対PS装甲訓練

対PS装甲訓練

最近描いて無いが私は絵師でもある

アーモリーワン

淤能碁呂学園が管理する無人都市。

主に開発物の試験運用やあらゆる状況での戦闘を想定とした訓練の為に使用されており、淤能碁呂学園以外にも高千穂分校と戸隠分校も利用している。


「…ここって事は座学ではなく実戦訓練なんですか?」

「実戦形式の方が早いからな。お前は高千穂生だから急いで知識を叩き込む必要があるんだ」


亀夜シン────高千穂分校1年にして史上最速でFAITHに選ばれた期待の新人。

技術管理や治安維持を主とする淤能碁呂学園と違い技術開発を主とする高千穂・戸隠分校からFAITHが選出されるのは極めて稀であり、多くは淤能碁呂学園治安維持組織「ザフト」から選出される。

その事もありFAITHはザフトの任務に参加する場合が多い。

高千穂生であるシンはFAITH任命と同時にザフトの基礎訓練を行うことになったのだ。


「対PS装甲の戦術はFAITHとして活動する上で必須なんだ。頑張って覚えろよ」

「…はい!」

「それに近いうちにお前の所の開発チームへPS装甲を搭載した専用機の開発許可が下りるしな」

「え?もう開発してたような…」

「待てシン…本校と戸隠の承認無しでのPS装甲機体の開発は禁止されているぞ」

「…先輩方は「これはVPS装甲でPS装甲ではない」とか言って本校の承認を貰ってますよ」

「またやったのかアイツらは……」


FAITHのメンバーにはコードネームとその名を持つ専用機が与えられる。

今回教官役を務める藍髪の先輩は「ジャスティス」の名を与えられており、シンは「デスティニー」の名を与えられた。


────シンの告発(無自覚)で不正が発覚した為、開発中のデスティニーはハイスペック量産モデル「インパルス」として言い逃れする事になった。


「…まぁこの件は後だ。シン、PS装甲の基礎知識は身についているか?」

「そりゃあ高千穂ですし。電力を流して相転移現象を起こす装甲ですよね」

「そして物理衝撃を無効化する…それがPS装甲だ」


フェイズシフト装甲

通称PS装甲は一定の電流を流すと相転移する特殊金属でできている。

主な効果は物理衝撃の無効化。

戸隠分校が開発したこの装甲は、その特性から淤能碁呂学園が厳しく管理している。


「ザフトが取り締まる相手にはPS装甲機体の無断開発や学外への流出を図る者がいる。その際にPS装甲機を出してくる事を想定した対PS装甲の戦術を練るのが今回の目的だ」


PS装甲の技術が流出された場合キヴォトスのパワーバランスが崩壊しかねない事態になる。

銃弾・爆弾・戦車砲・ミサイル…キヴォトスにおける一般的な攻撃手段が通用しないのだ。

それを防ぐ為にPS装甲の技術使用は淤能碁呂学園と戸隠分校の承認が必要となり、無断開発や流出は重罪となっている。


「て事は先輩と模擬戦するんですか?」

「そう言いたい所だが…ジャスティスは消滅したし代わりの機体は未だに技術的問題が解決してないんだ」

「だから僕を呼んだって事?」

「えっ…あなたとやるんですか?模擬戦ですよね?」

「生半可な相手ではシンとやり合えないからな」


シンの相手として呼ばれた茶髪の先輩は淤能碁呂学園最強の生徒。

最高評議会議長の右腕でありシンと同じ「高千穂のFAITH」

与えられたコードネームは…フリーダム。


「よし、模擬戦を始めるぞ。シンはこれを装着してくれ」

「これって別の開発チームが作ってた…」

「ザフトで正式配備が決定したんだ。ついでにこれの運用テストもしてもらいたい」

「僕はフリーダムを使えばいいの?」

「お前はストライクを使え…」

GAT-X105 『ストライク』

高千穂分校が開発した装着型戦術兵装「MS」に対抗して戸隠分校が開発した5機の試作MSの一機。

PS装甲と状況に合わせた換装パーツは後のMS開発に多大な影響をもたらし、後者の「ストライカーパック」は戸隠製MSの標準装備となった。

2年前の内戦中にとある高千穂生がやむを得ず搭乗した結果、高千穂のマッド達にPS装甲とストライカーパックの技術データをこっそり抜き取られた過去を持つ。

ZGMF-1000 『ザクウォーリア』

高千穂分校がストライクのデータを元に開発した次世代量産モデル「ニューミレニアムシリーズ」の一機。

ミレニアムサイエンススクールとは一切関係が無い。

継戦能力とコスト重視の為にPS装甲が採用されていない量産機でありながらストライクと同等以上の性能を持つ機体である。

特徴はストライカーパックを元に開発された「ウィザードシステム」


『二人とも配置についたな?』

『うん』

「はい」

『では模擬戦を開始するぞ!ザクが戦闘不可になるかストライクがフェイズシフトダウンしたら終了だ』

『「了解!」』



「フェイズシフトダウン…」


PS装甲を持つ機体にはフェイズシフトダウンと呼ばれる現象が発生する。

それは機体の内臓エネルギーが一定以下になり、相転移が維持できなくなる事だ。

PS装甲には相転移時に装甲色が有彩色化する現象があり、相転移が維持できなくなると装甲色がメタリックグレーに戻り第三者にエネルギー切れを悟られるという欠点を抱えている。

戸隠・高千穂双方がこの欠点改善を行っており、戸隠は被弾時にのみ相転移するトランスフェイズ(TP)装甲、高千穂は装甲へ流すエネルギー配分を調整・最適化することによる電力消費のロスを抑えたヴァリアブルフェイズシフト(VPS)装甲を開発した。


シンはフェイズシフトダウンを引き起こす為の策が三つ思い浮かんでいた。

一つはビーム兵装によるPS装甲の突破。

二つは実弾を当て続けて電力を多く消費させる。

三つは持久戦に持ち込み電力切れを誘う。


(あの人相手に後者二つは難しい…か)


被弾の瞬間は平常時以上に電力消費が激しく、実弾を当て続ける事でフェイズシフトダウンさせる事は可能である。

しかし、かつて高千穂がフェイズシフトダウンの実験に使用した弾薬の数はミサイル76発分。

多対一ならばともかく、一対一でこれを行うのは不可能に近い。


PS装甲は被弾していなくても電力を消費するため、持久戦になりフェイズシフトダウンした事例が過去に何度かある。

だがシンは持久戦を仕掛けてもこちらが削られると判断した。

MS操縦技能が同等でも実戦経験の差は…大きい。


シンに残された手段はビーム兵装による突破だけであった。



────瞬間


ビーッ!ビーッ!ビーッ!

「!?まずい!!」


即座に回避したシンの横を通る紅白のビーム。

ザクが隠れていたビルの壁を融解し、奥の建造物すら貫いた。


「アグニか!模擬戦だぞあの人!?」


ランチャーストライカーの主武装「アグニ」

その威力は掠めただけでMSの装甲を破壊する。


だがアグニはあくまで牽制。

目的は──隠れていたザクを見つけ出す事。


『──見つけた』

「!!」

ズバァァァン!!!


急接近したストライクのビームサーベルを左肩の対ビームシールドで防ぐ。

ストライクは専用ドローン「スカイグラスパー」の支援により戦闘中に換装する事ができる。

ザクを補足した瞬間に機動戦特化のエールストライカーに換装したのだ。


「くっそお!!」

バババババ!!


シンは右手のビームトマホークを対ビームシールドで防がせている隙に左手で持ったビームマシンガンを放つ。

しかし…


「効いてない!?」

『PS装甲はビームもある程度耐えるんだ…よっ!!』

「ぐぅっ!!?黙ってたなあの人…!!」


PS装甲は通常装甲よりもビーム耐性がある。

高威力のビームは防げないがビームマシンガンなどの低威力のビームは無効化できるのだ。


そしてストライクの蹴りを喰らい体勢を崩したザクに間髪入れず放たれたビームライフルがザクの機動戦特化兵装ブレイズウィザードの片側のスラスターを打ち抜いた。


「いつまでも…やれると思うなぁ!!」

ドドドドドッ!!


被弾したスラスターを切り離し、ブレイズウィザードに内臓された誘導ミサイルを放つ。

だがPS装甲のストライクにミサイルは通用しない。

────故にシンは、切り離したスラスターに照準を定めた。


『くっ!?』

ドカァァァァン!!


切り離したスラスターの推進剤とミサイルに誘爆しストライクを巻き込み、ストライクのビームライフルにも誘爆し大爆発を引き起こす。

その威力は凄まじく、周囲が炎上しガラスが全て弾け飛んだ。

だが…ストライクは軽傷。


(やっぱ爆発だけじゃなく熱にも強いか…)


PS装甲には強い耐熱性があり、MSサイズであれば大気圏突入時の高熱に耐える事もできる。

だがシンはそれを想定して次の手を打った。


バシュゥゥゥゥン!!!

『!?まずっ…!』


ザクウォーリアはストライクと違い戦闘中の換装ができない。

量産機の為換装用の支援ドローンが開発されていないからだ。

だからこそシンはあらかじめ各地にウィザードを配置していた。

換装したウィザードは砲撃戦特化のガナーウィザード。

戸隠のアグニに対抗して生み出されたビーム砲「オルトロス」

その威力はアグニを上回ると開発者は自信を持っていた。


ビルの上から放たれた魔犬の牙は────エールストライカーに喰らい付く。


ドカァァァァン!!

(これで機動力を潰した…この状況でランチャーを使ってくるはずがない…なら!)

「はぁあああああああ!!!!!」


シンはガナーウィザードを切り離しスラッシュ…近接戦特化ウィザードに換装。

そしてビルの屋上から爆風の中に突っ込み大型ビームアックス「ファルクス」を振り下ろした。



ガァァァン!!

『はぁっ!!』

(やっぱりか…!)


ファルクスを防いだのは水色の小盾──ソードストライカーのパンツァーアイゼン。

即座に後退して対艦刀「シュベルトゲベール」の薙ぎ払いを回避する。


『はぁ…はぁ…凄いねシン…ここまで動いたのは久しぶりだよ』

「そりゃどうも…!」


先輩から褒められたが、シンはあまり嬉しくない。

この先輩…模擬戦である事を半分忘れているのではないか。


『…ふっ!!』

「!…はぁっ!!」


二度目の接近。

互いが互いの得物を躱し、防ぎ、弾く。

拮抗する実力同士の末の接近戦。

だが────格闘のセンスはシンが上回る。


『なっ!?』

(かかった!)


幾度目の剣戟の末のフェイント。

ファルクスを振りかぶる直前に片側のスラスターを停止、機体が逆回転した。

その隙に無防備な右半身に大鎌形態のファルクスを振り回す。


────ファルクスはラテン語で「大鎌」を意味する。

ビームアックスの癖になんでファルクスなんだと淤能碁呂からツッコミが入ったので急遽大鎌形態への可変機構を入れたらしい。


「せいっ!!」


ファルクスの柄がストライクの右手にぶつかり、その衝撃でシュベルトゲベールを手放してしまう。

そして間髪入れず斧形態に戻したファルクスを振り下ろす!


「うぉぉぉぉぉっ!!!」


片や得物を振り下ろす者、片や得物を落とし無防備な者。

ビームアックスの前にPS装甲は無力。

勝負はついただろう。







────相手が淤能碁呂最強の生徒でなければ。





「────は?」


シンは目を疑った。

だが無理もないだろう…白羽取りでファルクスを止められたのだ。


『………』

「ガッ…!?」


そして腹に繰り出される蹴り。

だが…まだ攻撃は終わらない。


ガキンッ

「なっ…アンカー!?」


ソードストライカーのパンツァーアイゼンは厳密には小盾ではない。

盾としても使えるロケットアンカーである。


『でやああああああ!!!』

「うわああああああ!?」


空中に蹴り飛ばしたザクをアンカーで捕らえ振り回す。

建造物の壁に激突し、街灯に激突し、投げ飛ばす。


(なんだ!?急に動きが激しく……っ!?)


体勢を立て直したザクに向かって投擲されたビームブーメラン「マイダスメッサ―」

シンは反射的にビームガトリング「ハイドラ」で迎撃してしまう。


目の前を覆う爆風。

そして爆風から現れたのは────顔面を狙って投擲されたシュベルトゲベール。


「ヤバッ……ぐうぅ!?」


間一髪回避した直後に衝撃。

ストライクが再び蹴ってきたのだ。


この先輩、蹴り癖が悪い。


そしてトドメと言わんばかりに取り出したのは────対装甲コンバットナイフ「アーマーシュナイダー」

ビームでもない高周波振動ナイフだが、非PS装甲との接近戦では猛威を振るう。


キィィィィン!!!

『………』

「クソッ…防ぎ切れない…!」


シールド…マシンガン…トマホーク…

魚を解体するが如く丸腰にされていくザク。

シンは異常な反応速度になんとか喰らい付くも、もはやザクには防ぐ術が無い。

流れるように胸にアーマーシュナイダーが突き立てられ────────






────弾けた。



『……!?』


無意識か、計算通りか。

シンが遮るようにアーマーシュナイダーに刺したのは、ハンドグレネード。


ザクウォーリアには腰部にハンドグレネードが4発装備されている。

ハンドグレネードには種類があり、様々な状況に合わせて使用するグレネードを変更できるのだ。

ならばこのグレネードは?

高性能炸裂弾?テルミット焼夷弾?通常榴散弾?

否。これらはPS装甲には通じず自爆するだけ。

シンが選択したグレネードは────閃光弾。


カッ!!

『!?ぐぅ……!』


突然の閃光に目をやられてしまう。

無理もないだろう…今の彼女は異常に目が冴えているのだ。

この隙をシンが攻めないはずがない。


ガシッ

「捕まえ…たぁ!!」


ストライクに掴みかかるザク。

そして────────


「どっせい!!!!!」

『ぐえっ……』


────上下逆さまにしたストライクを抱えたまま座り込んだ。


PS装甲にはもう一つ突破方法がある…それは内部に衝撃を与える事。

ホプキンソン効果と呼ばれる現象がある。

簡単に説明すると、対象物に衝撃が加えられると圧縮されて内側に伝わるのだ。

着地体勢を取れず高所から落下した為に電装部品が破損し稼働不能になった間抜けなMSパイロットもいる。


シンは当初この方法に気が付かなかったが、ファルクスの柄がストライクの右手に衝突した際に先輩が衝撃でシュベルトゲベールを手放した事から、PS装甲の内側には衝撃が通ると仮説したのだ。


そして手っ取り早く相手を無力化…頭部に強い衝撃を加えて気絶させる手段を取った。

そう、パイルドライバーである。

アスファルトを砕く勢いで放ったこの技は、潰れた蛙のような声と共に先輩の意識を刈り取った。


※大変危険な技なので素人は真似しないでください




「模擬戦終了。お前達…流石にこれはやり過ぎだぞ」

「これは不可抗力ですよ…!」

「いや…うん、ごめん。ちょっとシンにかっこつけたかったというか…」

「いや…あれはシンじゃなかったらトラウマ物だぞ…」


模擬戦が終わり観戦していた先輩が疲労困憊の二人を回収した。

アーモリーワンはビルに風穴が空き、地面が抉れ地下道が露わになり、火事が発生している箇所もあった。

かなりの大惨事だが、もっと破壊規模の大きい実験とかが日常茶飯事なのでさしたる問題ではない。

一対一の模擬戦としては大問題だが。


「さて、PS装甲を相手にしてどうだったか?シン」

「マジヤバいっすね…ビームマシンガンが効かない時はどうすんだよと思いましたよ」

「物理衝撃を無効化するだけではないという事だ。疲れも溜まっているようだから今日は帰っていいぞ」

「そうっすね…お疲れ様でした」

「じゃあ僕もこの辺で…」

「お前は居残りだ。運動不足が酷過ぎる」

「職権乱用だよねそれ」

「面倒だからと屁理屈をこねるな!」




















半永久的にPS装甲を稼働できるMSが存在する。

それらは核エンジンが搭載されており、無限のエネルギーによるPS装甲の維持と高出力兵装の実現に成功した。

高千穂分校が生み出したこのMS達は兵器として2年前の内戦末期に投入され、多大な戦果を挙げた。

そして終戦後、現存している「フリーダム」を除いた全ての核動力MSの開発・運用を永久的に禁止する条約が淤能碁呂・高千穂・戸隠の間で締結されたのだ。



当時開発した連中が徹夜ハイテンションで開発した三機の機体を除いて────────

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