうしよう。
お兄ちゃんと顔合わせられないよぅ。
「——そんな2人が俺は大好きだから優しくしたいし一緒に居たいんだよ」
ワイのせいだ——
お兄ちゃんのせいだ——
((同じ人を2回も好きになっちゃうなんて——))
END