寝起き姿が可愛いのが悪い
神殿の廊下に靴音が反響する。機嫌が良いのか、時折鼻歌が混じっている。
男の名はテスカトリポカ。アステカ神話の主神格の一人であり、現在はメヒコシティの長でもある。そんな男が鼻歌を歌ってしまう程機嫌が良いのは何故か。それは・・・
「アイツがこんな時間まで寝てるとはな。珍しいこともあるもんだ。」
マスターを起こしに行く途中だからである。
オレを召喚した女、デイビット・ゼム・ヴォイド。コイツは合理性の塊とでもいうべき存在だ。一分一秒も惜しいタチらしく、とにかく無駄を省く。以前サングラスの場所を聞こうと声をかけたら「俺の部屋にある。」と一瞥もくれずに言われた時は流石に怖かった。
そんな女があと一時間もせず昼になるという時刻まで寝てることは滅多にない。あのハチドリが「体調でも悪いのでしょうか・・・」とガチめに心配するレベルだ。
だがオレは考えた。「これはアイツの寝顔を見るチャンスなのでは?」と。
アイツの朝は早い。ベッドの上で交わってそのまま眠っても、翌朝オレが起きたらアイツは服を一切の乱れなく着た状態でコーヒーを飲んでいる。こんな感じでオレは未だにアイツの寝顔を拝めずにいる。正直悔しい。
考え事をしていたらアイツの部屋についた。中から物音はしない。恐らく寝ているだろうと、ノックはせずにドアを開ける。
予想通り、デイビットはベッドで穏やかな寝息を立てていた。
あの美しい紫色の虹彩が見れないのは残念だが、その分長い睫毛やすっと通った鼻梁が強調されている。眉間の間の皺も取れて、普段より可愛らしい印象を受ける。・・・だが見た感じ少々顔色が悪いな。案外本当に体調が優れないのかもしれない。
「デイビット、そろそろ起きろ。」
軽めに頬を突く。存外柔らかくて何度かブスブスしてるとデイビットが目を覚ました。
「・・・ん、テスカ・・・?」
まだ若干寝ぼけているのかいつもより返事がフワフワだ。のそのそと上半身を起こしたがフラついている。こりゃ本当に具合が悪いのか?
てかコイツ寝起きの方が髪の毛が整ってるってどうなってんだ。いつものはぴょんぴょん跳ねた金髪ロングなのに、今は艶やかなストレートだ。若干片目が隠れている。普段の髪型も大変可愛らしいが、これはこれでまた別の良さがある。綺麗と言った感じだな。
「寝起きの姿もまた格別だな、お前は。」
「・・・うるさい。」
ぶっきらぼうに言い放って顔を背けるデイビット。しかし、見るからにしんどそうだ。
「随分と調子が悪そうだな。風邪でも引いたのか?」
「・・・わからん。今朝起きてからずっとこの調子だ。少し寝れば回復すると思ったのだが。」
成る程、この時間まで寝てたのはそういう訳か。だが原因不明の体調不良とは困ったものだ。下手したら今後の計画に支障が・・・・・・・・・ん、今朝?
「・・・デイビット、今朝何時に起きた?」
「?6時半ぐらいだな。」
あ〜そういうことか、原因分かったわ。
「すまん、オレの所為だわ。」
「・・・・・・は?」
「いやぁ珍しく早起きして散歩してたらよ、神殿の外壁がちょ〜っとぶっ壊れてた所があってよ。チョチョイと直したんだわ。魔力で。」
勝手に魔力吸い上げてゴメンな、と言うとデイビットは見るからに呆れていた。
「・・・次からそういうことは事前に言ってくれ。とにかく俺は暫く休む。」
そう言って二度寝ならぬ三度寝をしようとするデイビットは見るからに不機嫌そうだ。大方今日の予定のズレを気にしているのだろう。
まあ、今回はオレに非がある。仕方ないから手伝ってやろう。
そう考え、デイビットの肩を掴み引き寄せる。驚くデイビットに口付けし、舌を侵入させる。
突然のことに動揺したデイビットは顔を真っ赤にしてオレを突き飛ばそうとしているが身体に力が入っていない。
息が苦しくなってきたのか、口を離そうとするデイビットの後頭部に手を回し、離れないようにする。
暫く経って口を離すと、唾液が二人の間に線を作る。
「おまっ、なっ、いきなり・・・!」
顔を真っ赤にしながら口を拭うデイビット。本当にいつまで経ってもウブな反応をする。
「なあに、足りない様だから返してやっただけだが?それともまだ足りないのか?」
「ッ!いや、充分足りる。だから」
もう戻れ、と言おうとするデイビットをベッドに押し倒す。
「・・・ッ!」
「そう拒むなよ、悲しくなるだろ。」
いいだろ?、と耳元で語りかけて豊満な胸を揉むと分かりやすく身体が震える。ここで何も言わないと言うことはつまり・・・そう言うことだ。
「ホント、可愛い奴だよお前は。」
怒ったデイビットがそれから一週間ぐらいテスカトリポカの前に顔を見せなかったのは別の話である。