導入部
新たな部屋へと入ったラヴィーネとカンネ。カンネは壁から突如出現した触手に巻き付かれ、助けようとしたラヴィーネともども壁を背に貼りつけられるように拘束されてしまった。
抗う二人の前に人型の魔物が姿を現した。女性の様なシルエットではあるが、顔の作りは明らかに人外のそれであった。
『私はユリンザーム<百合影鬼>。この迷宮に棲む者…。安心しなさい魔法使いの娘達よ。私の力の源は命の力にあらず心の力…逆らわなければ命を落とすことはありません…』
「御託はいいから離せ!」ラヴィーネは氷の矢を放とうとするが発動する気配がない。
『その触手は魔法の発動を封じる力があります。諦めて私に力を提供するのです』
魔物はラヴィーネの口を強引に開け、指を入れ、指先から口内に霧状のものを噴霧した。
少しむせはしたが痛みや眩暈といった異常はなく、臭いもない。
吐き出さないようにラヴィーネの口を抑えつつ、カンネに対しても同じ様に霧状のものを口内に放った。
『これは心身を徐々に衰弱させる毒。いわゆる遅効性の毒液です。生半可な毒消しは効きませんよ。ただし…この毒は実は2種類ありまして、その2種類を混ぜ合わせると効果が消滅してしまいうのです。そして今、あなたたちには別々の毒を仕込ませました』
「どういうこと?ラヴィーネと私への毒を合わせれば毒の効果が消えるってこと?」
『その通りです。ですが、口の中にしっかり撒きましたからねぇ…直接毒を混ぜ合わせないとダメでしょうねぇ』
「待てよ、それってつまり…」
『片方の舌を中に入れて口の中をまんべんなく舐めまわせ合えばお二人とも助かるということです。あぁもちろんちゃんとできたら解放して差し上げます』
「…!!」流石に自分たちに何を要求しているのか察したカンネの頬が赤くなる。
「ざけんな なんでアタシらがこんなところでそんなことしなくちゃなんねぇんだ」
『嫌ならそのまま朽ち果てても構いませんよ?でも、勿体ないですねぇ。こんなに可愛いのに』
そういって魔物はカンネに顔を近づける
『私はこの毒を口内にも持ってましてね。そうですね。こっちの子だけは助けてあげましょうか』
魔物は舌を出してさらにカンネの唇に近づける
「い…嫌…ラヴィーネ…ッ…」
(カンネの唇が…あんな魔物に奪われる…?…カンネ!…私なら…私しか…)
「ま、待て、分かった! だからやめろ!お前は離れろ!私がやる!私がカンネを助ける!」
『…ふふ、よろしい。では、あなたにおまかせするとしますか…』
すると、ラヴィーネの拘束が解け、同時に魔物の姿が消えていく…
(消えた…、つってもどっかで見てるんだろうが…。だけどこれで私たちの毒を解除できるのは私たちだけってことか…)
部屋に残されたのは解放されたラヴィーネと…拘束されたカンネだ。
「ラヴィーネ!まずはこの触手を…」
「だめだ、こいつ魔法抵抗が物凄いぞ…私の魔法でどうにかできるか…だからまず毒の解除をするぞ」
「え?何言ってんの! 私を縛ったままでアイツの言われたとおりにすんの!?」
「時間がかかって毒が回ったら共倒れだろうが!だったら毒消し優先だろ!」
「ちょ…ラヴィーネのスケベ!」
「何だと!お前だけ見捨てて私だけ脱出してもいいんだぞ!私は速攻で教会に逃げ込むけどな」
「ひどーい!その間に私が毒にやられたらどうするの?」
「だからそうなる前に毒を解除しようって話だろうが…もういい、始めるぞ」
親友にキスするという背徳感がこの口喧嘩による苛立ちで薄まったのか、ラヴィーネは意を決してカンネの前に立った