「導き手」

「導き手」


※ぬいクルーシリーズですがぬいぐるみの登場は少なめです

地獄パート、流血表現、暴力描写あります(そこまで恐ろしくは書けないので軽めですが)

キャラ崩壊注意!

ifロー=ロー 正史ロー=“ロー” ぬいクルー=“キャラ名”で表記しています



久方ぶりにポーラタング号が浮上する。今回の島はそこそこ広いようだ

「俺達買い出しに行くけどローさんどうします?」

上陸の準備をしながらペンギンが尋ねる。最初の頃は俺が街に行くという度に行われていたお供を決めるじゃんけん大会もこの頃はすっかり行われなくなり、近場なら1人での探索も許されるようになってきていた。

「雑貨屋が見てぇ。時間が掛かるだろうから1人でいいぞ」

「あっ俺も行きたい!」

唐突にベポが声を上げる。雑貨屋になんの用事があるのかと首を傾げてベポを見る

「この街なんだか甘い匂いがするんだ」

ベポが俺にしか聞こえないように呟いた

(なるほど買い食いがしたかったがペンギンやシャチに怒られそうだから俺について来たいのか)

言わないでねと言うようにオロオロする姿が昔悪戯をして隠そうとしていた時のラミと重なる。俺はつい笑を零しながら

「あぁいいぞベポも行こう」

とベポをよしよしと撫でた

「ありがとうローさん!」

ベポがお礼にとガルチューをしてくる まぁ言わなくても

「はいはい行ってらっしゃい。余りベポに買い与えすぎちゃダメですよ?ローさん。晩御飯食べられるくらいにしといてくださいね」

バレてるだろうけどな

「〜♪」

この島でしか見たことが無いお菓子を数種類手に入れご機嫌のベポと雑貨屋へ向かう。中に入って店内を見渡すがぬいぐるみの類は置いて無さそうだ。最近ではメジャーなぬいぐるみは集めきってしまってクルー達と同名の生き物を探すのも大変になってきた。仕方ない土産だけ見て帰るかと思った時買い出しのメモを持っているペンギンと荷物持ちをさせられているシャチがひょっこり雑貨屋に入ってきた

「ローさん取り敢えず食料買こめたので俺ら先に船に戻りますね」

「あぁ」

(わざわざそれを言いに立ち寄ってくれたのか)

「それと、ここ街はずれにもう1件雑貨屋があってそっちの方がぬいぐるみとか置物系は多いらしいですよ」

にっこり笑いながらシャチが雑貨屋の場所を書いたメモを渡してくる

「最近欲しいぬいぐるみ見つからないって言ってたから、ちょっと聞き込みしてみたんです。キャプテンにはもう少し遅くなるって伝えておきますから行ってみたらどうです?」

「ベポも菓子ばっか食べてないでちゃんとローさんのお供しろよ?」

「アイアーイわかってるよぉ」

ペンギンにつつかれながらベポが気の抜けた返事をする。仲の良さを微笑ましく思いながら

「あぁ行ってみる」

俺は笑顔でメモを受け取った。

「じゃあ俺ら先戻りますね」

「あぁ気をつけてな」

ペンギン達と別れメモの通りに進む。本当に街から外れた所にあるようだ。人気が随分と少なくなってきた。 メモの場所にあったのは本当に開いているのかどうかも怪しい寂れた小さな店だった。一応オープンの札が掛かっている。ベポと顔を見合せ恐る恐る扉を開くギィっと軋んだ音を立てながら開いた扉の先には気の良さそうなおばあさんがのんびりとカウンターの奥に座っていた。

「あらあらいらっしゃい。大したものも無いけれどゆっくり見ていってねぇ」

入ってきた俺達に目を止めるとおばあさんはにこにこと微笑んだ

「街の皆はもう1件の方にしか行かなくなっちゃってねぇ最近じゃあお客さんは久しぶりなのよ。坊や達は何が欲しいの?」

「俺達ねぇぬいぐるみを探してるんだ。海の生き物のやつ。売ってる?」

ベポなんてすっかり気を許して普通に会話している

「海の生き物ね。ちょっと待っててねぇ奥にも幾つか仕舞ってあるはずだから……あぁほら……この子がいいんじゃないかしら」

おばあさんが羽先の黒い鵞鳥のような鳥のぬいぐるみを見せる

(もしかして……)

「白雁っていう海鳥なのだけれど知ってるかしら?白雁はねぇそれは綺麗な鳥でびゃっこうさまって言う極楽浄土に住んでる鳥と同じ字を書くんだよ。昔の人は海に出る時はお守りによく白雁の飾りを持ったもんさぁ。幸せな方に導いてくれるようにってね」

「へぇ……ハクガンにそんな逸話があるとは知らなかったな……」

「俺達の仲間もねハクガンって言うんだ。帰ったら今の話してあげようっと」

「そう……白雁がついてるなら坊や達はきっと安心だねぇ」

おばあさんは本当に嬉しそうに俺達の安全を祈ってくれていて……じんわりと心が暖かくなる。なんだか恥ずかしくて買った白雁のぬいぐるみに顔を埋めながら店を出た

「“ハクガン”が見つかってよかったねローさん」

「あぁ」

自分でも弾んだ声が出ているのがわかる。そのまま船に戻ろうと歩みを進め始めるが……

「あ!」

ベポが急に大きな声を出した

「どうした?」

「大変ローさんお土産見忘れちゃったよ!」

その言葉に俺もあっとなる。町外れの方にぬいぐるみがあると聞いて直ぐに向かったから結局お土産は買わなかったのだ

「この辺綺麗なお花咲いてるしそれお土産にしよっか。またしばらく海底に潜るし船内に飾ったら喜んでくれないかな?」

今から再び街の雑貨屋に行くと遅くなりすぎると判断したベポが道端の花を指さす。小さな花畑のようなそこは確かに綺麗な景色だった

「いいんじゃないか?」

「じゃあ俺ちょっと詰んでくる。結構凸凹してるからローさんはちょっと待ってて」

ベポが花を詰みにかけていく

(花を詰むシロクマ……可愛いな)

なんて思いながらハクガンをぎゅっと抱きしめる

(見つかってよかった)

ふと足元に羽が落ちたのに気づく。“ハクガン”から抜けてしまったと思い下を見て固まる

「えっ」

だってその羽は……白でも黒でもなく“ピ ン ク 色 ”をしていたのだから

「ローさん!」

ベポの大声にようやく意識が戻る。体当たりする勢いでこちらに飛びついてきたベポの肩から鮮血が飛び散った

「あっ……」

今まで幾度となく見た光景に身体が震える。これは……この攻撃は……

「随分と探したぞ、ロー」

ピンクの悪魔がにやりと笑いながら地面に降り立った

「ごめん!ローさん!」

恐怖で固まっている俺をベポが乱暴に抱えて走り出す

「なんだ鬼ごっこがしたいのか?」

楽しそうな声を上げゆっくりとした歩みでドフラミンゴは追いかけてくる。奴が指を動かす度ベポのからだから血が吹き出す。決して深い傷では無いそれは獲物を甚振り、何処まで逃げられるか試しているに過ぎない。奴の気が変われば一瞬で切り刻めてしまうのだろう

「ベポ!ベポもういい離せ!」

「大丈夫、俺は大丈夫だからねローさん」

痛みを堪えた顔でベポが無理やり笑う。まただまた……俺が弱いから仲間が傷つく

ぎゅっと唇を噛み締める。戻るべきだ。暴れてでもベポから離れるべきだ。わかっているのに行動に移せない自分の卑怯さが憎い

「うっ!」ドサッ

足を切りつけられたベポが転ぶ。俺の体も当然投げ出され転がった

「ローさん逃げて!もうすぐ……もうすぐRoomの範囲だから!だから走って!キャプテン達が絶対助けてくれるから!」

悲痛な声でベポが叫ぶ。その背中は白い部分が無いほど血だらけで……俺が逃げたらどうなるかは明らかだった

「フッフッフッもう終いか?」

悪魔がとどめを刺しに近づいてくる。俺は……

「もう辞めて!ドフィ!」

俺はベポとドフラミンゴの間に立ち塞がっていた。膝は笑っているし、涙も滲んで情けない姿だ。でも……俺だってキャプテンとしての意地があった。本当に守らないといけなかったクルーを俺は守れなかった。だからここでベポまで奪わせる訳には行かない

「勝手に出掛けてごめんなさい。ちゃんと戻るから……大丈夫俺の居場所はドフィの側だ。ちゃんとわかってるよ……」

「ローさん……」

ベポが悲しそうな声で俺の名を呼ぶ。最近では当たり前のように言えるようになっていた言葉を努めて明るく口に出す。声が震えないように意識しながらだから詰まり詰まりになってしまった

「ベポ……楽しい夢だった。……ありがとう」

涙が零れないうちにドフラミンゴの元へと駆け寄る。伸ばしたくなる手をぎゅっと握り込み俺は怪鳥の羽の中へとその身を委ねた。

(“ロー視点”)

「ベポ達……遅ぇな」

ペンギンとシャチから街外れの雑貨屋を見に行くから遅くなるとは聞いていたが……さっきからなんだか嫌な感じがして仕方がない。共鳴ほどはっきりとした感覚では無いからそれがなんなのか確信を持てずイライラと甲板を彷徨いていた

「キャプテン……なんかあの鳥変な動きしてません?」

ふと空を見上げてシャチが言った

「鳥?」

見上げてみると確かに1羽の鳥が円を書くように上空を旋回していた

(真っ白な体に羽先の黒い鳥だ。あの鳥はなんだったか……)

そんな事を考えていると鳥は見上げられていることに気づいたかのように旋回をやめどこかへ向かう。その動きに何かを感じて気づけば後を追っていた

「ちょっキャプテン!?どこ行くんです!?」

「あの鳥を追う!」

驚いたように叫ぶシャチにそれだけ伝えスピードをあげる。鳥は見失わない程度の高さを保って飛んでいた。明らかに着いてこいと言わんばかりだ。街を抜け林に辿り着く。鳥の姿が見えにくくなった時、今度は倒れているベポが目に入った

「ベポ!何があった!」

「ごめんキャプテン……俺、ローさんを守れなかった」

涙を零しながらベポが謝罪を口にする。その一言で何があったのか直ぐにわかった

「ごめっ……」

「もう謝らなくていい。とにかく手当するぞ」

ひとつひとつの傷は浅いが数が多い。このまま放置されていたら命が危なかっただろう。俺は止血に専念する。俺を追ってきたシャチやペンギンも加わり何とか手当が完了した

「そういえば……あの鳥どこいった」

ここに連れてきたあの鳥を探して空を見上げるが何処にも姿は見えないその代わりにローが買ったのであろう“ハクガン” のぬいぐるみが地面に転がっていた ベポの血に濡れたそれは……まるで涙を流しているようだった

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