寒い夜は寄り添いたい

寒い夜は寄り添いたい

タイトルはこれ書きながらなんとなく思い浮かべた曲の歌詞からとっていたり

「んん……」


全身を締められるような感覚で目が覚めた。体感的にまだ起きる時間では無さそうだ。


「……あつい」


一人呟く。

暑いのも、全身ぎゅうぎゅうで苦しいのも、どう考えても眼前の先輩のせいだ。

夏場はエアコンをつけていたりどちらも半袖で寝ていたりでそこまで暑苦しさを感じることはなかったのだが、季節の変わり目、温度の調節が難しい季節になったことで、夏よりも暑さを感じるようになってきた。


「……こん、ちゃん……ん……」


どうにか離れられないかと腕の中で悪戦苦闘してると寝惚けたままの先輩が余計にくっついてくる。もう、知らない。


 * * *


「エピさん、やめましょう。添い寝」

「えっっっ!?な、なんで?一緒に寝るのいやだった?」


トレーニングを一通り終え、帰ってくると先輩が僕のベッドに座っていたので一日考えて温めておいた言葉をぶつける。

案の定、というか、耳をへなへなと下げてとても落ち込んでいる様子だ。が、ここで曲げない。毎日毎日あんなに締められていたら、いつか殺されるかもしれない。そう意志を強く持ち先輩の前に立ち塞がる。


「嫌、ではないんですけど……先輩があんまりにも締めてくるから、苦しくて目が覚めるんですよ」


これあげるからあっちのベッド行ってください、と僕のぬいぐるみを渡すと相変わらず耳と尻尾でしょんぼりを表現しながらも食い下がってくれた。僕のことを大切に思っているが故に、僕に被害が出るのは嫌らしい。それなのに縛ろうとしてくるから難儀なモノだ。まあ縛られること自体は嫌ではない僕も大概だろうけど。


 * * *


「さむ……」


今日の夜は冷えるなんて言っていただろうか。天気予報を思い返すが、そんな話はなかったはずだ。

じゃあこの、胸を締め付けるような冷たさ、寂しさはなんなのだろうか。

……本当は分かっている。先輩と数ヶ月間一緒に寝ていたせいで、一人に慣れないのだ。どうしようか、このまま寝付けないと明日のトレーニングにも影響が出る。かといってあんな事を言った後にやっぱり寂しいです一緒に寝てくださいなんて言えるわけがない。


「……うー……」


数分考えた後、そっとベッドを降りて、向こうのベッドへ行く。


「……せんぱい」


いつものようにくっつくのは無理でも、一緒の布団に潜り込むだけでも違うかもしれない。なんて考えながら布団を捲り、そっと足を入れる。先輩は一度寝たらなかなか起きないから、きっと気づかない、はず。


「ん……ふぅ」


物音を立てないようにしながらどうにかこうにか入ることに成功した。しかし、どうにもまだ胸が冷たい。

……先輩はこちらに背を向けているし、気づかないだろうし、いいよね?


なんて、心の中で言い訳をしながらその背中にぴったりとくっつく。

うん、いつもと違うけれど、これもいいや。

なんて考えているとだんだん瞼が重くなってきたのが分かる。これならしっかり眠れそうだ。と、微睡みに身を委ねてそっと目を閉じた。




「……ん、あれ、こんちゃん?」

「ふふ、こっち、きたんだ」

「……しかたないなあ、もうすこし、だけ……すぅ……」


珍しく先輩が早起きをしたはずなのに、僕を見て二度寝に走ったせいで、二人して寝坊して焦ったのは、また別の話。

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