導入
私は何処で間違えた。
四方を同胞の血痕で囲まれ、八方を霧に囲まれ、土気色を通り越して灰色になった手に『柔らか』でもなくなった己の手を這わしながら、唯一枯れなかった呻き声を溢す。
ガラガラと醜い声は痛みを訴えるのに、それでも音は刻まれ、霧に跡を残せず掻き消える。両の手では足りない声を、歌を、思い出を、汚い音と呼ぶ事も憚る程掠れた名残りが塗り潰していく。
「おや、人が居るとは思わず失礼しました。私、死んで骨だけのブルックです。
葡萄茶色のスパンコールをばら撒いた様な舞台の上に、スレンダーなお嬢さんが憂いを帯びた顔でお座りになられているのはなんとも刺激的ですねぇ。ところで、パンツ見せてもらっても?」
幻聴かと思ったけれど、こんな事を言う幻覚を産んだのが自分だと思いたくなくて、視線だけを声の方に向ける。同胞達と対して変わらない姿をしておいて、酷いモジャモジャ頭の男は私が想像出来る筈もない酷い着こなしでお辞儀をしていた。