専有

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⚠️ 🃏×🍞

閲覧注意

多分解釈違い多々

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「んん…ぷは、ジャック、さぁ」

「ん?」 

「…なんか、キス上手になった?前は舌うまく使えてなかったし息継ぐのも下手だったじゃん」

「……そうですか?まぁ確かに、こういう時に貴方にいつもリードされる側だったのは、すごく癪でしたけど」

「あはは、だってホントに可愛かったから…あ、これは厳禁、だったな?」

「……相変わらずで何よりだ」


呆れも安心も含んだ言葉だった。

彼がかの地を駆けていた頃とあまり変わったところがなかったということ、そしてその仕草や声色への安心と、安堵感。あとは――


「……今から俺に抱かれるのは貴方なのに。いつもいつも、俺よりずっと余裕がある…」

「えぇ、そう見える?俺だってこんな場面で何にも感じないほど鈍くないんだけど」


くす、と目の前の彼は柔らく笑う。この笑顔だって、何回も見てきた。唇を重ねるときも身体を交える時も、いつだってこうして笑っていたから。少なくとも俺が見てきた限りでは、彼は他のライバルにも人にも、こんな風に笑いかけることはなかった。

俺だけに向けられた笑顔で、俺だけが知っている表情。子供じみた独占欲を満たすには既に十分な筈なのに、どうにもむず痒くて、そして不愉快だった。


「……断じて、先輩のことを疑ってる訳では無いです。貴方に愛されている自信があると胸を張って言えるから。だけど、いつも俺だけが乱されて、いつまでも貴方に対等に見られていないような……」

「うん」

「…だから、たまには俺が先輩のことを乱したかった。先頭を走る貴方は確かにずっと必死だったけど、でも、そうじゃない」

「…うん」 

「ガキみたいだとか、支離滅裂だとかは分かってます。ただ、俺は貴方を……」

「ジャック、ジャック」

「なん……ぅわっ!?」


いつの間にかシーツに垂れていた尾を先輩のそれで絡め取られて、ついでに足首に引っ掛けられた足が俺の身体を随分肌触りのいい布地へと沈める。

場末のホテルに用意されたものとは思えないほど質のいい素材だったために衝撃は少なかったが、それでも強引に体制を変えられたせいか少しの間目を瞑った。


「……どうしたんですか、先輩。…心配する必要もなさそうですけど」


ほんの少しの暗闇の中で聞こえた小さな笑声に目を開けると、不満を乗せて目の前の明るい笑顔にそう問いかける。


「いいや?ただ、ジャックもそんなこと考えてやきもきすることがあるんだなって。ジャックにとって小さなことじゃないのは分かってるけど、ふふ…あのな、ジャック」

「…はい」 

「確かに、俺がジャックのことをいつまでも子ども扱いしてるって思うのも無理ないかもしれない。俺から見たジャックはこれからもずっと可愛い後輩だろうし、お互いがどれだけ歳を重ねてもきっとこれの延長線に過ぎないだろうから」


するりと俺の手に先輩の手が重なって、同時にもう一度先輩の尻尾が俺のものと絡んだ。


「でも、だからといってジャックのことを小さな子供とでも思ってるわけじゃない。だったら久しぶりに会えた日にあんな誘い方しなかったから」

「…随分、と、情熱的でしたもんね。俺がびっくりしました」


ぼんやり、頭の中で2時間も経っていないであろう前の記憶を反芻する。

数ヶ月間ぶりに会えることになって、夜22時を過ぎた頃にようやく彼の姿を見る事が出来て、「座りっぱなしで筋肉がおかしくなるかと思った」なんて笑って彼は冗談を言っていた。

しばらく話して、本当に久しぶりに一緒に走って。

何がどうしてそうなったのかはもう曖昧になってしまったが、気が付いたら誰の人目にもつかないような路地裏で、まるで今まで会えなかった分の穴を埋めるように、彼の方から俺を求めてきたのだ。ラブホテルなんて使うことになったのも、そういう経緯なわけで。


「…思い返したら、先輩の方からしたいって言ってきたことなんて、ほとんどなかったかもしれないですね。大体なし崩しか、俺の方からだった」

「俺も、したくないって訳じゃなかったけど。ただ、…ふふ、誘ってくるジャックが可愛かったもんだから。最初の頃は夜空いてますかって聞くのも緊張してたのに、いつの間にかスマートに誘えるようになって…」

「先輩、だから可愛いはやめてくださいって…」

「するときも、ずっと俺のこと気遣ってくれてたよな。自分がギリギリでも、俺のこと傷付けたくないし無理させたくないって…俺が大丈夫だって何回も言ったら、ようやく一緒にめちゃくちゃになってくれた」

「……先輩」

「ふ―……ね、ジャック」


しばらく仄かな照明のついた天井だけを見つめていた瞳が、不意に此方に向いた。

その瞳には、いつもの彼と変わらない快活さと、明朗さと…ある種の狡猾さが浮かんでいるようだった。


「俺はジャックに求められるのが、ジャックと求め合えるのが好きだ。お前のことを独り占めしてるって感じる度にいけない優越感を感じるし、いつも…ジャックの声や表情を1番近くで感じているのが俺だと思うと、幸せなくらい、気分が高揚する」

 

子供扱い、なんて。

思っていた以上に、自分は彼のことを分かっていなかったようだ。


「……先輩」

「うん?」

「…もう1回シャワー浴びますか?他になにか必要なことは?」

「いらないよ、あ、でも水の用意はよろしくね」

「それは、もちろん…」


上体だけを起こして、もう一度唇を重ね合わせる。今度は深いものではなく、バードキスを数回だけだ。軽い接吻を繰り返しながら、ゆっくりとまた彼に覆いかぶさる姿勢をとった。そして、その鹿毛の髪を一房掬うと、そこにも軽いキスをひとつ。


「ふ、やっぱりそういう……キザな仕草が似合うね、流石貴公子」

「どうだっていいですよ、貴方以外にする予定なんてないんだから」


天井の照明を消して、サイドチェストに置かれたライトの光を絞る。鮮明な光の消えた空間は、よりお互いの存在を感じるにはあまりに都合が良かった。


「いい顔見せてね、ジャック?」

「そちらこそ、パンサラッサ先輩。」


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