実はこれで潜入捜査もやってる
ちょっと神経が太い一般人とベテラン警官用一郎のお話
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白石たちが勤務する網走署の地域は、治安があまり良くない。
変態のゴッサムシティだの米花町移転予定地だのひどい言われようだがその言葉が似合うくらい犯罪率が高くまた住民も神経が図太いのだ。それに比例して警察側も不思議な人物ばかりだ。
ある日の清々しい朝。
ひとりの男が公園で散歩をしている。通勤前に歩くのは気持ちがいい。気分が上がった男は無駄に周りの景色を見たりしていると、ふと向こう側の道で誰かが歩いているのが目に留まった。ゆっくり歩く逆立てた髪が特徴的な、小柄な老人。その向かう先には網走署がある。
朝の散歩ってわけじゃ無さそうだし、徘徊か。
内心失礼なことを思いながら男は通り過ぎていった。本当に覇気どころか生気も感じられない。
自分はああはなるまい。
また失礼なことを考えて、男は少し小走り気味に家に戻った。
その昼、会社の昼休みで男は昼食を買いに店に来ていた。パンコーナーで一個取って列に並ぶ。いつも通りの動きをしていると、突然店のドアが音を立てて割れた。
「金を出せ!大人しく全部持ってこい!」
強盗だ。複数人の覆面がズカズカと入ってくる。その手にはバットやナイフ、拳銃まである。店中から悲鳴が上がり、店員たちが急いでバックヤードまで走る。
突然の出来事に男が呆然と立ちすくんでいると、背後からいきなり口を塞がれ拘束された。反射的に出ようとするが首にヒンヤリしたものを当てられて、思わず動きを止める。
やばい。このままじゃ、死ぬ!
「オラァ!来てみろ警察ども!この人質が死んでもいいならなあ!」
男も必死にもがいてみるが、びくとも動かない。すでに騒ぎを聞きつけて警察は来ているが、人質に何かあったらとうかつに動けない。調子に乗った覆面がさらに声を上げる。
「情けねえな警察!この地域の治安維持してるんだからどんなもんかと思ってきたらこのザマ…」
バキン!
覆面が突然声をなくす。徐々に拘束が緩んで、男の真横にナイフがカラン、と落ちた。その場でへたり込む男。目の前で誰かがスタンと着地した。朝見かけた老人だ。しかし朝とは纏う空気が全く違う。
「いつの間に…おいジジイ!何やってくれてんだ!」
それを遮り覆面が大きくバットを二人めがけて振りかざす。老人は手に持っていた警棒を相手の方も見ずおもむろに振った。
「ごほ…」
何も言わず倒れる覆面。バットがうるさく地面に落ちた。
「店の中だ。欲しいもんがあるなら列に並べ」
老人はトンっと地面を蹴ると男の目の前からいなくなった。気がつくと覆面はほとんど腹や足を抑えてうずくまるか昏倒している。
「舐めやがって!」
覆面の一人が拳銃を構えた。その挙動に店内が一瞬緊張する。
ドガシャアアア!
瞬きする間に覆面の後頭部に自転車の前輪が刺さる。その勢いのまま覆面は倒れ、自転車もその背中に着地。自転車には強面の男が乗っていた。
ただ座り込んでその様子を見ていた男の前に、誰かがやってきた。
「怪我はないな?立てるかい、あんた」
そう言って手を差し伸べたのは、さっき覆面を一掃した老人。多分。顔立ちや見た目は朝のそのまんまだが、目つきが鋭いながらも優しく、纏う空気は強者そのものだ。
「は、はあ…」
男はゆっくり手を出し、その手を頼りに立ち上がる。
後ろのパトカーから後藤の怒鳴り声が聞こえる。
「おい!単車で店突っ込むとか何考えてんだ!」
「テメーの目は節穴か!自転車だろよく見ろ!」
「あっ本当だ!じゃねーよバカ降りろ!」
やいのやいの犯人の前で騒ぎだす稲妻と後藤の声で男はやっと意識を現実に引き戻した。
「もしまだ心配なようなら網走署まで連れて行く。それとも、職場に戻るか?」
「あ、いえ…戻ります」
荒れ果てた店を後にして、男は職場に戻った。
その日、男は帰って網走警察について調べていた。あの老人のことだ。特に記載はなかったが、後で人づてに聞いた。土井新蔵、用一郎と呼ばれる警官だったらしい。オンとオフの切り替えが激しく、そのギャップにやられる一般人も多数いるとか。
将来ああなりてえ!
男は朝と正反対の感想が出ているのに気がついた。
実は、土方と用一郎には密かにファンクラブがあることを本人と警察たちは知らない。