宿儺戦前半
「宿儺の術式、それは……二種類の性質の異なる斬撃です」
直輝の脳裏に道真の思わず言葉がよぎった。
キンッ!
…戦闘が始まった瞬間、宿儺が大きく手を振ったかと思えば斬撃が飛んで来たのである。
「ぐっ…!!」
体術等が並みの術師よりも弱いレベルの直輝では、当然避けるどころか防ぐ事すらままならない。
が、溢れ出る呪力量で当たり前の様に相殺した。
「ふむ、やるな……御厨子を真正面から耐えた者はそうは居らん」
「さっきのが道真の爺が言っとった御厨子やろ!!エエで宿儺ぁ!もっと打ってきぃ!」
「クックック、うるさい奴だな」
望みのままにと言わんばかりに宿儺が大量の斬撃を飛ばす。
しかし、その全てを顔面やら腹で受けながら直輝はゆったりと刀を引き抜いて行った。
大刀のためにギチギチと鞘が歪な音を響かせる。
「術式開放、焦眉之糾……!!」
直輝がそう呟いた瞬間、刀身から、隕石が尾を引いた如く巨大な炎柱が立ち上がった。
「ほぉ、これは禪院家相伝の……」
ゴォゴォと荒い轟音を放ちながら直輝は不細工な構えを取る。
見れば、いつの間にか宿儺の斬撃は止んでおり、両者互いに行動を止めていた。
空気が熱く燃え上り、息をするだけで肺が潰れそうな程の緊張感が場を占める。
二人の眼と眼がぶつかり合う………
先に動いたのは、直輝であった。
全速力で駆け出しながら真正面に刀を振り下ろした。
「刀落とし!」
1日中掛けて考え抜いた技名を叫びながら。
対する宿儺は動じない、ばかりか何やらブツブツと詠唱を唱えて弓を射るような体制になった。
「■開(フーガ)」
キリキリと限界まで引き絞って、狙いを定めて直輝の刀にぶつける。
……ドォォン…ズズン…………
凄まじい衝撃波のせいで四方八方に溶岩が飛び散り、草木を焼く。
(フーガを喰らって生きていれば見ものだな)
宿儺がニヤニヤとしながら眺めていると、急に視界が開けた。
ゴリゴリと、炎柱が地面を削りながら迫ってきたのである。
あたりの砂ボコリを燃やしながら宿儺に目掛けて一直線に飛んでくる。
思わぬ攻撃に反応出来ず、肩から胸にかけてズバッと切り裂かれてしまった。
「これは……良いな」
「どうや宿儺ぁ!これは結構かなり致命傷やろう!!」
だが、宿儺は即座に反転術式で回復すると、直輝の眼を見つめて口が張り裂けんばかりに笑った。
「お前程の術師はこの三十年見たことがない……!良い、良いぞ禪院直輝…魅せてみろ!!」
「そうなん!?エエなぁ!俺も乗ってきたわ!」
両者のボルテージが上がる。
彼らは微笑みながら自然と手印を結び始めた
「「領域展開」」
平安時代最大規模の戦闘が、いま始まろうとしている。